第328話 新しいホームサーバー



 ふぅ、姉さんが作ってくれた朝ご飯は美味しかった! よく考えたら、姉さんは手先は器用なんだし、やろうとしなかっただけで普通に出来るのかもねー! 問題は味付けとか火加減なんだろうけど、監督ありだったからその辺は大丈夫だったのかも!


「姉さん、いきなりなんで料理なのー?」

「美咲ちゃんが配信中にお菓子を美味しそうに食べている様子を見て、急に作りたいって――」

「わー!? 聡さん、それは言っちゃ駄目ー!?」

「いきなりお菓子はハードルが高いし、僕もお菓子は作らないから教えられなくてね。まずは普通の料理からって事になったんだよ。まぁ実際にやってみたら、飲み込み自体は早くて、特に問題らしい問題はなかった感じだね」

「全部言われた……」

「おぉ、そうなんだ!」


 そっか、そっか! 姉さん、今までただやってなかっただけで、やろうと思えば普通に出来たんだ! 姉さんって好きな事には一直線だから、興味さえ持ったのなら凄い美味しい料理をどんどん作るようになっていきそう!

 それにしても旦那さんの聡さんが姉さんに対して、そんな意地悪な感じの言い方をするのって珍しいねー? その辺、普段なら姉さんが嫌そうな事をわざわざ言う人じゃないのに。


「さて、葵? 他の人に知られたくないと思った事を、どんどん目の前で喋られる気分はどうだい?」

「……え? ……気恥ずかしくて、ちょっと嫌な気分?」

「それが美咲ちゃんが感じてた、表情から考えを読まれてコメントで書き込まれた時の気分だよ? 今のを不特定多数の大勢の前でやられたいかい?」

「はっ!? 美咲ちゃん、ごめんなさいー!」

「わー!? 急に抱き付かないでー!?」


 聡さんの意図は分かったし、姉さんが実感として分かってくれたのはいいけど、そこで抱き付く意味ってあった!? まぁ冷房が効いてるから、別に暑いって事もないからいいけど。


「よーし、お詫びといったらなんだけど、『サクラちゃん』としての衣装を1着全力で作ってあげましょう! えーと、こっちに置いてた和服で参考に出来そうなのは何かあったかなー?」

「それ、姉さんが作りたいだけじゃない!? というか、あっちに姉さんの全力は出さないでー!?」


 本気のプロの仕事を、私の配信に混ぜるのはなんか駄目な気がする!? 姉さんは凝り性なんだから、全力を出されたら一目でプロの作品だと分かっちゃうから! それは駄目ー!?


「こら、葵! それは止めなさい」

「あ、痛! むぅ、なんで止めるの、聡さん?」

「どうやっても作風に癖が出るんだから、『立花サナ』の名前に連想する内容は許可しないよ。少なくとも、美咲ちゃんがそれを望まない限りはね」


 私の方を見ながら旦那さんが姉さんを止めてくれている! ここは全力で乗っかるしかないし、全力で頷くのみ!

 姉さんが強引に作ってくれたとしても、最終的に私が使うの拒めば済む話だけど、それはそれで姉さんが悲しそうにする気はするもん! だから、可能なら今のうちに止めておくのが一番いい!


「それに葵が作ったら……多分、みんなの歯止めがかからなくなるよ? そういうのを作りたがってるのを、自重してる状態だしね」

「あー!? それもそうだったー!?」

「……え? みんなってなんですか?」

「ふっふっふ、美咲ちゃん、それは内緒!」

「僕と俊くんの方で色々と止めてるけど、まぁまだ知らない方が良いとは思うよ」

「え、私が知らないところで何か起きてるの!?」


 あれー!? 地味に兄さんも何か関わってるっぽいけど、何がどうなってるのー!? えぇ、誰も何も教えてくれないんだけど、一体何事!?

 今の話に出てきたみんなって誰!? 作りたがってるって、私のアバターの衣装? うぅ、何がなんだかさっぱりだー!?


「美咲ちゃん、美咲ちゃん! 配信用の和室の庭をどんな風にするのかはもう決めた?」

「え、その辺はまだだけど……」

「それじゃお姉ちゃんがその辺をアドバイスしてあげましょう! 聡さん、直接私が手を加えないのなら大丈夫だよね?」

「まぁあくまで美咲ちゃんが主体で作って、それでも良いという同意があったらだけどね」

「だそうです! どう、美咲ちゃん!?」


 なんか姉さんがぐいぐい来てるー!? うーん、思いっきり気になる事はあるけど、どうにも教えてくれそうな様子はない感じ……。聞いても教えてくれそうにないよね?

 そういえば姉さんに直接的にアドバイスを貰った事って今まで一度もないかも? 和風の庭って見た事はあっても、実際にデータとして作ってみるのも初めてだし、完全に手探りでやるよりは良いのかも?


「そういう事なら、姉さん、お願い!」

「お姉ちゃんに任せておきなさい!」

「姉さん、今はホームサーバーを使えないのを忘れるなよ?」

「あ、そうだった! えっと、それじゃ携帯端末の方でどんな庭にしたいかのイメージから固めて、ラフから書いていこー!」

「おー! そんなのした事なかった!」


 和室を作った時は実物を参考にしながらだったけど、それを実際に作る前に下書きみたいなのは用意した事はなかったよ! 完全に感覚だけで作ってたけど、この辺は姉さんはやっぱりプロなんだね!


「折角だし、葵の部屋から外を眺めながらやってきたらどうだい?」

「あ、それもいいね! 美咲ちゃん、それでいい?」

「いいよー! 頑張るぞー!」


 という事で、姉さんの部屋へと移動だー! うふふ、折角の機会だから、姉さんに色々聞いてみようっと! 私のは趣味の域を出ない程度の質だけど、それでも良い物にしたいって気持ちはあるもんね!


「……俊くん、少しいいかい?」

「コピーならまだ時間はかかりますよ?」

「いや、そこじゃなくてね。美咲ちゃんのデザイン関係で妙に自己評価が低いところが気になっているんだけど、葵は理由を教えてくれなくて……」

「あぁ、その件ですか。あれはちょっと色々と面倒な事が重なってまして……」

「……というと?」

「姉さんがプロデビューになって有名になり始めた頃、美咲の通ってた中学で姉妹だって話が広まってですね。その時の夏休みの課題で――」


 むぅ、なんか私にとって嫌な話題が始まってる気がする……。あんなのは思い出したくないから、姉さんの部屋へ急ぐのさー! 


「……美咲ちゃん、ごめんね?」

「姉さん、何の話ー? 表情から考えてる事を読んでくるのは、もうしないなら怒らないよー!」

「……その話じゃないんだけどなぁ」


 兄さんが始めた話の件なら……姉さんが悪い訳じゃないもん! 初めにリアルの桜をスキャンした疑惑を出してきて、その後に姉さんが売れ始めのプロだと知れ渡った瞬間に宿題をプロに作ってもらったとか言い出してきた連中が悪いだけだもん!

 自分で頑張って作ったのに、いくら否定しても誰も信じてくれなくて……手抜きでズルの偽サクラなんて呼ばれ続けて……うがー! 嫌な事を思い出したー!


「姉さん、早くやろ! お昼ご飯までに、大雑把なイメージを固めていくよー!」

「……うん、そうしよっか! あ、美咲ちゃん、どうせなら一緒にお昼を作ろっか!」

「おぉ!? 姉さんと一緒にお昼を作る日が来るとは思わなかった!」

「何気にその辺の扱いは酷いよねー!?」


 嫌な事はどこかに捨ててしまえー! 今は私が楽しんで出来る事をするだけ! さーて、どんな和風の庭を作ろうかなー? 前に姉さんがくれた資料の写真も沢山あるし、それらを参考にしつつ、姉さんのアドバイスを貰いながら頑張って作っていこー!



 ◇ ◇ ◇



 姉さんの部屋であれこれ悩みながら、いつの間にかお昼の時間になって、姉さんと一緒にみんなの分のお昼ご飯を作った! お父さんとお母さんは食べてくるという事だったので、4人分だったのです!

 まぁちょっと時間が遅くなっちゃって、簡単にそうめんにしちゃったけど。気付いたら13時を過ぎてたんだから、その辺は仕方ないって事で!


「美咲、個人認証を済ませてくれ。そしたらもうフルダイブは使えるぞ」

「おぉ、そうなんだ! サクッとやっちゃうねー!」


 この辺は毎年更新がある部分だから、やり方は把握してるのです! 役所に届け出をしてる生体認証の情報を、新しいホームサーバーで読み取らせたら良いだけ! ぶっちゃけ、手をかざすだけで終わるのさー!


「よし、あとは父さんと母さんが帰ってきて個人認証をしてくれたら移行は完了だな。姉さんと聡さんにもゲスト認証を発行するから、手をかざしてくれ」

「流石は俊くん、手際いいねー!」

「……変なお世辞はいいから、さっさと済ませろ」

「あー!? 地味に辛辣なんだー!?」

「……姉さんだけ、登録させんぞ?」

「わー!? 待って、待って!? はい、これで良いよね! 次は聡さん!」

「実際にホームサーバーの設置には資格が必要なんだから、大したものだけどね。これでいいかい?」

「そんなに大して難しい資格でもないですけどね。……よし、これでゲスト認証は完了。玄関の電子ロックの解除キーも発行したから、もう自由に出入りはいけますよ」


 ふっふっふ、これで完全に新しいホームサーバーへの移行は終了なのさー! いぇーい! 正直、何の作業をしてたのかさっぱり分からなかったし、途中からは見てすらいなかったけど、新しくなるとテンションは上がるよね!


「古いホームサーバーは一時的に姉さんの部屋に置かせてもらうぞ? 流石にリビングに置いておくと邪魔だ」

「うん、それなら机の上に置いといてー!」

「……俺が運ぶので確定か」

「それなら僕が運んでおくよ。流石に無理を言って使えるように残してもらったのに、そこまでしてもらうのは悪いからね」


 そう言いながら旦那さんの聡さんが古いホームサーバーを姉さんの部屋まで運んでいった。あ、地味に姉さんが顔を逸らしてる!? この反応は失敗したと思ってる時だー! でも、その気持ちは何となく分かる!


「姉さん、姉さん! 新しいホームサーバーで、あの和室に行こー! あそこで続きの作業をしたい!」

「それもいいね! 俊くん、もう出来るようにはなってるんだよね?」

「あぁ、設定は済んでるし、姉さんのフルダイブ用のゲスト認証も出しておいたから問題ないぞ」

「よーし、それじゃ続きはそっちでしよっか!」

「はーい!」


 新しいホームサーバーへの初のフルダイブで、配信用の和室の庭のデザインの続きをやっていこー! 多分、今日中に制作開始にはならないけど、それでもどこに何を作るかくらいは決まるはず!

 その辺まで出来たら、モンエボの今日の配信もやっていくのさー! あ、そういえば姉さんは我が家の中から視聴する事になるのかな? いくら何でも乱入はしてこないよね!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る