第255話 実況外の探検録 Part.12


【1】


 仮想空間の中に作られた和室の中に、立派な机の前に正座している銀髪の九尾の狐をモチーフの女の子……サクラがいる。これから実況外でのプレイを開始しようというタイミングのはずなのだが、意識は別の所に行っていた。


「こっちからでも普通にSNSは見れるし、書き込めそうじゃないですか!」


 なんだかおかしな事を言っているけども、機能を連携させているのだから当然の機能である。というか、その為の連携機能なのに、今の今までその使い方に気付いていなかったのか。……まぁ今それに気付いたのなら良しとしようか。


「えっと、モンエボのプレイの前にやっておきたい事があるんだけど……説明、説明っと! どこにあるかなー?」


 おーい、兄が作ったお手製マニュアルを黙々と読み始めるなー! 全然カメラの方に意識が向いてないけども、もしや録画が始まってるのに気付いていないのか? いやいや、いくらなんでも自分で録画を始めたのに、それを忘れ切って調整をしてるなんて事は……。


「えっと、これをこうして、こうかな……?」


 何をしているかが映し出されていない状態なのに、代名詞で話すなー! サクラが何をやっているのかが誰にも伝わらないから!


 何故か録画が開始になっている事に気付いた様子が無い為、代わりに説明をしておこう。今のサクラは、明日からの配信中に表示しておくつもりの『ネタバレ厳禁』と『配信時間18時~20時』の表示をいつでも呼び出せるように登録中である。

 毎回手動で出すのは忘れそうだからと、自動で表示されるようにも調整しようとしている。ただ、サクラがそのやり方が分かっていないため、兄の謹製マニュアルを見ながら頑張っている最中だ。


「えっと、多分これでいけるはず? 後は表示位置の調整だから、表示状態の確認をしながら……って、あれ? ぎゃー!? 既に録画が開始になってます!? わっ!?」


 慌てて無意味に立ち上がって、盛大に転ぶサクラであった。やっぱり気付いてなかったのか。この反応から考えると、誤って録画の開始を押してしまったのかもしれない。

 まぁ配信の開始とは確認のメッセージが違うから……というのは言い訳にもならないな。それはそれで確認のメッセージが出ているのだから、ただのサクラの不注意。それ以上でもそれ以下でもない、ただそれだけの事。


「えっと、えっと!? それじゃこれからモンエボの実況外でのプレイを始めていきたいと……って、文字の表示位置がおかしいよ!? 少しお待ちください!」


 大慌てて起き上がってから正座をし直して、そのまま録画を継続しようとするサクラであった。まぁ『ネタバレ厳禁』と『配信時間18時~20時』を表示した巻き物が、サクラが転んだ拍子に顔を隠すような位置にズレていておかしなことに事になっているのはご愛敬。

 というか、仕切り直して撮り直せばいいだけなのだが、そのまま継続して進めようとするのがサクラらしいところである。いや、本当になんでそのまま押し切ろうとする?


「よし、これでいいはずです! それじゃ、木の育成からやっていきますねー!」


 完全に放送事故になっているけども、それでもそのまま録画され、ダイジェストの一部として保存されていく。開始部分から変に笑いを取ろうとしなくてもいいんだけどね!? 何はともあれ、実況外でのプレイの開始である!




【2】


 夜の帳が降りようとしている中、森の中に大きな桜の木が佇んている。前回、エリアボスのキツネを倒し、時間を飛ばす事は可能にはなった。


「さーて、サクッと時間を飛ばしちゃいましょう!」


 1日、間が空いたことでキツネを倒して意気消沈していたのも何とか回復しているようだ。まぁいつまでも落ち込んでいられたら、この先に進んでいかないのだからこれでいい。

 そうしてサクラは時間を飛ばし、時間帯は日暮れから夜明けへと変わっていく。進化を跨いだタイミングでの時間経過になる為、当然これが発生してくる。


「おぉ! 進化してる光が上がってますね! 今日、2回目ですけど、これはやっぱり迫力あります!」


 進化階位の段階こそ違うけども、ここでもまた森の中に多数の光の柱が上がる様子が見てとれる。まぁ移動しない木を育成する際には、この光景はよくあるものだが。


「それじゃ、近くに見えた光を目指して出発です! 進化ポイントを稼いでいきますよー! 戦闘モード(遠隔)で、根で一方的に仕留めていきましょう!」


 そうしてサクラは、森の中に伸びている根の伝って移動をしていく。ようやく本格的に成長体からの育成が開始である。サクラとしては、小さな分体を作る戦闘モード(分体)ではなく、根だけで攻撃していく攻撃モード(遠隔)を使っていくようだ。

 おっと、出発して早々に敵の姿が見えてきた。さて、どちらの戦闘モードにもメリットとデメリットはあるのだが、どういう戦いになってくるのか。


「あ、早速見つけました! 『識別』! えっと、Lv1の器用なリス……って、何か投げてきました!? 『根刺し』!」


 投擲を使う成長体のリスの登場である。ただし、サクラは根だけの状態での攻撃手段はまだ少ない。それと木では忘れてはいけない事があるのだけど、なんか忘れていそうな雰囲気なんだよなー。


「あー!? 根が、根が齧られてます!? ぎゃー!? HPの削られ方が早いんですけどー!? そういえば木は根が弱点でした!?」


 ライオンの方で何度も出てきているけど、木は根が弱点なのをやっぱり忘れていたようである。根でリスを串刺しにしてるのは良いけども、弱点を晒しているのだから当然の反撃だ。器用だからといって、近接攻撃が不可能な訳ではない。


「戦闘モード(遠隔)って、これじゃ駄目じゃないですかねー!? うぅ、(分体)の方に切り替えです! あ、これって本体のHPが減ってるじゃないですか!?」


 戦闘モードを切り替えた事で、地面の中の根から小さな桜がにょきにょきとかなりの速度で生えてくる。これぞ、動かない木特有の戦闘方法の1つ。というか、HP……正しくは生命の1割を削って作るのがその分体だから。その分体自体の生命は本体の3割くらいはあるんだから、1割消費ぐらいで文句は言わない! というか、その仕様に今気付くのかよ!

 弱点である根を晒して攻撃をし続けるか、本体の生命を削って分体を作り出すのが戦闘方法。それに文句があるなら、根で歩く手段を選びなさい! 『根の操作』を取れば、今からでも動ける木にはなれるから。


「まぁ良いです! これで倒すだけですよ! 『葉っぱカッター』! あ、大して強くないですね! ふっふっふ、分体の方なら根を攻撃されるよりも遥かにマシです!」


 なんだかんだで『器用な桜』に進化しているし、葉っぱカッターもLv2だから相応に威力は高い。分体のステータスは生命以外は本体と同じになるので、攻撃力としては申し分ないのである。

 そしてリスの投擲攻撃も、分体に大したダメージは与えられていない。種族の特徴として、生命と堅牢が高いから耐久性もあるのだ。


「それじゃこれでトドメです! 『根刺し』!」


 再使用時間が過ぎた根で、再びリスを串刺しにしていく。それでリスの生命は尽きていった。木での成長体の初撃破、成功である。


「器用なリス、撃破完了です! さーて、この調子でどんどん倒していきますよー!」


 意気込みは良し。まぁ下手に分体を作り過ぎなければ、本体の生命がそう簡単に尽きはしないので、その調子で頑張っていってもらいたいものだ。



【3】


 何度かの戦闘を終え、サクラの桜の木はLv3まで上がった。進化ポイントも16まで溜まっている。着実に育ってははいるのだけども、ここでサクラは問題にようやく気付く。


「ぎゃー!? なんで本体のHPが9割も削れてるんですかねー!? 何かに襲われてました!?」


 いや、それ、調子に乗って次から次へと分体を作っては消し、作っては消しを繰り返した結果だから! 生命の自然回復の速度を上回って、分体の生成に本体の生命を消費してたらそうなるよ! もっと早くに気付きなさい!

 モンエボではLvが上がっても全快しないのを忘れてないか、サクラ!? 視聴者のツッコミ不在は相変わらず変なところで作用するなぁ……。リアルタイムでいれば誰かしらが、その辺の危険性を指摘してくれるのだけども……。


「むぅ……しばらく大人しく回復するしかないですね。よーし、今のうちにスキルツリーで、新しいスキルでも見繕いましょうか!」


 うん、そうしておくれ。進化ポイントはそれなりに溜まってたのに、倒すの夢中になって、その辺を全然見てなかったからね。合間でチェックをしてくれていれば、その分だけ生命も回復してたんだけどなー。


「ふふーん、器用のスキルツリーにある『花びらの舞』とか良さそうですね! あ、でも知恵の『毒生成』も捨てがたいです。強いですもんね、毒!」


 あ、攻撃用のスキルの方を優先して見るんだね。生命の回復が出来る、生命のスキルツリーにある『水分吸収』とか、堅牢のスキルツリーにある『光合成』とか、その辺は興味無しのようである。どっちも第2段階だからお手軽な回復手段なんだけど、まぁそこはサクラの自由にすればいい事か。


「よし、決めました! 知恵の第4段階にある『毒生成』を解放しましょう! その手前の『知恵+7』もですね!」


 そうしてサクラは手早くその2つを解放していった。消費した進化ポイントは12、残る進化ポイントは4となった。これで毒を持つ動かない桜の木の誕生である。


「さーて、少しはHPも回復したので、お試しに毒を使ってみて、木の育成はそこまでにしましょう!」


 えーと、第2段階までのスキルならまだ取れるだけの進化ポイントは残ってるんだけど、それは良いのかな? うん、まぁただこれは早く試してみたいだけっぽい。まぁそれはそれで別にいいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る