第256話 実況外の探検録 Part.13


【4】


 森の中で生命が減って弱っている桜の木。まぁ生命は半分くらいまでは回復しているので、即座に死ぬという事はない。それを分かっているのかどうなのかは分からないが、その桜の木を操作するサクラの様子はこちら。


「さーて、毒の生成を試していきましょう!」


 毒を使えるようになった事でテンションが上がっているのであった。敵に毒を使われるのは嫌がるのに、自分が使う分には問題ないようである。いや、この辺りはサクラだからという理由でもないか。便利なものを使いたいのは、サクラに限った話でもない。


「えーと、確か衝撃波生成みたいにスキルに付与する感じって話でしたっけ。どうやるんですかねー? とりあえず発動してみましょうか!」


 ちょっと待って、ヘルプに追加が出てるから! 通知をスルーしないで! そこ、左下に【毒の付与の仕方について】って、思いっきり出てるからー!


「『毒生成』! あ、これで付与する毒を選ぶんですか! 今は『微毒』しか選べないですけど、まぁいいです!」


 一応は、正しく使い方は認識してくれたようである。視聴者からのツッコミとは違って、ここからのツッコミはサクラには届かないんだから、ツッコミが必要な行動は出来るだけ自重して欲しいものだ。……本人にその意思が合ってやってる訳じゃないから、自重出来るようなものでもないのが厄介だな。


「えーと、これでどうすれば……? この状態でスキルを使えばいいのんですかねー?」


 それはその通りなんだけど、分からないならヘルプを見ろ、ヘルプを! ツッコミ不在の時に、その迷走は止めなさい! そういう部分がドジっ子だと言われる事に繋がってるからね? 今は視聴者側が自重してるだけで、言わないのが暗黙の了解になってるだけだからね?


「うーん、先に敵を見つけてからにすればよかったですね。それじゃ敵を探してみましょう!」


 毒を試しに使うのはいいけども、何に毒を使うつもりだったのか謎なサクラである。敵がいない状態で、どうやって効果を試すつもりだったのだろうか。いやまぁ、その辺に生えている普通の木や一般生物でも試せるけど、敵を探してる時点でそれは考慮していないのは間違いない。


 ともかく、サクラは視点移動モードで森に広がる根に沿って視界を移していく。この視界の移動だと、ライオンと違って転ぶ余地がないので地味に安心して見ていられる。……仮にサクラが根で歩いていた場合は、どれだけ転んでいるか分からないものだ。

 そうしている間に、目の前にはオオカミが現れた。思ったよりは早い敵の発見である。爪周りの体毛が白くなっているので、屈強での進化の個体だろう。


「あ、割とすぐに見つかりました! えーと、この状態で識別は……って、誤発動したんですけど!? これ、識別に毒が付与されたりしないですよね!?」


 使う意思を持って、スキル名を声に出せば誤発動する可能性は上がる。あと、識別に毒は付与されない。毒の付与対象のスキルは攻撃スキルに分類されるものだけである。

 識別で毒を使えたら、凶悪過ぎる性能になる事を考慮に入れてもらいたい。見ただけで毒って、どんな凶悪性能になるものか……。


「あ、大丈夫でした! それじゃLv3の屈強なオオカミを実験台にしましょう! 『根刺し』!」


 サクラは地面の中の根から狙っている為、敵のオオカミは交戦状態になってもサクラを攻撃する事は出来ない。その優位性に気付いているのかは怪しいが、サクラは地面から微毒を帯びた毒の根でオオカミを串刺しにしていく。


「やった、微毒になりましたよ! って、ぎゃー!? 根に噛みつかないでください!? わっ!? HPがどんどん減っていくんですけどー!? 分体! 大急ぎで分体に切り替えー!」


 自分がライオンでプレイしていた時にやっていた方法で苦しめられてどうする。根が弱点だと分かっているのだから、もう少し攻撃方法を考えようか。まぁまだスキルの数が少ないから仕方ない側面もあるけども。


「はっ!? これで分体を消せば、後は勝手に微毒で弱ってくれる気がします! えいや!」


 そして、サクラは生成したばかりの分体を消していった。その手段は確かに有効だ。だが、敵の生命は減っていた方が倒すまでの時間は短縮できるし、単純に微毒だけでは削り切るのに時間がかかる。その事にサクラは……気付いてる訳がないか。


「さーて、これでオオカミが死ぬまで待機です! どのくらいで死にますかねー?」


 オオカミが微毒で弱っていくのを地面の中の根から観察していくサクラであった。オオカミの方も、サクラを攻撃する事が出来ずに右往左往としている。


 ……そんな状態がしばらく経ち、結構な時間をかけて3割ほどオオカミの生命が削れたところで微毒の効果が切れた。まぁ永続効果じゃないからなー。


「わっ!? 散々待たせて、効果が切れるってありなんです!? 微毒で『毒生成』『根刺し』! って、やっぱりこれだと噛まれるんですね!?」


 そりゃ交戦状態を維持したままとはいえ、オオカミを動き回らせずに安静にさせてたらそうなる。動きを封じる麻痺毒は別だが、微毒は敵を動かせて毒の回りを早くしてこそのもの。回復するだけの余裕を与えては、そりゃ回復しますとも。


「うぅ、なんか使い方を間違った気がしますけど、とりあえずこれで! 『葉っぱカッター』!」


 結局、再び分体を作り葉っぱカッターで切り刻んで倒すのであった。微毒はもう少し上手く使おう。一度交戦状態に入れば視点を動かしていくだけでも成長体の敵は追いかけてくる事も多いから、そういう小技を狙って欲しいところ。

 ちなみに根で串刺しにしている状態で分体を生成するのは、地味に根刺しの刺したままの状態のキャンセルを行う小技の1つ。だが、サクラはそれを知る事はない。


「なんだか無駄に時間がかかった気がしますけど、とりあえず木の育成はここまでです! ライオンの方をやっていかないとですね!」


 変に微毒だけで倒そうとして待つから、無駄に時間がかかっただけの話。まぁそろそろライオンの方を本格的にやらなければ、明日の配信までに次のエリアまでの道を切り拓く時間も無くなる。とりあえず今回の木の育成はここまでで終了となった。



【5】


 場所は変わって、今度は湧き水が見える森の中。森ではあるが、先ほどまでの場所とは違い、通り道はまるでない。根からの視点で這って移動していた状態と比べると、見える景色の視点の高さも少し上がっている。


「さーて、ライオンの方も進めていきましょう!」


 ライオンへと操作を切り替えて、配信外でのプレイの続きである。現在地は、配信の最後にいた湧き水の場所。そして、今回はやるべき事がある。


「思ったよりも木の育成の方に時間をかけちゃったので、サクッと南端へ向けて道の開拓をやっていきましょう!」


 明日の配信の予定としては、この渓流エリアの南側のエリアへ進むところからスタートだ。その為に、そこまでの道のりを確保しなくてはならない。まぁ別に切り拓かなくても川岸まで出て普通に歩いて進んでも良いのだが、それはそれで面倒なようである。


「今なら敵が出てきても大丈夫なので、実験も兼ねてこれでやってみましょう! 最大威力がどんなものか、気になるんですよねー! 『獅哮衝波』!」


 攻撃範囲をまだ正確に把握していないのに、何を根拠に大丈夫だと言っているのかは分からないが、そこを気にしても仕方ない。もうサクラの自由にやってくれればいい。


「あ、1段階目までの為の間はホントに動けますね! とりあえず、これでどの程度の破壊が出来るか試してみましょう!」


 いきなり最大威力が気になるとか言いながら、最小威力での発動にいきなり目的が変わった。まぁそれぞれの段階の威力を把握しておくのは重要だから、問題はない。1段階目までの溜めの最中に移動出来る事の確認も大事である。


「あ、もう溜まりました。1段階目の溜めは早いですねー! それじゃ1発目、発射です!」


 そうしてサクラは南側に広がる木々に向けて、獅哮衝波を撃ち出していく。獅子咆哮での衝撃波をより収束させて放たれたそれは、行く手を塞ぐ木々の幹を抉り取り、森に風穴を開けていく。


「うわー、凄い威力ですね!? でも、破壊の程度は獅子咆哮くらいと変わらない気もします?」


 所詮はまだ1段階目までの溜めでの攻撃。攻撃範囲の事を考えれば、総合的な威力としては獅子咆哮の方が優秀であるとも言える。まぁ範囲が違えば用途も違ってくるため、単純な比較は出来ないが。


「でも、これは切り拓いていくのが随分楽になりそうです! 再使用時間が過ぎるまでは、通りやすいように整えていきましょう! 『爪撃』『連爪』!」


 そうしてサクラは、ただ無造作に倒れただけの木々を爪で切り裂いて進んでいく。まぁ流石にそのままでは倒れていない部分まで進むのも大変だしね。


「あ、そういえば忘れてました! 『看破』!」


 その途中でふと思い出したように看破を発動していく。それ、最初に使っておくべきだから、忘れないように! 今回は獅哮衝波の影響範囲に敵がいなかったから良かったけど、巻き込むリスクは獅子咆哮と同じなのを忘れてはいけない。



【6】


 それからサクラは、再使用時間が過ぎれば獅哮衝波を1段階目まで溜めて使い、再使用時間になればその間に通りにくい場所の処理をしていくという形で森を切り拓いていった。

 切り拓くとはいっても、倒れた木が取り除かれている訳ではなく、倒れた木の上に、ベつの木が更に倒れて積み重なっているだけだが。倒れたドミノみたいな状況と言えばいいだろうか。まぁ通りやすいように多少の位置調整はされた結果である。


「ふぅ、何とか南端まで辿り着きましたね! 思ったよりは早かったですけど、それでも結構時間がかかりました! そろそろ時間切れなので、ここまでにしておきますねー!」


 って、おーい! 獅哮衝波の2段階目と3段階目の威力確認はどこ行った!? 確かに切り拓くのは優先ではあったけども! 合間で戦闘もあったから、時間切れも仕方ないとか思うけど! 


「それでは、また明日の配信でお会いしましょう!」


 なんだか狐っ娘アバターが達成感で充実したような表情を浮かべながら、今回の実況外のプレイは終了となった。これ、途中から完全に2段階目と3段階目の確認を忘れてるだけだよね!? まぁそれは配信中でも確認出来る事だから、別に問題はないか……。

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