第222話 実況外の探検録 Part.11
【4】
森の中に広げた根を伝い、サクラは森の中をどんどん探索していく。移動しないという特殊な育て方をしているが、その隠し効果で『範囲拡大』の範囲が通常よりも広い事を今のサクラが知る事はない。
「蝶の発見です! 戦闘モードに移行して『葉っぱカッター』! ふっふっふ、楽勝です!」
そんな感じでサクサクと見つけた幼生体の敵を倒しつつ、活動範囲を広げていく。進化ポイントもそれなりに稼いでいる。だが、未だにエリアボスを見つけられてはいない。そして悪い事に、そろそろ日が傾いてきていた。
「むぅ、日が暮れる前にはエリアボスを倒したいんですけど……流石に攻撃スキル1つだけじゃ効率が悪いですね」
どうやら、決定的な手数不足に気付いてくれたようである。『葉っぱカッター』がLv2になっていて威力が高めになっているとはいえ、効率が良いかといえばそうでもない。根での攻撃であれば、攻撃に移る際に分体の小さな木を生やす必要がないのだから。
そして、進化ポイントを得られるのはLv9以上の幼生体に限定される状況ではあるが、それでも多少の進化ポイントは得ているのだから。
「決めました! 進化ポイントは5ほどあるので、『根刺し』を解放しましょう! ふふーん!」
ご機嫌そうな感じで、サクラは根での攻撃用のスキルを解放し始めた。解放になったのは屈強のスキルツリーの第2段階にある『根刺し』と、その前提となる第1段階の『屈強+5』の2つである。
2つの解放で進化ポイントは4の消費。そして『根刺し』は、サクラの操作するライオンを何度か突き刺してきた事があるスキルだ。これでサクラは新たな攻撃手段を得た。
「さーて、解放完了です! エリアボスはどこですかねー? うーん、看破が欲しいです!」
そこで看破が欲しいって言われても、まだ進化ポイントが全然足りていないのだから仕方ない。というか、1種族目のクリア後だと進化ポイントをいくらか引き継いでスタートをする事が出来るのに、その辺を知らずにやっているのだからどうしようもない。ある程度の攻撃手段と看破の解放が可能なだけの進化ポイントを引き継いでスタートするのが定番化してる手段なんだけど……。
「とにかく、ひたすら探していくのみです!」
まぁ頑張ってとしか言いようがないので、頑張って。何がエリアボスとして存在しているかは、実際に遭遇するまで分からないのだから……。
【5】
もう間もなく、夜の帳が下りようとしている。だが、まだサクラはエリアボスを見つけられないでいた。
「エリアボスはどこにいるんですかねー!? はっ、リスを発見です! 『識別』! ……むぅ、Lv3とかいらないです」
途中からは経験値もろくに入らず、進化ポイントも得られないLv8以下の敵を避ける為に識別をするようになっていたサクラである。本体の木から離れた根で周囲を確認している為、識別した後にさっさと離れてしまえば根が地面の中に戻り、攻撃してこれない事に気付いたからだ。
まぁ移動しない木だからこそ出来る、裏技みたいな手段である。そしてそれはかなり便利に使えていた。
「もう日が落ちるじゃないですか! うぅ、ライオンの方もしたいのに、そこまで時間が足りるか怪しくなってきましたよ……」
SNSへのコメント返しに思った以上に時間がかかっていた為、実況外のプレイをする時間が削れている今日である。その辺の時間調整は、今後の課題だろう。
「あっ、キツネさんを発見です! わぁ、やっぱりキツネは良いですねー!」
相変わらずキツネが大好きなサクラであった。遭遇して喜ぶのはいいけど、そこで動きを止めないように!
「……エリアボスではありませんように! 『識別』! って、なんでそうなるんですか!?」
サクラにとっては非常に残念な事だが、このキツネこそがエリアボスである。そして動かないという選択肢を選んだサクラにとっては、ここでエリアボスを仕留める事は必須。そうでなければ、時間が飛ばせない。
「うぅ……でも、私はキツネさんを乗り越えてでも先に進むと決めたんです! 『根刺し』!」
そんな葛藤に満ちた声を上げながら、サクラは桜の木の根でキツネを串刺しにしていく。その攻撃を受けたキツネが暴れてはいるが、所詮は幼生体のエリアボス。成長体に進化しているサクラの桜の敵ではない。
というか、ゲーム内のデータだと色々と割り切っているのに、キツネ相手だけは悲壮感が漂ってきている。アバターの方も、辛そうに表情が歪んでいるくらいだ。
「キツネさん、ごめんなさい! 『葉っぱカッター』!」
そして、根から分体の木を出し、葉っぱでキツネを切り刻み、撃破していく。本当に色々と他の事には躊躇がない割に、キツネに関しては妙な躊躇のあるサクラであった。
「……撃破完了です。これで時間は飛ばせますけど……ちょっと気分を変えたいので飛ばすのは次回にしましょう」
あからさまに意気消沈をした感じのサクラは、そこで桜の木のプレイを中断した。まぁ目的自体は達成したし、その辺は気持ちの問題ではある。少し落ち込み過ぎな気はするが、悪い事だとも言えないのが何とも微妙なところなものだ。
苦手生物フィルタで出現しないようにも出来るが、それを選ばなかったのはサクラ自身。その辺りは適度に折り合いを付けながら進めてほしいところである。
【6】
湿原の中にある森へと場面は切り替わる。少しぼんやりとした様子のサクラの姿は、今はライオンとなっている。そして、こちらも夕暮れとなってきていた。
「……気分を切り替えて、こっちの時間を飛ばしに行きましょうか!」
ただの偶然ではあるが、桜の木もライオンも共に夕暮れの中で動く実況外のプレイとなった。そして時間を飛ばすという目的も同じである。
「さーて、出発です! 『看破』!」
そうしてサクラは移動を開始した。ただ、コメント返しに予定外に時間を取られている為、夜になるまではまだ時間がある。まぁエリアボスを倒した事で時間を飛ばせるようにある事の仕様は、昼夜を入れ替えるのではなくゲーム内の時間を5時間ほど飛ばすだけなので、夜になる前に実行しても特に問題はない。
「うーん、敵を倒すのは時間を飛ばしてからですね!」
その辺の仕様をサクラが正しく把握しているかは怪しいものの、まぁそれならそれでどうにかなるとは思うので大丈夫だろう。どちらかといえば、時間を飛ばした後に少し強くなる周囲の敵との戦闘が心配なところだ。
【7】
日が少し暮れ始めてきた頃、サクラは湿原エリアのエリアボスの蝶がいた付近までやってきていた。特にこれといって戦闘もなく、スムーズに移動をしてこれたのは運が良かったかもしれない。このエリアで最大Lvまで育ったとはいえ、それでもLv7の敵ならば襲ってくるし、そのLv相応に敵も強いのだから。
「ふー、無事到着です! それじゃ早速、寝て時間を飛ばしますね!」
ゴロンとライオンが森の中で横になり、そのまま眠りについていった。これで時間が5時間ほど飛ばされ、夕暮れになりつつある状態から朝焼けへと変わっていくだろう。
まぁこの辺りはゲーム的な演出なだけで、実際にサクラが寝ている訳ではない。というか、フルダイブ中に寝たら強制的にフルダイブは中断になるので、ゲーム内で寝る事は不可能である。
そうして少しの間を置き、ゲーム内の時間が経過して朝焼けへと変わり、サクラのライオンが目を覚まして起き上がっていく。というか、VR空間の方で狐っ娘アバターまでなぜ寝ている? そんなところまで連動してる作りにしてるんかい!
「さーて、これで時間は飛ばしました! それじゃ、エリア切り替えのとこまで戻りましょう! 『看破』!」
サクラ自身が寝た訳ではないのだが、なんだかすっきりした様子であった。根本的に気分の問題だったから、ライオンが寝てる状態ですっきりしたのだろうか? 何とも言えないサクラの不思議なマイペースさに起因している部分なのかもしれない。
「ふふーん! おぉ、川の中にLv8の強烈なトカゲがいますね! よーし、進化ポイント稼ぎも兼ねて、少しは戦っていきましょう! 陸地限定で!」
極端に短い訳でもないが、それほどプレイする時間が残っていない為、サクラは陸地で戦える範囲の敵と戦いながら移動するようにしたようだ。まぁ1回時間を飛ばした程度では極端に苦戦するほど強化されている訳ではないので、無茶な戦い方さえしなければ問題はない。
「それじゃ戦闘を頑張っていくのです! 『咆哮』!」
気合は十分。時間は不十分。サクラは果たして、無事にエリアの切り替え地点まで戻れるのか……。そこが大きな問題である。
【8】
「ぎゃー!? 待って、待って、待ってー!?」
朝焼けの森の中、そんな声が響き渡っていく。その声の主は……言わずと知れたサクラである。そして、どんな状況になっているのかといえば……。
「うぅ、ワサビがー!? 雷纏いでもっと倒せると思ったのに、生き残り過ぎてませんかねー!? 『放電』『放電』『放電』!」
3体ほどのワサビに追いかけ回されている最中であった。必死に逃げ回りながら、放電を繰り返して迎撃をしているが倒し切れる様子はない。逆にワサビ達の猛攻がサクラに襲い掛かっていく。
「わっ!? わわっ!? 才智が見えない隅っこに隠れてるとか、どんな嫌がらせですかねー!? 『身構え』! あー!? 麻痺毒!?」
何度かの戦闘を終えてワサビの群生地まで戻ってきた時に、才智のワサビが見当たらなかったので雷纏いで一網打尽にしようとしたサクラだったが、見落としていただけの事。そして、雷纏いの効果が切れて今の状態になっている。
まぁこれでも元々はワサビが6体いたのだから、それなりに頑張ったのだが……才智のワサビによって麻痺毒を受けたサクラのライオンは浅瀬の水場の中へと倒れ伏す事になった。
「うぅ、後で絶対に――」
そこまで言ったところで、Lv9の強烈なワサビが根を叩きつけてサクラのライオンは仕留められた。サクラのライオンもLv9までは育っていたのだが、数の暴力と才智の麻痺毒の前に敗れ去っていく。
そしてランダムリスポーンになっていく、サクラであった。まぁこの辺はよくある光景だが。
「うがー! 死にましたよ! ここ、どこですかねー? って、最初の入り口まで戻されてるじゃないですか!? えぇ、もう移動し直す時間ってないんですけど!?」
ランダムリスポーンをした先は、湿原エリアにやってきたばかりの場所のすぐ近くである。そこで実況外のプレイが可能な時間のタイムリミットが訪れた。
それほど時間がなかった割には、時間を飛ばし、Lv7からLv9まで上げ、進化ポイントも18まで溜めたのだから頑張ったものである。だが、場所だけは振り出しに戻ってしまったものだ。
「……うぅ、ワサビと乱戦なんかするんじゃなかったです。明日は移動からやり直しですか……」
そんな風にしょんぼりしながら、今回の実況外のプレイは終了となった。乱戦をすればこういう死亡がある可能性は忘れずにやって欲しいところである。雷纏いがあれば勝てると油断したのが敗因の一部ではあるのだから……。
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