第20話緑陰3

「あら。

 可愛らしい腰刀」


 あからさまに馬鹿にした口調で、歩み寄る渧幻姫ていげんきがトカゲの中を割って来る。

 長さにして一尺(約三十センチ)程。


「そんな刀じゃあたしの帯ひもも切れないんじゃないかしら」

 胸を強調するように身体をくねらせる。


「ふむ。

 今度機会があったら試させてもらうよ」

 左手に持ち替えた腰刀で自身の右手の人差し指を傷つけると、刀を納める。

 紅く筋を書く血液に、目を見張った渧幻姫が声を荒げた。


「殺せっ!」


 身体を丸めた緑陰を四方からトカゲが襲う。


「破邪。急急如律令っ」

 落ち着いた緑陰の声がはっきりと響いた。

 その瞬間、緑陰を中心に圧縮された霊力が弾けたかのように、轟音と共に爆風が巻き起こった。


 砂煙が上がり、緑陰を囲むトカゲも弾き飛ばされ、家屋や木に叩きつけられる。


「くっ」

 顔を腕でかばう渧幻姫も、吹き飛ばされはしなかったものの、長い髪や着物の裾が風を受けバタバタと音をたてた。


 薄っすらと辺りがへこんだ中心に、無傷の緑陰がたたずむ。

 その手には破邪の札。

 傷つけた人差し指で、札の文字の上から血の五芒星を書く。


「気付くのが少し遅かったな。

 数に限りがあるなら、一枚一枚を底上げするのみよ」

 トカゲに混じり、空を舞っていた妖魔も数匹地面に落下してきた。


(これで大分数は減らせたか)

 しかしこの方法はいちじるしく霊力を放出する。

(短期決戦だな)

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