第17話暗雲
空を覆う黒い雲は徐々にその厚さを増し、おミヨを背負って歩く私を雨の雫が濡らし始めた。
雨に当たらないように、境内の軒下に入っていた村の人が、私に気付き走り出てくる。
「妖魔は、どうなった?」
「おミヨは……」
気付いた男手が、おミヨの
「すみません。
私が見つけた時にはすでに……。
あの妖魔の心配はもうありません」
不安げな人々の顔の中におサナばぁちゃんの顔を見つけて、溢れ出そうになる涙をぐっとこらえた。
「村長と話がしたいのですが、まだここにいますか?」
奥の部屋に村長を通し、大まかな
黒い翼の妖魔の事、大岩の事、そしておミヨの事。
耐えるように瞳を閉じていた村長が、静かに顔を上げ口を開く。
「わかりました。
お一人で妖魔を打ち倒すとは、よくぞ成し遂げて下さいました。
ミヨの事は残念でしたが、当家に連れ帰り、手厚く
「お願いします」
「時に、大岩の中はもぬけの殻だったと。
元々鬼はいなかったのでは?」
そうであって欲しい。
村長の言葉の一つ一つに、ひしひしと感情が伝わる。
「残念ですが。
確かにあそこには何かがいました」
しっかりと瞳を見据えて言葉を紡ぐ。
「だがもういないっ。
自由の身になり、もっと大きな村に人を求めに行ったのだ」
そうだとも、違うとも言えない。
けれど、黒い翼の妖魔が刀隠れのことを知ってたのが気にかかる。
「
村長はそれだけ言うと立ち上がり、足早に去っていった。
精神の疲労に肉体の疲労、霊力の放出。
立ち上がれずに瞳を閉じる。
何がどうなっているのか、何が起きているのか。
まぶたの裏に浮かぶ兄様の顔に心細さが募っていく。
「薄紅ちゃん」
ふすまの隙間から、おサナばぁちゃんが顔を覗かせた。
「お湯を沸かしておいたからね。
湯浴みをしておいで」
そうだ、ずぶ濡れだった。
寒さは全く感じない。
いつのまにか、肩の痛みも脇腹の痛みもない。
もう、よくわからない。
「なんて顔をしているんだい。
大丈夫だよ。緑陰さまがじきに戻られるからね」
そっと、身体が包み込まれる。
温かい……。
「ばぁちゃん」
もう、堪えられなかった。
声を上げて泣く私をおサナばぁちゃんはずっと抱きしめていてくれていた。
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