第13話中庭2

 背中にカラスのような黒く大きな翼を広げた妖魔は、庭先に残る私に気が付くと敵意を向けて降下してくる。


 来いっ!


 印を結んだ指先に神経を集中させて、広げた両手を胸の前で交差するように引き寄せた。

 妖魔の背後から、舞い戻る破邪の札が翼を狙う。


 ボッッ!


 炎の噴出すような音と共に左の翼を穿うがった。

「ガアァッ!」


 薄く煙を上げながら羽を撒き散らし落ちてくる妖魔は、それでもどうにか体勢を立て直し、地面スレスレで大きく一度羽ばたくと弧を描くような砂けむりと共に着地した。

 左の翼は、明らかに角度が下がっている。


 せめて二枚は引き戻すつもりだったが、私の霊力ちからではここまでか。


 パンッ!


 今度こそ、両の手の間から散る紅い稲妻に刀の柄が姿を見せた。


「神刀〈紅桜〉参る!」


 乾いた地面を蹴り、抜刀しながら一足飛びに間合いを詰める。


 ヒュッ!


 空間を切り、妖魔の手に現れた錫杖しゃくじょうが〈紅桜〉の一撃を受けた。


「巫女の姿、〈紅桜〉貴様が刀隠れか」

 はっきりと響く妖魔の声に、耳を疑った。

 その一瞬に、下からすくい上げるような錫杖の動きが刀を巻き上げる。


「くっっ!」

 弾かれた刀はどうにか手を離れなかったものの、ビリビリと刀身を揺らしながら外へ外へと飛んで行こうとする。


 妖魔の放つ錫杖の一撃が、ガラ空きになった私の胴をなぐっ。


「くはぁっ」

 弾かれ、地面を転がる私の後を追って地面を滑るように妖魔が迫るっ!


 ギイィィンッ!


 体勢を崩しつつ、かろうじて受けた錫杖の一撃に私の身体は地面に叩きつけられた。

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