第14話 日暮里

 日暮里の住宅街にツチノコが現れたと聞き、フミカさんと見物に行った。


 駅舎を出ると、網を持った人や、旗を持つ添乗員に連れられた見学ツアーの一団がそこかしこを行き来しており、露天の店先にはツチノコまんじゅうが並んでいた。

「ツチノコフィーバーね」と、フミカさんは楽しそうに言った。

 しばらく大通り沿いにツチノコを探しつつ、探す人々を見物した。


 夕方、オミナエシの花を揺らす風が少し肌寒く感じ始めた頃、チャイムが鳴り、皆ぱらぱらと広場へ向かい始める。私たちもその後へ続く。

 広場に作られた即席の舞台の上では、すでにツチノココンテストが始められていた。皆、今日捕まえたツチノコの中から、最も珍しいツチノコを選び、審査を待つ列に並んでいる。


“さあお次のツチノコは、これは珍しい、ツチノコなのに胴が太くありません。まるで普通の蛇と変わりありません”

 拡声器越しに、コンテスト司会者の声が聞こえてくる。

“それでは、審査員の皆様点数をどうぞ……、5点、5点、6点、3点、マイナス8点、合計は11点です!うーん、思ったより点が伸びませんでした、残念!それでは、お次の方どうぞ……”

 大小様々なツチノコが次々と舞台上に登場する。現在の1位は、10秒に1回ゲップをし続けるツチノコのようだ。


“さてお次の方、どうぞ”という声を合図に、フミカさんが舞台上に現れた。いつのまにか列に並んでいたようだ。しかし、フミカさんが連れているのはどう見ても……。

“おーっと、これはなんとも珍しいツチノコです。見た目はどう見てもただのアリクイです。というか、これはツチノコなんですか?”

 さすがの司会者も疑問を持ったようだ。フミカさんの口に拡声器が当てられる。

 フミカさんは、“えっと、正直私、ツチノコがどんな姿か、よく知らなかったんですけど”と言うと、拡声器をアリクイの口に持っていく。

“よく間違われますが、私は確かにツチノコです”

 良く通る低い声で、フミカさんのツチノコはしゃべった。


 フミカさんは優勝した。

 舞台を降りると、アリクイはアリを食べ始めた。

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