第一章 始まりの幼少期編
1 新たな人生
どうやら俺は、転生したらしい。
名前は山田 広。化粧台にある鏡を覗き込むと、黒髪で銀の瞳を持つ幼子が映った。
性別が男だったのは幸いだろう。生まれ変わってから、最初に確認したからな。
年齢は今日で1歳になる。
成長過程で行われている育児は、自我を持っている大人にとって非常に受け入れがたい。
だが、生きるためには致し方ないので、しぶしぶであるが、甘んじている。
妙齢の女性の乳房を貪るのには、幾分か興奮した。
今まで触ったこともなかったからな。
赤ちゃん最高。
転生先は、元いた日本とあまり変わらないように思える。
生まれた家庭も、前世でよく見る一般家庭であろう。
しかし、いくつか異なる部分も見られた。
空を見ると、昼間なのに月が浮かんでいる。
第二の月と言われており、名称を輝月という。
昼間なのに淡く赤色に発光して見える。
綺麗だ。
「今日は洗濯日和ねー」
縁側で目を細め、寛ぐのは母の山田千里だ。美形であり、胸が大きい。
髪は森のような濃い緑で、地毛らしい。
何故髪の色が特殊なのか。
実はこの世界、“魔法力”というものが存在する。
大気中に一定量魔法粒子という原子が漂っているのだとか。
生まれたとき、皮膚が魔法粒子を取り込んで髪や目の色素を変化させるのだ。
遺伝子の影響もみられるが、不確定要素のほうが多いらしい。
また、魔法粒子の操作も可能で、火や水、土などを生み出す、魔法的技術を行使できる。
まだ見たことないけど。
詳しいことはわからないが、才能に左右されることが大きく、誰でもできるわけではないようだ。
超常的である。
『でははは、ぐへへへ』
……。
窓の外、肌が土気色で間の抜けた顔をした頭のおかしいサラリーマンがプカプカと浮かんでいた。
実は、霊も見える。
“霊感力”。人によって潜在量が決まっており、多いほど霊の輪郭がくっきりする。
俺は大分適性が高いらしく、リーマンの足のつま先まで確りと見えていた。
家族にも一応見えているようだが、顔は霞み、膝から下は透けて見えないらしい。
超常的である。
「ぬん! ぬん!!」
朝から庭で、100kgの鉄の棒を正眼の構えから振り下ろす男がいる。
父の山田泰三だ。体は筋肉質であるが、160cmと身長が低い。
焦げ茶の髪からは汗が跳ねる。
「ははは! どうだチサ、ヒロ! 今日も俺は光り輝いているよなぁ!!」
確かに、汗が太陽の光を反射している。
まぶしい。
母は呆れたような目で見守っている。
俺も同じ。
輝きとは無関係だが、人体を強化する力、“気功力”も存在する。
この力の台頭により、人の寿命が平均100年は伸びたといわれている。
使い方次第では、不老も可能だとかそうでないとか。
今までで最長、520年。
その人はギネス認定もされ、現在も記録更新中だ。
超常的である。
内側を操作し活発化させる気功力。
外部の事象へと影響を与える魔法力。
現世に存在しない対象へ干渉する霊感力。
子供部屋の子供棚に置いてあった“赤ちゃんでもわかる三大力”で読んだ内容から察するに、この3つが現世には根付いているらしい。
三大力を使って、社会に貢献しなさいという本だ。
……ちなみに、赤ちゃんでもわかると書いてあったが、中身は確りとした内容で、漢字も余すことなく使われていた。日本語だったので読めただけである。
前世ではなかったスーパーなパワーが存在している世界。
ヒーローになるなんて大願は、もう望まない。
社会への貢献?
クソくらえ。
善性があったとしても、全て無駄に終わるだけだ。
俺は自分のために力を使おう。
誰にも邪魔されない、圧倒的な力が欲しい。
最終的には弱者から金でもむしり取り、高級住宅街に別荘でも買って、一人でのんびりとゲームをして過ごすのだ。
夢が広がる。
そのためには、赤子の膨大な時間を活用して、徹底的に鍛え上げるしかない。
やってやるぜ。
あ、その前に。
「ママ」
母親に近づき、抱き着く。
「あら、甘えんぼさんね」
胸に顔をうずめ、呼吸を繰り返す。
しなやかな腕に包み込まれ、背中を撫でられた。
心臓の音が聞こえる。
前世では得られなかった、女性からの無償の愛。
子供というのは素晴らしい。
こんな汚れている俺でも、無条件で受け入れてくれるのだから。
自ずと瞳は閉じ、微睡に包まれる。
あー。あと十年はこのままでもいいかなー。
*
5年が経過した。
6歳となった俺は、現在幼稚園に年長として通っている。
生活する中でいくつかわかったことがあった。
この世界についてだ。
調べるきっかけとなったのは、2歳の頃、母と一緒にスーパーへ買い出しに行った時である。
遠くの空には、ビルよりも高い壁が世界を囲うように聳え立っていた。
驚きであごが外れた。
母に尋ねてみると、外来からの脅威から身を守るためにおよそ500年前、国が建設した土壁らしい。それこそ魔法力等をフル活用して。
小学生になったらその辺の歴史については学ぶとのことだ。
また、外の世界には、大量の魔獣がうじゃうじゃいるらしい。
怖すぎだろこの世界。
高級住宅街の夢は、なかなかに遠そうだ。
他にも、ファンタジックな事実が判明している。
リビングの角、充電コードに繋がっている10インチのタブレットを操作した。
納税の義務を守っていれば、国から一家に一台必ず配布される品だ。
【人体認証に成功しました。ステータス情報に接続します。】
名前: 山田広
気功力: 30
魔法力: 15
霊感力: 10
国は年に一度、教育機関や会社組織での三大力測定を義務付けることで、ステータスを一括管理しているのだ。
この世界では、三大力が何よりも重要視されている。
値が高いものは周囲から持ち上げられ、出世街道を只管まっすぐだ。
誰もが高水準を望む。
もちろん家族だってそうだ。
だが、俺は違う。
修行をして三大力を鍛えてはいるが、数字が公開されるのを許容することはできない。
表示されている情報も一般的な赤ちゃんの数字で、俺が偽装した結果である。
案外騙すのは簡単だ。
計測時に力の使用を控えれば、自然と値は低くなる。
自ら不利益を被る人が今までいない事実も、誤魔化す上で助けとなった。
――“目”をもっている者も少ない。
また、欺いた最も大きな理由は、変な虫が寄りつかないようにするためだ。
主に女関係。
力があるからとすり寄ってくる女は世にごまんといる。
想像しただけで昔を思い出し、気分が悪くなる。
前世のようには絶対ならないと、俺は生まれ変わってから誓った。
女に振り回される人生は二度とごめんだ。
俺は、自分の道を生きる。
測定結果はこのまま誤魔化し続けようと、再度、胸に宣言した。
ステータスに関しては、調べる方法が今のところ三大力測定以外にないので、自分の中では諦めている。
数字など見えなくてもやることは同じだしな。
どちらかというと、俺が重要視しているのは最近身に付けたこの“目”だった。
集中力を高め、目に三大力を集める。
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