第66話 さらば盗賊団!

 早速行動を開始した、我らラッキークラウン。

 盗賊団がアジトを作りそうな場所は、大体見当がついている。


「こっちだ。こちらに丘が連なる場所があり、洞窟も多い。盗賊やならず者が根城にするには持ってこいの場所だよ」


「迷いなく進んでいく」


「詳しいねえ……」


「獣道まで熟知しているのか」


 いかにも。

 俺はあっという間に丘の密集する地帯に入り込み、その隙間を縫って目的地に到着した。


 そこは丘を覆うように木々が生い茂り、それらが積み重なって周囲の見通しが利かない。

 丘の中腹に洞窟があった。

 そして、洞窟に繋がるように大きな小屋がある。


「本当にあったよ。道化師、あんた一直線にここに来たよね? 迷う仕草も無かったじゃないかい。一体どういうことだい?」


 ギスカが驚きを越えて呆れている。


「簡単なことだよ。いいかね? さっき我々が通ってきた獣道だが……あんなものは無かったのだ」


「は?」


「は?」


「はい?」


「なるほどな」


 ジェダが顎をさする。


「なんや! 何か察してるんかジェダ!」


「つまり、あの獣道は本来存在しないものだったが、オーギュストが王国を去ってから生まれたものだと言うことだろう。それにこの抜け目ない男のことだ。人間の足跡があることを確認して追ってきたな?」


「俺が説明するまでも無かったな。ジェダのいう通りだ。そういうことで、こうして簡単に盗賊のアジトに到着したわけだ。ちなみにここにアジトがあると確信したのは、明らかに何本かの木が切り倒された跡があったからだな。何かの建造に使ったのだろう」


「なんともまあ……。だが、お陰ですぐに盗賊が見つかった。さすがだなオーギュスト」


「いやあ、イングリドがぼーっと見つめていた先が偶然この丘でね……」


「そうなのか!」


 今回も、彼女の幸運スキルの力を借りた形になる。

 これに、俺は追跡スキル、記憶スキル、植物学スキルなどを駆使して盗賊団の跡を追った。

 俺と彼女が組むと、こういう探索の必要がある仕事はあっという間に決着がつくな。


「!?」


 盗賊の見張りがやっとこちらに気付いたようなので、大声を出す前にナイフを投げておいた。

 サクッと彼の喉に突き刺さり、盗賊は物も言わずに倒れる。


「躊躇なくやりよったな、今?」


「彼らは放置しておけば人を殺すし物を盗む。こうして将来の被害を減らしておくことは大切だよ。さあ、観客もいないんだ。サクサクと終わらせよう」


「あかん。オーギュストがやる気がない。この仕事はすぐに終わるわ。っていうかあのドラゴンゾンビの時のやる気はなんだったん?」


「あれは観客が多かったからなあ。オーギュストも張り切っていたんだ」


 イングリドが生暖かい目を俺に向けながら、剣と槍を抜いた。

 かくして、盗賊団のアジトに突入することになる。


 俺は先を歩き、最速で罠を発見、解除しながら突き進む。

 侵入者感知の鳴子も、飛び出してくる毒矢も発動しない。


 そして発見した盗賊を、片っ端から無力化していく。


 イングリドは槍を振り回して盗賊を殴り飛ばし、昏倒させる。

 ギスカの鉱石魔法が、盗賊を眠らせる。

 フリッカの呼び出した闇の妖精シェイドは、盗賊の精神にショックを与えて気絶させる力を持っていた。

 ジェダは壁や天井を蹴って盗賊に肉薄し、一瞬で絞め落とす。


 ワイバーンの群れを全滅させるようなパーティだ。

 たかが盗賊など、相手にならない。

 ましてや、不意打ちともなればなおさらである。


「何人仕留めた?」


 ジェダの質問に、俺は「二十五人」と答えた。


「それなりの規模の盗賊団なら、これでほぼ全員だろう」


「へ? これで終わりかい!?」


 フリッカが唖然とした。


「もっとほら、こう、盗賊団のボスとか! 強い用心棒とか!」


「物語の敵役ではないからねえ。さっきジェダが絞め落としたのがボスじゃないかな?」


「本当か……。歯ごたえが無いにも程があるぞ……」


 ジェダが呆然とする。

 うむ。

 何の盛り上がりもなく、さらっと盗賊団を殲滅してしまったな。


「で、どうするんや、オーギュスト? こんだけいると、生き残りを引っ張っていくにも難しいで」


「ああ。みんな殺して耳を切り取って行こう」


「うげ。さらっと言う……」


「魔族に復讐しようとしている君が何を言うのか。魔族は人間ではないが、人型の知的生物を相手にして殺し合いをするというのは、こういうものだよ」


「いやいや、こんな一方的や無いやん!」


「うん、言うなれば現状、フリッカの側が一方的にやられる」


「なんやて!?」


「ほら、手を動かしたまえ。つまらない仕事はさっさと終えるぞ。耳は塩漬けにしておいて、王都に寄ってからその帰りに男爵領に提出する」


「これだけ頭数がいると、少々骨が折れるな……。ああ、ジェダ! 引きちぎったらだめだ」


「なんだと!? 耳の形をしてればいいだろうが。適当でいいだろう適当で。ああ、張り合いのない相手だった」


 ジェダがぶつぶつ言っている。

 俺は彼らの仕事を見回しながら、意識は外に集中している。


 これで盗賊団相手は終わりだと思うが……。

 万一ということもあるかも知れないからだ。


 何せ、我々には幸運の女神がついている。

 想定通りに仕事が終わらないことなどざらで、幸運スキルはとんでもないものを引き寄せてくれたりするものなのだ。


「むっ、見張りが倒されている……? 馬鹿な。こいつら、襲撃されたのか」


 ほら、外から声がする。


「ああ、やはり盗賊風情だった。私は不幸だ……。雇い主が毎回ダメダメだ……」


 聞き覚えのある声だ……。

 まさか……まさかな。


「こっ、この声はぁっ! 忘れもせんで! シェイド!!」


 闇の妖精が、アジトの入り口めがけて飛んでいく。


「なんだこれは? 妖精がいるとは。ふんっ」


 何かを潰す音がして、フリッカが吠える。


「ああ、くそ、シェイドがやられた! マジかあいつ!?」


「どういうことだ、オーギュスト?」


 俺はイングリドに説明を行うことにする。

 端的にだ。


「ネレウスだ。よりにもよって、盗賊団に雇われていたらしい」


「なんだと!? 早速目標達成ではないか! ああ、いや、だが彼は悪人なのか……? フリッカの話を聞くと悪人だが……」


「そんなことァどうでもいい! 俺は戦いに行くぜ!!」


 ジェダが吠える。

 その姿が、翼の生えた獣のものになった。

 フリッカの指示が得られないので、でたらめな姿になるのだろう。


 さあ、盗賊団から魔族ネレウスとのリターンマッチに移行するぞ。

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