第11話 マールイ王国、戦争突入?

「ガットルテ王国が宣戦布告!? 何かの間違いではないのか!」


「あ、はい! ええと、宣戦布告も辞さないと、あちらの外交官が通告を……!!」


「ばかな! たかが騎士団長を怪我させただけであろうが! 我が国の騎士団長を謝罪に行かせたはずだ!」


「い、いえ、あの、騎士団長がその場で再び、相手を愚弄するような事を言ったと……」


「馬鹿なのかあいつはーっ!!」


 と、ここで大臣ガルフスは思い出す。

 騎士団長は、彼が賄賂を受け取って推薦した男であった。


 侯爵家の生まれながら、学問も作法もなっておらず、鼻つまみ者だった。

 それを、無理やりコネの力であの地位にねじ込んだのだ。

 優秀である訳がない。


 だったら、どうしてあの男が今まで問題を起こさないでいられたのだ。

 そして今になって、次々と問題を起こしてくれる。

 その全てが致命的な問題だ。


 一体何が、騎士団長の馬鹿者が致命的な間違いを犯さぬようにしていてくれたというのか。


「まさか……まさか、あいつか! オーギュストか!! あの男、どこまで我が国に深く根を張っていたというのだあああああっ!!」


 地団駄を踏むガルフス。

 怒りと苛立ちとストレスで、彼のこめかみに浮かんだ血管は今にも破裂しそうである。


「閣下! どうしましょうか!」


「ええい! 俺が直々に頭を下げに行く! おのれ、おのれえええっ! オーギュストーっ!! 許さん、許さんぞーっ!!」


 わざわざ自らが手を回して追い出したと言うのに、逆恨みをする大臣ガルフスなのであった。





 子どもたちを連れて王都に戻ってくると、入り口が物々しい様子だ。

 騎士団が集まっている。


「やあ済みません。冒険者の者です。通してもらえませんか」


「ああ、おお、ご苦労。そこの子どもたちは?」


「被害にあった村から救出してきたのです」


「そうか! よくやってくれたな」


 騎士が笑顔になる。

 俺が連れている子どもたちが、皆笑顔だからこそ、彼もまたつられて笑ったのだろう。


 親を失ったと言うのに、子どもたちは明るかった。

 沈みそうになれば、俺が芸を見せて笑わせ、あるいはイングリドが不器用ながらも励まし、そしてここまでやって来た。


「彼らを中に入れたいのですが。いいでしょうか?」


「ああ、構わない」


 騎士はそう言うと、道を空けてくれた。


「ありがとうございます。それで、皆さんお揃いで一体何をなさっているので?」


「それは話すことはできん。極秘事項だからな」


 途端に、騎士の顔は厳しいものになった。

 彼以外の騎士たちもまた、眉間にシワを寄せている。


「なるほど、これは失礼しました」


 そう告げて、彼らから離れる。

 だが、既に俺は、この騎士の集まりが何を目的としているのかを察知している。


「オーギュスト、彼らはどうしたんだ?」


「恐らく、戦争でもやろうとしているのだろうね。だが、これはあくまで騎士団の暴走のようだ。兵士がいないし、ガットルテ王国の旗も無いだろう? 非正規の行動に出ようとしているのさ。そして、何かを待っている」


「何か?」


「大方、隣国と揉めているんじゃないかな。何せマールイ王国には、あの騎士団長がいるからな」


 俺は、あのどうしようもない騎士団長を思い出していた。

 俺という抑えを失ったあの男は、どこまでも暴走するだろう。

 これまで見てきた歴代の中でも、ダントツに馬鹿で、そして危険な男だ。


 ガットルテの騎士がここまで怒っているということは、騎士としての誇りのようなものを傷つけられたのだろう。

 例えば、交流試合で彼らの騎士団長が、マールイ王国の騎士団長によって大怪我をさせられたとか。


 ……だが、今の俺には関わりのないことだ。

 子どもたちを連れたまま、冒険者ギルドへ。


 まずは、仕事の達成を報告する。


 俺たちの登場に、その場にいた冒険者一同は呆然としているようだった。


「おい……ウッソだろ……。道化師、生きて帰って来やがったぜ」


「しかもガキをわんさか連れてやがる。ってことは、仕事に成功したのか!? ってか、ガキもみんな生きてるじゃねえか……!!」


 なんとも洒落にならない確認の仕方をするものだ。

 案の定、イングリドが怒った。


「なんですってーっ!! 子どもに向かってなんて言い方をするんだお前たちーっ!! それと! 私は! 死神じゃあないっ!!」


 胸を張って、ギルド中に響くような大声で宣言するイングリド。

 これを聞いて、ギルドの受付嬢も、冒険者たちも一瞬ぽかんとした。


 そしてすぐに、大爆笑が巻き起こる。


「こ……こりゃあすげえ! あんなに死神だって塞ぎ込んでたイングリドが、見違えるくらい元気になりやがった!」


「おい道化師! お前、どんな魔法を使ったんだ!? ああ、いや、あれか? 簡単な依頼をこなして、死神に自信をつけさせるってやつか?」


「依頼って毒霧の村だろ? なんだ、ありゃあ簡単な仕事だったんだなあ……」


「お前らっ」


 抗議しようと口を開いたイングリドを、俺は手のひらで押し止める。


「その通り。実に簡単だった。毒霧は神経毒の魔法だったし、しかもそれは腐敗と腐食の神、プレーガイオスの神官が発生させたものだった! 哀れ、村は霧に包まれて……しかし子どもたちは生きていた。どれもこれも、腐食神の神官が企んだ罠だったのさ!」


 俺は朗々と告げると、手近なテーブルの上に飛び乗った。


「うおーっ!?」


 そこで食事をしていた冒険者が、驚いて目を見開く。


「さあご覧あれ。これが神官から切り取った、討伐の証! マンティコアの耳だ!」


 懐から取り出す、明らかに人間サイズではない巨大な耳。


 それを見て、冒険者たちが目を見開いた。


「ちょっ……ちょっと失礼しますオーギュストさん!」


 受付嬢が走ってくる。

 後ろには、ギルドの職員が続いているではないか。


「耳を貸してくれ。鑑定する。……ああ、間違いない。こいつはマンティコアの耳だ。しかも、エルダークラスだぞ……!」


 職員は、どうやらモンスターの素材を鑑定する仕事の人物だったようだ。

 彼の言葉に、ギルド中にどよめきが走る。


「おいおい……。まさか……たった二人で、しかもガキどもを守りながら、エルダーマンティコアをぶっ倒したってのかよ……!?」


「てえか、毒霧の村って依頼のどこにもエルダーマンティコアなんて書いてないだろう! こんなん、初見殺しもいいところだぜ!!」


「エルダークラスのマンティコアって、腕利きの冒険者でも危ないんでしょう? なんで、どうやってそんなのを退治した訳?」


 俺は彼らの驚きを目にして、笑う他ない。


「それでは、諸君のお耳を拝借するぞ。俺と、死神返上のイングリド。この二人が繰り広げた村の冒険……。大いに笑えること請け合いだ。……と、その前に。報酬を受け取って、子どもたちを商会に送らなきゃな」


 俺がひらりとテーブルから降りると、冒険者たちが思わず立ち上がった。


「なんだよ、話はお預けかよー!!」


「早く戻ってこいよ!?」


 安心してもらいたい。

 道化師は、芸を披露するタイミングは逃さないものだ!

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