第25話 指名依頼
グランテルから東に位置する森の中。
今日も冒険者ギルドで採取依頼を受けた俺は、素材を採取しにやってきていた。
「よし、アザミ薬草みーつけた!」
調査を使ってアザミ薬草を見つけた俺は、次々と根っこから引き抜く。
アザミ薬草は採取依頼の中でもありふれたもの。
傷薬に使えたり、下級ポーションの材料になるので需要が切れることはない。俺の生活を支えてくれる素材の一つだ。
依頼に必要な数よりも少し多めに採取すると、マジックバッグの中へ。
これでアザミ草の採取依頼は完了だ。
さて、次は一緒に引き受けた光蟲という虫の捕獲依頼にとりかかろう。
「光蟲、調査!」
調査を発動させると、視界の中で紫の輪郭をする虫が見えた。
光蟲はまだ捕まえたことはなかったが、市場で素材用として売られているのを確認したので実物は把握していた。
そのお陰か、持っていない素材でも調査の効果が働いてくれたよう。
検索して調査をするには、やはり俺自身が素材を直接この目で見る必要があるようだ。
調査スキルの新たな発見に喜びながら、俺は光蟲のいる場所へ。
茂みから顔を出すと金色に輝くコガネムシのような生き物が木に張り付いていた。
【光蟲】
外敵が近づくと、体内に蓄積させた光を瞬時に放つ。
体内にある発光器官は、光玉といった目くらまし用アイテムや照明器具に利用されており、錬金術師からの需要が高い。光を吸収している間は比較的おとなしい。
試しに鑑定してみると、間違いはなく光蟲。
外敵に近付かれると容赦なく強い光を浴びせてくるとは厄介な。
今回の依頼では光蟲を死なせることなく、生きたまま納品して欲しいという条件だ。
薬品を利用して眠らせることも禁止されている。
理由はわからないが依頼主が望んでいることなので、従うしかない。
とはいっても、真正面から挑んでライトボールで自爆したような体験はできるだけしたくない。
一日中目に違和感を抱きながら過ごすことになるからな。なんとか回避できないものか。
黒い布で目隠しでもして光を遮断するか? それとも目を瞑りながら網で捕まえるか。
さすがに目隠ししながら、小さな虫を捕まえられる気がしないな。
目を瞑っている間に飛んで逃げられてしまいそうだ。
他の方法を考えながら鑑定先生の情報を読み返す。
……ふむ、光を吸収していると大人しいか。これって今木に張り付いているように日光なりの、なんらかの光を吸収している間は逃げたりしないってことか?
光といっても光蟲がいる場所は見事に木陰。太陽の光や木漏れ日が当たる様子はない。
自然の光が無理な以上、人工的な光を当ててやるしかない。
そこで俺は前回フェルミ村で失敗した、無属性の魔法を思い出した。
「ライトボールの光を当て続ければ、余裕で捕まえられるのか?」
確信はないが試してみる価値はある。
問題は自分の使ったライトボールで、網膜を焼くことにならないかということ。
自分の魔法で失敗しては光蟲の対策をした意味がない。
最近は宿の室内でちょくちょくと練習しているし……いけるか?
ええい、怖がっていて挑戦しないようでは成長しない。
そうだ。ちょうど目の前にいる光蟲と同じくらいの大きさのライトボールにするんだ。
「ライトボール!」
目の前の光蟲を見ながらライトボールを発動。
すると、光蟲と同じくらいの小さな光球が出現した。
魔力が強いせいか想像以上に眩しい光を放っているが、網膜が焼かれるような強さではない。
ライトボールを操作して光蟲の傍にやってみる。
すると、光蟲はライトボールに反応して、少しでも光を近くで吸収するために移動して止まった。
……今が光を吸収している大人しい状態というやつだろうか。
俺はマジックバッグから捕獲用の瓶を取り出して、そろりと近付く。
そして、ライトボールの光を当て続けながらゆっくりと手を伸ばす。
すると、光蟲は光を放つことなく大人しく手に収まった。
とはいえ、どのような刺激で光を放つかわからないので即座に瓶の中に入れた。
生き物なのでマジックバッグに入れることはできないので、麻袋に瓶を入れてしまう。
すると、麻袋の中からカッと光が漏れ出た。
多分、光蟲が光を放ったのだろうな。危なかった。
でも、これで目をやられることなく捕まえることができるとわかった。
この方法で光蟲を捕獲しよう。
◆
「アザミ薬草と光蟲の納品を確認しました。シュウさんの依頼は達成です」
ギルドに戻って依頼品を納品すると、ラビスがにっこりとした笑顔で依頼書に達成の証のハンコを押してくれた。
「さすがですね、シュウさん。今回も高品質ですね。こんなに潤沢な光を蓄積している光蟲は中々お目にかかれませんよ!」
「そうですか? 今回もラビスさんのお目に適う品を納品できてよかったです」
初日から凄い目つきで鑑定をしていたからな。ラビスが担当する以上は、生半可な素材は納品できない。
まあ、俺としても品質の悪いものを納品するのは、収集コレクターとしても許せないので妥協はしない。
にしても、初めて来た時より態度が柔らかくなっているような。
最初はダメな子を見るような目をしていたというのに。
「次々と採取依頼を受けてくださり、品質の高い素材を納品してくれたお陰でシュウさんの評価はうなぎ上りですよ。お陰で今日はシュウさん宛に指名依頼が舞い込んできました!」
「指名依頼?」
「冒険者として一定の評価を受けると依頼主から名指しで依頼がくるのですよ。普通の依頼よりも報酬が上乗せされていますし、上手く付き合えれば定期的に依頼を貰えるので美味しい仕事ですよ!」
どこか興奮した様子で説明してくれるラビス。
長い耳がピクピクと動いていて可愛らしい。
「なるほど、どんな依頼がきたのですか?」
普通の依頼よりも報酬がいいのであれば、こちらとしても受けない理由はない。
「えーと、採取依頼なのですが、依頼主は直接会って説明するとおっしゃっています」
「……指名依頼というのは呼び出されるものなのですか?」
「素材に細かい要望がある場合は、依頼主と直接お会いして打ち合わせをすることが多いですね」
素材に関して採取方法を間違えると、品質が落ちて使い物にならなくなったりするからな。
文章だけでは伝わりにくいこともあるだろうし。
「わかりました。採取依頼ということなら受けてみようと思いますが、いつ伺えばいいでしょう?」
「依頼主はいつでも構わないと述べているので、今からでも明日でも大丈夫だと思います」
随分とアバウトな約束だが、連絡を気軽に取り合えない世界ならこんなものなのだろうか。
「なら、依頼が早く終わったので今から行ってみようかと思います」
「かしこまりました。こちらの依頼書をお持ちになって向かってください。自宅に関しては裏に記載されていますので」
ラビスから依頼書を受け取って裏を見ると、冒険者ギルドから依頼主の自宅までの簡単なルートが描かれていた。
きっちりと目印になるものを細かく描いている辺り、依頼主の細かな性格が表されているようだ。
まあ、まだ街の地理には詳しくないので、細かい分に困ることはない。
「では、行ってきます」
「はい、いってらっしゃいませ」
俺は依頼書を持って、冒険者ギルドを後にした。
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