第17話 次の素材を求めて
二日後。サナリアさんの誕生日にポダンさんは無事に満月花を渡すことができたようだ。
サナリアさんは稀少な花を誕生日に贈ってもらえたことが、とても嬉しかったみたいで後日俺にもお礼を言いにきたほど。
今まで自分のために素材を採取してきたが、誰かのために採取をしてここまで喜んでもらえるのは初めてだ。こちらまで嬉しくなってしまう。
満月花がなくても二人の絆にヒビが入るようなことはないと思うが、ポダンさんとサナリアさんにとって良い日を過ごせたようで何よりだ。
その後の俺の生活は、村でゆっくり過ごしながら森に出かけて素材を採取。時折、魔法の練習といった日々。
満月花を採取している時に、スルーしていた素材を片っ端から採取していた。
やはり収集癖のある俺からすれば、まだ採取していない素材はきちんと集めておきたいからな。素材のコンプリートは基本なのだ。
採取の移動時間では初級魔法を練習したり、調査の波動を遠くまで飛ばせるように練習したり、採取した素材のノートを作ったり。
そうやってフェルミ村で自分の好きなことをしながら自由に過ごして半月ほど経過した。
今日も俺は森で採取した素材をポダンさんのところに持ってきている。
「ほほう、ゴッゴギ。近くの森にこのような食材があったのですね」
「ええ、見た目はただの木の根に見えますが、とても栄養があり、薬にもなるみたいです」
ゴッゴギというのは長細いゴボウのようなもので、調査をしてみると地中に反応があったので掘り返して採取してみた。
「確かに私の鑑定でもそのように表示されておりますね! また、村で食べられる食材が増えて嬉しいです!」
フェルミ村の食卓で出ているのを一度も見たことがないので、もしかしたらと思って持ってきたが、やはり食用だと知られてはいなかったようだ。
地中深くにあるし、ぱっと見てもただの木の根にしか見えないからね。
村人たちが食用だと気づかないのも無理はない。
多分、味もゴボウのようなものだろうし、宿でスープの具材として入るのが楽しみだ。
「いやー、シュウさんがこうやって色々な素材を持ってきてくれたお陰で、村の食事の幅も大分広がりました。本当にありがとうございます」
「いえ、そんなに感謝しなくてもいいですよ。趣味で採取して持ってきているだけなので」
俺としては村の食糧事情に貢献しようとか、もっと生活を良くしようなどという考えは持っていない。
こうしてポダンさんのところに持ってきているのも、自分が採取した素材を売ったり、一緒に見て感想を言い合ったり。そんなただの自己満足なのだ。
だから、ポダンさんに感謝されるような人ではない。
「たくさん採ってきたのでいくつか売ろうと思うのですが、いくらになりそうです?」
「うーむ、難しいですね。なにぶん、今まで認知されてもおらず、私でも価値がわからないので」
新しい素材を換金する際に困るのが値段の指標だ。昔からずっとあるものや、近くで認知されているものであると、値段の相場というものがあるが、新しい素材にはそれがない。
「……こういう時は、やはり採取したシュウさんに値段を設定してもらいたいのですが……」
「あー、やっぱりそうなります?」
ポダンさんのいうことは間違ってはいない。しかし、今後もしかしたらフェルミ村でも流行するかもしれない食材。
それに高価な値段をつけたりしたら、値段をつけた俺が恨まれてしまいそうだ。
だけど、俺が持ってきた以上、ポダンさんに丸投げするわけにもいかないしな。
「地中深くあって、掘る手間がかかるので一本青銅貨五枚でどうでしょう?」
「そうですね。薬にもなるのでしたら、もう少し高くてもいいかもしれませんが、シュウさんがそれでいいとおっしゃるなら、ひとまずは青銅貨五枚で売ることにしましょう」
新しく見つかった食材とあって、村人も食べてみたいはずだ。
それなのに高級品とあっては村人も手が出しにくいからな。気持ちちょっと安めで、村人でも気軽に買える値段がいい。
「はい、それで構いません。もし、今後どこかでゴッゴギが売られていれば、それを参考に値段を改めてくださいね」
「ありがとうございます。それにしても、もうこの辺りの素材はほとんど採取されたんじゃないですか?」
「そうですね。気軽に行ける範囲のものは大体採取しちゃいましたね」
今回採れたゴッゴギは西の森の奥にある山近くで採れた。
調査で魔物を回避しながら突き進むことができたが、普通の人だと向かうだけで一日半はかかるだろう。
もはや、気軽に足を延ばして行ける場所ではない。
フェルミ村周辺という定義は正直誰にもわからないが、自分や村人の足でいける範囲のもので知らないものはないと言っていいだろう。
もはや、この辺にある素材の全てはマジックバックの中にある。
「そろそろ違う場所にでも向かおうかな」
「あなたは小さな村では収まらないすごい人です。きっと、その方がいいでしょうね」
こうやって素材を持ってきているが、ポダンさんのところで換金し続けるのも限界がある。
それに俺はもっとたくさんの素材を見て、触れて、採取したい。
周辺の素材をコンプリートした以上、次の場所に移るべきだろう。
「明日の朝、この村を出て街に向かおうと思います」
「わかりました。その時は妻と一緒に……」
こうして、俺はフェルミ村を出ていく決意をした。
◆
宿に戻ってきた俺は、お世話になっているニコ、ローラン、アンナさんに旅に出ることを伝えた。
「ええっ!? シュウさん、明日に出ていっちゃうの!?」
「うん、もっと色々な素材を見てみたくてね」
「えー、もっといようよ! シュウさんがいなくなると、うちの収入がすごく減る!」
酷く残念そうにしているが、ニコの口から出た現実的な台詞に崩れ落ちそうになる。
「寂しいとかじゃなくて、収入的な心配なんだ……」
「冗談だよ! シュウさんがいなくなっちゃうと寂しい!」
いかないでと言うように裾を掴んでくるニコ。
今回は本当に寂しがってくれているようだ。
「こら、ニコ。あんまりシュウを困らせるんじゃないよ。旅人なんだから旅に出るのは当たり前さ」
「わかってるよー」
アンナさんに言われ、どこかぐずるように返事するニコ。
それだけニコにとっていいお兄さんでいることができたってことかな。
お別れになると言われて、何も反応されないよりもよっぽどこの方が嬉しいな。
「で、次はどこに行くんだ?」
「ここから一番近い大きな街、グランテルに行こうかと」
「そこなら冒険者ギルドもあるし、周囲には鉱山や森と素材もたくさんある。採取の得意なシュウにはうってつけの場所かもな」
他の人にも話は聞いていたが近くに鉱山まであるのか。これは素材が豊富そうな場所だ。
まだ見ぬ鉱石とか探してみたい。
「それじゃあ、今日はシュウの旅立ちを祝ってパーッといこうか!」
「そうだな。いつもより豪勢な食事にしてやろう」
「ありがとうございます!」
湿った空気を振り払うかのように明るく言うアンナさんとローランに俺は素直に感謝した。
突然、ふらりとやってきた旅人のために、ここまでしてくれるなんて……やっぱり、この村は居心地がとてもいいな。
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