第9話 神様の勘違い

「一体、どうなってるんだろうな。俺の魔法は……」


 アンナさんたちが振る舞ってくれた夕食を食べて、部屋に戻った俺はベッドで横になる。


 まさか一番安全だろうと思って使ったライトボールがあんな風になるとは。俺の使った魔法は初級魔法ではなかったのだろうか?


 いや、初級魔法の通りにやったんだし、それ以上の魔法を使ったということはあり得ない。


 もう一度使ってみたいが、あのような威力が出るとどうなるかわからないな。


 火魔法が使えるかどうかは知らないが、仮に発動していたら大変なことになっていた気がする。安全な無魔法にしておいてよかった。


 魔法について色々と検証してみたいところであるが、どうなるかわからない以上人気のないところでやる必要がある。


 ライトボールのような無害なものであれば練習できそうだが、どうみても閃光みたいだったしな。


 日が暮れて暗くなった。美味しい夕食も食べたし今日は早めに寝るとするか。


 明日、早めに起きて満月花を探すついでに、人気のないところで魔法を練習することにしよう。


 そんなことを考えながらゆっくり目を瞑った。




 ◆





「あれ? ここは……」


 ふと目を覚ますと、見覚えのある上も下も空の光景。歩いてみると空なのに波紋が広がっていく。


 ここは俺が死んで神様と出会った場所だ。


「やあ、僕が与えた能力を使って無事に近くの村にたどり着けたようだね」


 声をかけられて振り向くと、そこには前と変わらない神様の姿があった。


 ここで神様と出会う理由はひとつ。


「もしかして、俺もう死んじゃったんですか?」


「確かに僕との出会いは死が原因だけど、今回はそうじゃないよ。異世界での一日を無事に終えることができたみたいだから、様子を見るために眠っている君の意識をここに呼び寄せたんだ」


 神様の言葉を聞いてホッとする。


 なんだ。また死んじゃったから神様と出会ったのかと思った。


「どうだい? 異世界を一日過ごしてみて」


「たくさんの不思議な素材があって素晴らしいです!」


 異世界の森ではたくさんの素材であふれていた。そのどれもが俺の知らないものばかり。


 鑑定して素材について知る度に、名称や用途などに驚かされている。


 そして、異世界の素材はとても需要がある。


 神様のスキルがあってこそであるが採取して売るだけで生計を立てることができる。


 素材を採取して生きていけるだなんて俺にとっての理想の世界だ。


「そ、そうかい。とにかく、君が僕の世界を気に入ってくれたようで一柱の神としても嬉しいよ」


 異世界での生活の良さを熱弁すると、神様は苦笑いをした。


「ところで、異世界での生活で困った点やわからないことはあるかい?」


 あ、素材の話から強引に話題を変えたな。と思いつつも、親切な言葉に変わりないので蒸し返したりしない。


 わからない点といえば、つい先ほどあった事件のこと。


「あの、神様から頂いた初級魔法の書で魔法を使ってみたのですが、書物とぜんぜん違う規模になって……」


 俺はつい先ほど初級魔法のライトボールを使ってみたら、弾けてしまって村を照らすほどの光量が出たことを話した。


「ああ、初級魔法といっても使い手の魔力次第でかなりの効果を及ぼすからね。でも、それは君が望んだことだろう?」


「え、それってどういうことです?」


 うん? 確かに俺は神様に素材採取をするための力を願いはしたが、そのような壊れた性能の初級魔法を放てるように願った覚えはない。


 俺の願いと神様の認識した願いがどうも噛み合っていない気がする。


「うん? のんびり素材採取ができるように頼んだのは君じゃないか? だから、大抵の魔物が現われても、のんびり素材を採取できるような身体スペックを――」



「ちょっと待ってください。神様の言っている素材とは魔物のことですか?」


「うん、そうだよ。能力を与える前に君が大好きだったモンモンハンターのゲームを調べたんだ。巨大なドラゴンを倒して素材を集めていたから、あれくらいの魔物がやってきてものんびり倒せるくらいにしたよ」


 改めて尋ねると、神様はシレッと予想の遥か彼方の回答をした。


「いや、確かにあのゲームは好きですけど! 俺が好きなのはドラゴンを倒すことよりも、大自然にある薬草や食材をとったり、武具を作るのに必要な鉱石を発掘しに山に向かうことなんです! そんなドラゴンをのんびり倒せるようなバカげた力を求めたりは……」


 妙に痒いところに手が届くスキルであり、神様が俺の趣向を理解してくれた上で与えてくれたのは何となくわかっていた。


 しかし、そんなところまで再現してくれようと思っていたとは思わなかった。


「そうは言っても、君のいる世界は魔物も多くて危険だ。生き抜く強さがあるならいいじゃないか」


 魔物から逃げたりできるだけの力で十分と控えめな願いにしたが、倒せるだけの強さがあるのに越したことはない。


 身体を作り変えて転移させてくれた上に、素材採取を楽しめるようなスキルや道具もくれたんだ。感謝こそすれど、文句を言うような立場ではない。


「そうですよね。すいません、自分の力に少しビックリしてしまって」


「僕が誤解しちゃったところもあるし謝らなくていいよ」


 半ば文句を言うような形になってしまったが、神様は特に気にすることなく許してくれた。


 優しいだけじゃなくて心まで広いなんてさすがだな。


「魔力については君を触媒にして魔力を送ったから、その残留魔力が宿っているんだ。元々魔力がバカげた量になるのは最初から決まっていたんだ。僕は君が魔法を使いやすいように少し適性を与えただけさ」


「な、なるほど」


 俺を媒介にして魔力が世界に浸透したとはいえ、神様に身体を作り変えられ、魔力を注がれたのだ。たとえ、残っているのは搾りかすだったとしても、普通の人間にとってはすさまじいものなのだろう。


「ちなみに初級魔法の規模が桁違いになったのは過剰な魔力を注ぎすぎたせいさ。イメージした魔法に適切な魔力を注いでやれば普通に発動できるさ。慣れは必要だろうけど」


 たとえるならば、コップという器にバケツいっぱいの水を注いでいるようなものか。


 そりゃ、形になった初級魔法が想像以上の規模になるのも当然だよな。


 つまり、イメージに適切な魔力を送ってやらないといけないわけだ。


 魔法を発動させることはできるが、これは何度も練習する必要があるな。下手をすれば大災害になりかねないし。


「他に質問があるなら今のうちだよ? 君がこの世界の一部になった以上、神である僕は毎日のように接触できるわけじゃないからね」


 そういえば、神様は世界に過剰に干渉することができないと言っていた。


 ということは、次にこうやって会えることは二度とないかもしれないし、随分と先になるかもしれない。


 せめて、自分の力くらい把握しておかないと。


 神様が与えてくれた力についての質問をすることにした。


 そして、神様との有意義な会話に終わりがきてしまう。


「……そろそろ時間かな。次に会えるかはわからないけど、異世界での生活を楽しんでね」


「はい、なにからなにまでありがとうございます。世界での生活を楽しませていただきます」


 頭を下げて礼を言うと神様は満足そうに微笑んで、視界がスーッと白くなった。


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