第2話 森の中

「ん、んん……」


 日差しを感じて目を開ける。


 どうやら俺は仰向けになって寝転んでいたらしい。


 空を見上げてみると木々が広がっており、暖かな木洩れ日がちょうど俺に差し込んできていた。


 身を起こしてみると目の前には小川があった。


 どうやらここは森の中の水辺らしい。


 にしても、身体がすごく軽いな。自分の身体とは思えないくらいだ。


 大人になったら仕事のある日は眠ってもあまり疲れがとれなかったのだが、今では身体もスッキリしておりとても軽い。


 まるで十代に戻ったような感覚だ。


 神様は俺の身体を一から作り直すとか言っていた。もしかしたら、その時に身体の不調な部分を綺麗にしてくれたのかもしれない。


 軽くなった身体に機嫌をよくしながら、顔でも洗おうかなと水面を覗き込む。


 すると、そこには黒髪に青い瞳のどこか見覚えのある少年が映っていた。


 ビックリして思わず振り返るも、後ろには誰もいない。


 おそるおそる視線を水面に戻すと、俺と同じ動作をする少年が。


「高校生くらいの俺に戻ってる!?」


 死ぬ前の俺の年齢は二十六歳だ。しかし、水面に映る少年はどう見ても、高校生かそこらの年代――というか、昔の俺だった。


 もしかして、異世界で暮らしやすいように年齢を下げてくれたのだろうか。


 二十代の後半を迎えて、ああ、もう一度高校生に戻りたいと何度も思っただけに、これは嬉しい配慮だった。


 道理で身体が軽いはずだ。今の俺の身体は全盛期。


 見た目は高校生、頭脳は大人というやつか。


「でも、なんで目が青いんだ?」


 波打つ水面に微かに映る青い瞳。神様が俺に魔力を込めた影響なのだろうか?


 神様も同じように澄んだ青い瞳をしていたし。


 まあ、瞳の色なんてものは些細な問題だな。


 気にせず俺は水面に手を伸ばして水をすくう。


 ふと思ったのだが、ここの水は大丈夫なのだろうか?


 とても澄んでいるので大丈夫だとは思うが少し心配だな。





【小川の水】

フェルミ村近域を流れる小川の水。水質はとても綺麗。




 なんて思いながら小川を見つめていると、不意に視界にそのような文字が浮かび上がった。


 これは水の情報?


 神様が力を与えてくれると言っていたが、もしかしてその能力のようなものが発動したのだろうか?


 ひとまず、ここの水は清浄だという結果が出ている。


 情報がない今は、この能力を頼りにするよりほか無いだろう。


 川の水で顔を洗って、一口含む。


 特に臭さや不快感もない。やはり、この能力が示す通り、ここの水は綺麗なのだろう。


 確信がとれたところで、俺は水を飲み込む。


 すると、スッキリと喉の奥を通り過ぎていった。


「美味いっ!」


 水の綺麗な日本でもここまで美味しい水に出会ったことはない。


 なんてスッキリする水なんだろう。


 水があまりにも美味しくて、俺はそのまま二口、三口と水を飲んだ。


 人間にとってまず必要とするのは水。神様もそれがわかっていて、水辺に転移させてくれたのかもしれないな。


 喉を潤したら落ち着いたので、ひとまず状況の確認だ。


 黒いシャツの上には分厚い黒のコートを羽織っており、袖や襟なんかには金の刺繍が入っている。下はこれまた黒の長ズボン。そして、何かの革でできた茶色いブーツ。


 そして、俺の肩にかけられているショルダーバッグ。


 これが俺の持っている衣服や装備品だ。


 何だか黒が多すぎる気がするが、金色の刺繍が入っていたり茶色のブーツやショルダーバッグがあるお陰で全身真っ黒という印象ではない。


 意外とあの神様はファッションセンスもいいのかもしれないな。


 でも、異世界に転移させたんだから、もうちょっとナイフとか便利な小道具があってもいいのになぁ。


 バッグの中に何か入っていないだろうか?


【ロープ、ネット、ツルハシ、手袋、木箱、ナイフ、瓶、携帯食料、水袋、鉄の剣、初級魔法の書、銀貨五枚、神様からの手紙】


 チャックを開けて、手を突っ込んでみると不思議と脳裏にそんな情報が入ってきた。


 おお、なんだこれ? というか、バッグの中に手がぐいぐいと入り込んでいく。


 肘まで入ったけど、明らかにバッグの容量とか越えている。


 よくわからないことが多いが、この状況を解決できる手掛かりは神様の手紙だ。


 手紙を念じてみると、バッグの中から引き出すことができた。


 これはもしかして、ゲームであるアイテムボックスとかマジックバッグみたいな感じの鞄なのだろうか。


 なんて思いながら、神様の手紙を開いてみる。


 すると、そこには俺に与えた道具や能力についてのことが書かれていた。



【マジックバッグ】

 物を入れることのできるバッグ。中では時間が停止しているので採取した素材などが劣化することはない。

しかし、人間や生物を収納することはできない。バッグの中には生きる上で必要最低限なものが入っている。これより上質なものや必要になりそうなら街で作ってもらうなり、買うなりするべし。



 なるほど、やはりこれはマジックバッグというわけか。


 確かに素材を採取して手で持ち運ぶのは大変だ。


 俺がやっているゲームなんかを反映して、素材採取をするのに快適な物を授けてくれたのかもしれない。


 これなら荷物を気にすることなく素材を採取できるな。


 そして、脳裏に浮かんだのは異世界で生活をする上で必要最低限のものらしい。


 特に水を入れるための水袋、身を守るための剣、採取のための小道具などは外で生きる中で特に必要としていたものだったのでかなり嬉しい。


 少し手荷物が寂しいと思ったが、神様の配慮は完璧だった。



【調査】

 自身の魔力の波動を飛ばして、素材を感知させる。効率的に素材を集めるための技。

 習熟度が上がるごとに調査できる範囲が広がる。ユニークスキルである。



【鑑定】

 素材などの情報を詳細に知ることができる。より、詳細な情報を求めたければ、そう念じながら凝視する必要がある。




 次に書いてあったのは素材採取をするのに神様が授けてくれた能力だ。


 最初に書いてあるのは調査というスキルで、魔力の波動を飛ばして効率的に素材を見つけ出す技。


 ユニークスキルと書いており、手紙を読み込むとどうやら俺の願いを叶えるために与えてくれたものらしい。


 そして、次に書いてあるのが鑑定スキル。


 さっき小川の水質がわかったのはこのスキルのお陰らしい。


 これを使えば、その素材がどんなものかというのが一発でわかる。


 異世界の知識がまるでない俺からすれば、大変ありがたいものだ。


 これならその素材がどんなものか、どれほど価値があるのか、毒があるのか、食べられるのかなどといったことがわかることになる。


 マジックバッグとこの二つのスキルさえあれば、この異世界でも素材を採取して生きていくことができそうだな。










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