第27話 のじゃロリ×妖精①

墓地での一件以来、神秘の者達の依頼や相談がひっきりなしにくるようになった。


共通するのは

皆、身体の不調を訴えていること。


空気中の魔力がここ最近で急激に減っているからだ。原因はまだ特定に至っていない。


博士が調べてくれているがやはり王都ガラルドに何かがあるという線が強いらしい。

もっとも、博士は早々に新たな拠点を見つけゾンビ作りの片手間でやってもらっているので、進展が早いわけではない。


そんな中、今日の依頼主は。



「ヌフフフフフ……」

「なんですか……キモッ」

「ルインちゃぁ~ん?このお洋服とかきてみなぁい?」

「気持ち悪い顔で近寄らないでください……マジ引くんだけど……」

「ヌュフフフフ……」

気持ち悪い声を出しているのは、ラニャだ。

いや、ラニャだったものだ。壊れている。


それも仕方ない。

妖精のルインが今日の依頼主。

見た目の可愛らしさでラニャは虜になった


のではなく


連日の依頼や相談で疲れがピークを越え、キャラ崩壊したのだ。のじゃロリは体力がない。


「ハァハァ……ルインたんカワイイヨ……ハァハァ……」

「本当にキモイですね、死んでくれません?」

「うぅ、悪態ついてくるのもイイッ!」

「うわぁ~……」


さすがにキモすぎて話が進まないのでサロが割ってはいる。

「あの~そろそろ依頼のお話しませんか?」

「そうね。この人に話していいのか、かなり心配になってきたけど、ま、他に当てもないし……」

愛くるしい顔、蝶のような翅、子供の身体、ふわふわしたシルエットの服、そして高飛車で口が悪いのがこのルインという妖精の特徴。

最初に店に来たときも、


「……ここは化け物屋敷なの!?」


と、失礼極まりない事を言っていたが、ラニャのキモ絡みですでに罰は受けたように思われる。

「最初の悪態はあやまるわ。こっち側の奴らを助けてるっていう、志だけは買う。でもこの人(ラニャ)どうにかして!」


ルインの顔に顔をこすりつけるラニャ。耐えている様子をみる限り文句は言うが、なんだかんだ言って困っているのは本当らしい。


「はーい。ルーちゃん?」

「はい。師匠、大事な話するからこっち座ってね!!」

ラニャをルインから引き剥がすルー。


「うわーん!いやじゃー!ルインたんをペロペロさせろー!」


「ここ、本当に大丈夫なの……」

「すみません、最近依頼が多過ぎてご主人様も参ってるみたいです……」

「……出直すわよ?」

「そうですね……とりあえずご用件だけでもいいですか?」

「そうね、それじゃ……」


サロは聞いたままメモに書き出す。

正気に戻ったラニャと相談するという形にした。


「なるほど、わかりました♪」

「よろしく。……ちょっとその人こっちに連れきて?」

「?はーい」


ラニャが戻ってきた。

「ルインたん!会いたかったよぉ!」

「……寝ろ」

ルインはラニャをひらりとかわし、バタバタと翅の鱗粉をラニャにかける。

「ルインた………zzz」

「はい。これでおしまい。今日は起きないから明日またくるわ。こんなんじゃまともに話もできないじゃない……」


こうして、ツンデレ妖精という称号を手に入れたルインは帰って行った。


「なんだかんだいい方でしたね~」

「そうだね~。懐いたら甘やかしてくれそうなタイプだね。」


「…………はっ!?」


サロはラニャの甘やかしポジが奪われる可能性を感じ取った!完全な気のせいである。



~翌日~


さすがに忙しすぎたので、ラニャはルインがくるまで休憩。

それまで依頼の分類分けは助手のリリーがおこなった。


「これは俺にできる、これはできない、これは……んーわからんから、保留だ。」


この作業があるだけでもかなり助かるのだ。


「だいたい分け終わったな。ラニャは?」

「今着替えていらっしゃいます。もう少しでルインさんがお見えになるかと」

「妖精か。まあゾンビが来るくらいだからもう何でもありだな。」

「ですね~」


カランカラン

パタパタパタパタ


「きたわよ。」

妖精のルインが再びやってきた。

「あー、いらしっしゃいませルインさん♪今呼んできますからね~」


「………おう。おぬしか。」

「あら、どうも。」

「あー、昨日のことは忘れとくれ。最近色々と自分の容量を越える出来事か多くてのぅ。」

「気にしてないわ。キモかったけど」

「うっ……で、依頼は………

【妖精の森に人が出入りするようになって困っている】か」


妖精の森は普通の人間は入ることのできない場所で探すこともたどり着くこともできない。その場所になぜ、人が迷い込むのか。


「どういうことじゃ?」

「書かれたとおりよ。何故か旅人が妖精の森に迷い込むようになったのよ。」

「今まではなかったんじゃろ?」

「うん。なかった。」

「そもそも妖精の森は認識できない結界が張ってはるはずじゃろ?なんでそれが……」

「……」

「?どうした?」

「これは、妖精界で噂になってることなんだけど、私はこれが原因だと思ってる。」

「ん?どんな噂じゃ?」

「それは……」

「……?」

「うーん、どうしよう、言うべきか迷うわね……」

「???なにか言えぬことなのかぇ?」

「言いにくいことではある。でも、話が進まないものね。……あくまで噂だからね?」

「ああ。」

「実はいま、妖精の森のしれないのよ。」


結界が……消滅?


「結界は誰が張っておったのじゃ?」

「誰というより、何、が正しいわね。」

「???」


「妖精の森の結界は『妖精の剣(つるぎ)』が形成してるの。噂だと、その剣が姿。」


「なっ……」

「おいおい……」

「?」「?」


ラニャとリリーは険しい顔になり

サロとルーには頭に?が浮かんでいる。


「あなたも魔術師なら、わかるわよね?『妖精の剣』がどういうものか。」


「……ああ。わかるとも。こりゃ、大事じゃ。」


『妖精の剣』

異界の聖剣であり、魔剣でもある。


「その剣はな、兵器じゃ。の。」



空気中の魔力の激減

神秘の者たちの不調

妖精の剣の消失



世界は思ってたよりも

まずいバランスの上にあった。







続くのじゃ……





ーメモー


妖精:

妖精界にすむ小さな聖霊。可愛らしいが長寿のため見た目以上に年若くはない。

翅の鱗粉は催眠効果がある。

魔術にも秀でている。


妖精の剣:

妖精界の不可侵の結界を形作る力を持つ剣。

大出力大量破壊兵器にもなるため、聖剣であり魔剣でもある。

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