第6話 のじゃロリの育児日記

 ルーが人として生きるため、育児がはじまった。


 まずは着替えとトイレ。

 これをなくして人としては生きられない。

「トイレがしたくなったら……あー……お尻のあたりがムズムズしたら、わしにいうんじゃ。しばらくは手伝ってやる」


「うぅ」

「頷くときは「うん」でとりあえずよいぞ。」

「う……ん……」

「そうじゃ。うまいぞー」

「・・・・」

「え?もしかして今?」

「うん・・・・」



着替え

「着替えはまず肌着と下着を着てその上に服を着るんじゃ。あーこれもしばらくわしがやってやる」

「んん~!」

「あーこれこれぬぐんじゃない!」

「ううー」

「すぐに慣れる。頑張れ!」


 ほとんど裸で過ごしてきたルーにとって、服は何となくムズムズすらしい。


 外に行くときは耳を隠すため認識阻害の術とそれを強化する髪飾りをつけさせた。

「この髪飾りをとるでないぞ。よいか?」

 こく、とルーはうなずいた。


 そして食事

「これじゃ。ルーにやる。」

 それは柄の先が犬の形になったフォークとスプーンだった。

「これで刺して持ち上げる。これはスープをすくうんじゃ。」

 二人羽織の要領で後ろから手伝うラニャ。


 試しにルーに一人でやらせてみたが力加減がうまくいかず、こぼしたり、はねたりで口の周りも机もぐちゃぐちゃになった。


「ふふはははは!こりゃ困ったのぅ」

「へへへ」

 笑うしかなかった。

ルーもつられて笑った。

初めて笑った顔を見られたので、まあいいかと思えた。



 言葉は会話や読み聞かせで覚えることにした。


「悪い魔女はなにもしらない姫にりんごを渡しました。それは毒リンゴだったのです。」

「どく…ぃんご?」


「食べたらいかんりんごじゃよ。」


「いかん?」


「ダメって事じゃ」


「どくぃんごって、おいしい?」


「んーたぶんおいしくないのぅ。」


「ふーん。じゃあぽいだね」

「そうじゃな。つづきよむぞ?」

「うん。」


 こんな読み聞かせが毎日毎晩行われる。



 絵本の在庫に関してはあてがあった。


 知り合いの人気コンビ作家がたくさん持っているのだ。


「すまんのわざわざアル坊。それにアル子も」

「アル坊はやめて……」

「アル子……」


 アルバートとアルフレッド。この2人はコンビで作家をやっててそれなりに人気なのだ。


 端から見ると「早く結婚せい」、ってかんじのバカップルだ。


「でも絵本なんて何に使うんだよ?」

「読むに決まっとろう。」

「ラニャが?」

「んなわけあるかい!読み聞かせじゃ。あの子にのー」


 ルーの方を指差す

「あー子守?預かってんのか?」

「少し前から一緒に暮らしとるんじゃ。」

「「!?」」

「ラニャさんが……育児?」

「事件のにおいが……」

「なんでこの世の終わりみたいな顔で見とるんじゃ!キーッ!」


タッタッタ

「ししょー」

「ほれあいさつするんじゃ。ルー」

「……こんにちは。」

「「こんにちは!」」

 ルーはサッとラニャに隠れる。

「ルーちゃんは女の子ですか?」

「そうじゃ。初めはわからんかったがの。」

「確かに凛々しい顔してる!」

「ルーちゃん、たくさん持ってきたから楽しんでね?」

「……」

「ルー、絵本を貸してくれたんじゃ。お礼を言うのじゃよ?」

「……ありがと」


「ううう、かわいいいいいい」


「あ、いかん。アルの発作がでる。出たら長いから帰るぜ。」

「ああ、ちゃんと金は払うからそこおいといてくれ。」

「いえお代なんて、ねぇ?フレッド?」

「ああ。読み終わったら取りにくるよ。」

「おぬしら善人じゃのぅ……悪い奴に騙されんようにな?」

「ラニャみたいなか?」

「たわけ!まあ一つ借りじゃな。今度なにか困りごとがあったら相談にこいのぅ。」


「はい。ありがとうございます!」



 ガチャン


 2人は帰って行った。この貸しが後に大きな助け船となる


「きちんとお礼言えたのぅルーや?」

「うん。ぼく、うまい?」

「そこはえらいじゃろ。えらいが言葉はまだまだ覚えんとのー」


「ししょー、おなか」

「すいた、までいわんかい。ったく、それは一番最初に覚えたのぅ。」


「えへへ。ぼく、えらい?」

「えらい。えらい。」

「へへ」

「さて夕飯の準備じゃ。」


 こうして育児のために規則正しい生活をおくらなければいけなくなったラニャ



 のじゃロリの朝は早くなった。

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