モチヅキ イチの掌編まとめ

モチヅキ イチ

1:晴天のプラネタリウム

「ほら、おいてくよ!」

 七日間ぶりの清々しい晴天が、街をギラギラと照らしつけていた。白猫のリッツはテンションが上がっちゃって、路地裏を勢いよく駆け抜けていく。

「ちょっと、速すぎるわよ!」しっぽもぶんぶんとふっちゃって。必死で追いかける私の身にもなってほしいわ。

 それでも私のことなんておかまいなし。くるり、しゅるる。散らかったゴミを華麗に避けて、ぐんぐんとスピードを上げていく。まるで競争ね。一体誰と勝負してるんだか。


「あぁっこいつ」リッツが急に足を止めた。

 リッツが睨んでいたのは、開きっぱなしの真っ黒な傘だ。誰かが捨てていったんだろうけど、雨宿りとしてたまーに使っていたやつ。

 でも正直、雨宿りとしての機能はあんまり果たしてなかったのよね。

「ちっちゃい穴が空いてるから、けっこう雨漏りするのよね」

「おかげで雨宿れた気分にならなくて、やんなっちゃうよ」

 リッツはじっと目を細くして、小さく威嚇した。相当怒ってるわね。

 でもこんな風に穴だらけになったの、リッツのせいだって覚えてるんだから。最初にこれを見つけた時、リッツは面白がって上によじのぼったのよね。穴だらけになったのも、爪がブツブツと突き刺さったせい。

 まぁ、何も覚えてないみたいだけど。それもいつものことね

「でも、日傘の代わりになるんじゃない?」

「日傘って、なにさ」

「ほら、こうして中に入れば……」

 くねりと腰を捻らせて、私は傘の下に入っていった。そして、言葉を失った。見上げると、それは傘の裏側……真っ黒なドームの内側に、点々と小さな光が見えていた。

「なんだい、なんだい」

 リッツも私をぐいぐい押しのけて中に入ってくる。傘の下は、二匹だとせまい。でもそれを見ていると、そんなの気にならなかった。

「まるで……星空みたいね」

「真っ昼間なのに、すっげぇ」

 穴が空いたとこに、光が差し込んでいるのね。光の一つ一つが、まるで夜に見る星たちのよう。

 雨の日は、星空も見えなかったのよねぇ。きっと、本物には敵わないんだろうけど。それでも、これはこれでときめいちゃうわね。


「これ、夜になったらもっと綺麗かな?」

「バカねぇ、アンタは」

 傘の下の星空は、夜には見えない。こんなに清々しく晴れた日じゃないと。リッツはそんなことも分からないけど、それがリッツの面白いとこでもあるのよね。

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