キシっとした騎士

@moyumoyu

第1話 まずはプレゼント

 エルジオンにてアルドはエイミの誘いで映画を見終えた帰りでの出来事だった。

「ん? エイミ、さっきから何見てるんだ?」

 手物の端末にジッと目を凝らしていたエイミに立ち止まったアルドが尋ねる。

「ああこれ、最近人気爆発中のバーチャルアイドル、ほらさっき見た映画にも出て来てたでしょ?」

「こんな子居たかな?」

「OK、アルドったら映画をちゃんと見てなかったのね」

「見てたよ、寝なかったし、内容も覚えてる」

「じゃあ、主人公が悪党に捕まった彼女を助けに向かう時、街のテレビに映ったこの子の姿を見逃したりしないわよ!」

「そんな所見てないよ!?」

「ファンなら例え一瞬でも見逃さない物だわ」

「ファンになった覚えないんだけど」

「あれ? リィカ?」

「ああ、アルドさんちょうど良い所にいまシタ。すぐに来て下サイ、不審人物がいますノデ」

「あ、私、家に戻ってする事あるから、それじゃあね」

「あ、エイミ……リィカ、不審な人物だって、何処に居るんだ?」

「こっちデス、付いて来てくだサイ」

 アルドはリィカの後を追って駆け足でエルジオンポートに移動するのだった。

 エルジオンポートにはこの時代に似つかわしくない兵士の格好をした男性が立っており街を行き交う人々に鋭い視線を向けていた。

「少し前からエルジオンの各地で出没してはああして通行人をジッと見詰めているのデス」

「警備はどうしてるんだ?」

「悪い事をしている訳ではないノデ、でも、あの姿、ミグランス兵の姿と完全一致していマス」

「もしかしたらこの時代に飛ばされて来たのかも。分かった。話しを聞いてみるよ」

アルドは兵士に近付く。

「少し良いかな」

「君は……確か」

「あ、えっと、もしかして俺の事知ってる?」

「ああ、勿論」

「やっぱりミングラス――」

「ナンパ師だろ」

「ナンっ――」

「彼の名前はナンパ氏ではなく、アルド氏デス」

「リィカ、そう言う意味じゃないと思うけど」

「俺は暫くこのエルジオンと言う街を各地で監視し続け来た。その男はある時は妖艶な真っ黒なドレスを着た女性と、ある時はダイナマイトなお姉さんと、ある時は可愛らしい女の子と、そしてある時は白と黒の丸っこいロボット連れた方や全身緑の得体の知れない生物等と、とっかえ引っ返しながらこの街を巡り歩いていた」

「アルドさん……」

「誤解だから! そもそも最後の2つは男だから! 全部用事があって行動してただけで、とっかえ引っ返しと言うのは――」

「先程は元気で明るい女性と映画館に、今度はそちらのメカメカしい女性を連れているではないか?」

「だからそれもこれも全部用事があって……なんだろう、言えば言う程悪者になって行く様な気がする」

「話しを戻しますが、あなたはミグランスの人デスネ」

「驚いた。ああ、俺はミグランス兵もと言い、騎士のリタンだ」

「時空の穴に巻き込まれたのか、急にこんな場所に飛ばされて戸惑ってるいるんだろうな――」

「いつ飛ばされて来たのデスカ?」

「ここにか? 2年前だ。最近ここの生活にやっと馴染み始めた所だ」

「馴染めてる様には見えないんだけど……と言うか2年も前からこっちにいる事の方が驚きなんだけど」

「いいや、もうパッと見ただけじゃこっちの人間と差異を感じられない程馴染めている。前は変わってると良く言われたが、今はそんな言葉は久しく聞いていない」

「うん、もう、変わってるを通り越して不審人物になってるから」

「不審人物? そんな輩が居るのなら俺も退治に協力しよう。これでもミグランス兵としては出世頭だったんだ」

 リィカはリタンから距離を取りアルドを呼ぶ。

「アルドさん、どうしまスカ? 自分が不審だって事に全く気付いてまセン」

「俺が言うのも何だけど、こっちで暮らすなら服装くらいは変える物だと思うけど」

「彼は兵士デス。あの格好は正装も同然、なみなみならぬ思いがあるのかも知れまセン」

「でもあの格好じゃ目立ち過ぎるし、いつまで経っても不審人物のままになるし」

「……はあ、今日も現れてはくれないか。……」

「あのジッと見つめられると落ち着かないんだけど」

 リタンはアルドの正面に勢い良く移動する。

「アルド君をこの街で随一のナンパ師としてお願いしたい事がある、いや、あります!!!」

「だから違うから! 誤解だから!」

「女性に思いを伝えるにはどうしたら良いか教えてください! 出来ればデートをしたり女性を楽しませるコツも教えて欲しい! 後は――」

「ストップ! 一旦ストップ! とにかくここだと目立つから」

「確かにこんな目立つ場所で秘伝の極意、ナンパ術を教えて貰おうなどとおこがましい話しでした。アルド君、いえ、師匠! 付いて来て下さい、俺、いえ、自分の家までついて来て下さい」

「急に口調や態度が変わりマシタ」

「当然です。騎士とは時に偉そうに、しかし目上の方には礼を尽くす存在。師となるお方に礼をを尽くさずいつ礼を尽くすと言うのですか。自分の家はこちらです」

 リタンは1人で先にエルジオンの街に戻って行く。

「アルドさん、どうするのデスカ?」

「……行くしかないだろ」

「良かったデス。アルドさんのナンパ術には興味がありましたノデ」

「リィカまで……とにかく追い掛けよう」

 アルド達はリタンの後を追い掛け彼の家に向かうのだった。

 リタンが入って行った家に入ると中にはエルジオンに馴染んだ服装をした金髪の青年が1人だけ立っており、アルドはその人物に一先ず声を掛ける。

「あの、ここに変な格好をした人が入って来なかったか?」

「兵士の格好をした頭の可笑しな人デス」

「……それ、自分の事ですか?」

「えっ!? もしかして、リタン?」

「師匠、自分の事に気付いてくれないなんてあんまりです……あ、もしかしてこれもナンパ術の1つなのですか? それと俺の頭は可笑しくない、とても正常だ。そんな事より師匠、自分は告白したい女性がいるんです! なのでそのお力を、ナンパ術をお貸しください!」

「何故兵士の格好をしていたのデスカ?」

「俺からも同じ質問するけど、そんな服を持ってるならどうしてあんな目立つ格好をしていたんだ?」

「少し長い話しになりますが、構いませんか師匠」

「師匠は止めてくれないかな」

「分かりました、ナンパ師匠」

「変わってないけど!?」

「あの格好をしているのは今から約1月前、彼女が言ってくれたんです。騎士が好きだと。こっちに来てから僕はすっかり変わってしまった。毎日剣の稽古を行い、修練を続けていた日々などすっかり忘れ去り、今では会社に出勤し、デスクでプログラムを組む味気ない日々を送っている。自分は騎士、誇り高きミグランスの兵、いえ、騎士だったんです! 初心に戻る意味も込めて、自分は騎士の格好で過ごす事にしました」

「2年でそこまで馴染めるのもある意味才能デス」

「機械とかプログラムとかいつまで経っても理解出来ない自信しかないけど」

「アルドさん、今度教えてあげマス、ノデ」

「ごめん……遠慮して置く」

「その格好をしてる事で、彼女からの反応は何かありましたか?」

「ええ『キャハ、リタンは面白いニャ』と言ってくれました。その瞬間、この胸にあつい高まりの様な物を感じ、その日は久々に剣の稽古を取りやめ……」

「……実践に向かったのか、やっぱり実戦じゃないと剣は鈍るから」

「最高のプログラムを書き上げました。同僚にも褒められ、1人の騎士として鼻が高かったです」

「騎士のするべき事じゃないよね!?」

「ナンパ師匠! お願いします! 彼女に振り向いて貰う為のアドバイス、いえ、稽古を付けて下さい!!!」

「どうするのデスカ、アルドさん?」

「……そこまで言われたら、仕方ないな。俺に何処まで出来るのか何が出来るのか分からないけど協力するよ」

「ありがとうございますナンパ師匠!」

「あの、引き受けるからアルドって普通に読んで欲しい。話し方も硬く無くていいから」

「それは騎士として難しいです、せめてアルド師匠と呼ぶのは許可して貰えませんか?」

「それなら、まあ」

「アルド師匠、寛大な処置、ありがとうございます!!!」

「……引き受けたのは良いけど、実際アドバイスとか何も思いつかないんだけど。リィカ何か良い方法ない?」

「特定の相手を振り向かせるのなら、その人物の詳しい情報を得る事が重要デス」

「と言う事だけど、リタンの思い人の事を詳しく話してくれないかな」

「はい、まず猫耳が生えています」

「えっと、何?」

「まず、猫耳が生えています」

「……えっと、ちょっと待って、考える事出来たから。リィカ、俺が知らないだけで猫耳の生えてる人って存在するのか?」

「存在しませんと否定したいですが、カエル人間の知り合いがいマス、ノデ」

「……魔族の可能性も考えられるかも」

「そもそも作り物と言う可能性が高いデス。オシャレとして付ける人もいマス」

「なるほど、作り物か。お待たせ、リタン、他にも彼女の事を教えて欲しい」

「とても可愛いです」

「他には?」

「可憐で可愛くて……もう! 天使です!」

「見かけの情報ではなく内面的な情報を教えて欲しいデス」

「とにかく可愛い物が好きで、猫のぬいぐるみが大好きだそうです」

「やっと真面な情報を聞けまシタ」

「それなら猫のぬいぐるみをプレゼントするのはどうかな? 好きな物を貰って喜ばない人は居ないと思うよ」

「プレゼント……すぐに買って来て、彼女にプレゼントしてみます! アルド師匠、ありがとうございました!!!」

「あ、ちょっと……行ってしまった。俺、何かしたのかな?」

 アルド達は家を飛び出して行くリタンを見送るのだった。

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