第3話  興味がある。お前に

 二人が選んだ場所は屋上だった。

 空一面澄んだ青空に、心地の良い風。

 コンクリートの白い床と周囲を高い金網が囲う。

 その籠の中には二人以外の人影は見当たらない。

 近くの金網に背中からもたれ掛かる九条。その九条と向き合う形で立つ杉山。


「手の傷はどうだ?」


 口を開いたのは九条。

 言われて杉山は右手の甲を見る。昨日キリによってつけられた傷は既に瘡蓋に変わっており、ほぼ治りかけていた。



「大丈夫、もう治りかけてる」

「昨日はすまなかった。キリは普段ああいう奴ではないのだが」

「構わないよ。不用意に触ろうとした僕も悪かった。これが話?」

「それとは別だ。あの場所で言うのは抵抗がある。その点、ここなら邪魔はいない」

「じゃあ、話というのは?」


 一体何を言うつもりなのか? 杉山は固唾を飲んで九条の次の言葉を待つ。


「今度の日曜日、空いているか?」

「え?」

「知っての通り、私はこの街に来て日が浅い。知り合いもいないので、街の案内を頼みたいのだ」


 意外な言葉だった。

 本来なら知り合って間もない相手に、こんなことを頼むのは図々しいという他無い。断るのが当然なのだが。


「良いよ」


 二つ返事で杉山は了承する。

 元より九条に対して興味のある杉山にとって、この頼みは渡りに船。

 快諾を貰えた九条も、僅かに口端を歪ませた。


「では、日曜日。頼むぞ」


 九条はフェンスから体を離し、杉山の横を通りすぎていく。

 その際。


「――私は、お前に興味がある」


 耳元でそう、囁いた。

 一瞬であったが、それは何かの呪詛のように杉山の耳に残った。

 九条はそのまま屋上から降りていくが、杉山は茫然と立っていた。



















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