第20話 狂人、雄矢/360話 転生者だから
隕石が次々に二人の周りを落ちていく。
今のところ彼らのどちらかに当たることはない。
その中心でユウヤが言う。
「だって俺、転生者だし」
「……は?」
将斗は今、ユウヤから語られた『転生者』という単語と、彼が罪悪感を感じない理由との二つを繋げることができなかった。
ただでさえ不快感を抱かせてくる彼が、そんな意味不明なことを言うため、将斗は薄気味悪さも感じた。
しかし、理解を拒めば会話が止まってしまう。
隕石を止めるためにも、会話を続けてどうにか彼の気を惹かなければならない。
将斗はとりあえず彼の発言の意味を聞くことにした。
「……どういう意味なんだ、それは」
「頭悪ぃなぁ。俺は転生者だから問題ねぇって言ってんだよ」
ユウヤは常識だろといわんばかりの顔でそう言った。
だが、将斗には理解できない。
「……わかんねぇのか? あぁ、そうかお前もしかして異世界転生を知らねぇな?」
「……? 知ってる、そのくらい。それとこれが全然結びつかないって話を――」
「だったらわかんだろうがよ。それともあれか。神からあの話を聞いてねぇってことか?」
「……あの話?」
「俺たちが読んでいる異世界転生の話の半分くらいは実話って話をだよ」
「それは聞いたが」
将斗がこの世界に来る前、確かに神からその話を聞いていた。
ユウヤは将斗の返事を聞くなり、呆れ顔を作ると
「はぁ? じゃあもう答えは出てるだろうが」
「……?」
「転生した俺が、その物語の主人公だってことだ」
将斗は一瞬、頭の中で、今彼が言った『シュジンコウ』という発音に該当する漢字を当てはめていった。
それが『主人公』であると理解した途端、背中を何かが走り抜けた。
寒気に似た、なにかが。
「神の言うことが本当なら、この世界は、俺が主人公の物語の舞台ってことになるだろ? だから俺が何しようが問題ない。そこら辺にいるやつらは全員俺を引き立てるための舞台装置に過ぎないんだよ」
軽いめまいのような感覚が将斗を襲う。
高度数百メートルの目の前の空間に、狂気が漂っていた。
曇りのない、純粋なる狂気が。
「そんなやつらに罪悪感なんて感じるわけねぇだろ、ハハハッ」
嗤っている。
震えた声で将斗は問いかけた。
「本気で言ってんのか……お前」
「あ?」
「人を殺すことが、主人公だからって理由で許されるとか、本気で言ってんのか……?」
「話聞いてたか? この世界は俺の物語の舞台なんだぜ? 俺の行動が物語の進むべき道であり、正解なんだよ。何したって全面的に肯定される。許す許さないとか、そういう話じゃねぇんだよ」
火球を放つ手を止めずに、ユウヤは語り続ける。
「この世界の全ては主人公であるこの俺のためにある。殺される奴は俺に殺されるために存在してるだけ。全員役割を果たせて本望だろうがよ」
将斗は返せる言葉がなかった。
話が通じる気がしなかった。
将斗とユウヤでは、この世界の人間の命に対する価値観が違いすぎた。
確かに将斗は別世界の人間だ。それでも、流石にこの世界の命の価値は、元居た世界と同じくらい、尊いもので、そして何物にも代えがたいもので、大切なものだと思っている。
だがユウヤは違った。彼の話を極端に解釈するなら、彼の思うこの世界は『ユウヤが好き勝手するために作られた世界』ということになる。それを彼はその通りだと信じている。だから全面的に肯定されるなどと言った。
どう考えても、彼は現実と物語を混同させている。
同じ世界から来ているはずなのに、二人にはこれほどまでズレている。
将斗はズレているのは向こうであってほしいと願った。
そんな彼に対して、何一つ言葉が思い浮かばず、将斗は唾を飲み込むことくらいしかできない。
「どうした? 顔色わりぃぜ?」
薄ら笑いを浮かべた彼が声をかけてくる。
「……引いてんだよ……お前のイカれ具合にさ」
将斗は絞り出した声で、強がった。
「へぇ、イカれてる、か……まあ確かに同郷だしそういう感想にもなるか……」
ユウヤはわざとらしく顎に手を当てて考えるようなしぐさをし、そのまま首を捻って将斗の方を見た。
「でもよ……人を殺すのって楽しいんだぜ」
「………………」
「10歳なら10年、20歳なら20年。奇跡や偶然起こして、危機を乗り越えて、コツコツと積み上げてきたあいつらの時間を、俺が一瞬で奪える! そいつがしてきた努力とか色々全部全部、全部俺が奪えるんだ。しかもこの俺の、無限の力さえあればなおさらだ。殺す殺さないも洗脳魔法で自由に選べる。こんなのさぁ! 楽しくないわけないよなぁ!!」
そのまま続けて、ユウヤは殺した時の感触がどうこう言っていたがもう将斗は聞いていなかった。
将斗には彼がただの快楽殺人犯同然のクズにしか見えなくなった。
ユウヤの言動から察するに、彼は他者に、自身の力を振るうことを楽しんでいる。
相手の気持ちなど微塵も考えていない。
こんなやつに苦しめられたグレンたちが心底不憫でならない。
こんな奴に振り回された国民がかわいそうでならない。
そう思い将斗は、抱いていた嫌悪感をより一層強め、それがいつしか怒りに変わった辺りから拳を握り締め始めていた。
「――だからその時の感触が最高に引き立てられるんだよ。それでな」
「どうでもいい。もう聞いてないよ」
「あ?」
目を閉じながらペラペラと話し続けていたユウヤの話を遮る。
話のいいところで切られたのか、ユウヤは一気に不機嫌そうな顔になった。
その表情から若干の殺意がにじみ出ているのを少し感じながらも、将斗は臆せず言う。
「お前は間違ってる」
「はぁ……そうか……で?」
「俺この世界でまだ三人としか話してないけど、そいつらは、笑うし、怒るし、負けたら悔しがるし、多分泣くときは泣くんだよ。守りたいもののために必死になるし、哀れんだりもしてくれる」
「……はぁ……だから?」
「感情があんだよ! この世界が、お前のために作り上げられた世界なのかどうかは知らない。でも、感情があるなら、死ぬときは怖いって思うだろうよ。仮に作り物でも恐怖はそこにある」
そのことを、死ぬ思いを何回もした将斗自身が、誰よりも知っている。
「この状況だって皆怖いに決まってる。なのにお前は、そのクソみたいな魔法で、皆の自由を奪ってる。逃げることもできないし、怖いって叫ぶこともできない。お前は皆を永遠の恐怖の中に閉じ込めた悪だよ」
将斗は思いっきりユウヤを指差した。
洗脳魔法に掛けられた時の感覚を将斗は覚えている。
身動きの取れない中、恐怖だけは感じ取ることができる。
国民にそれを味わわせているユウヤを許すことはできない。
将斗はその怒りをユウヤに叩きつける。
「ようやくはっきりした。もともと勇者っぽい振舞いしてたって言うから、実は今悪いことしてんのも、何か事情があるんじゃないかとか思って若干遠慮してたけど、もういい。今ならお前を全力でボコボコにできる自信しかねぇわ。覚悟しろクソ野郎!」
一気に言ったせいか、将斗は深呼吸をした。
そんな、言いたいことを言い切った将斗を、ユウヤが睨みつけてきていた。
火球を放つ手は止めずに。
そして口を開き――
「で?」
と、言った。
そのままユウヤは続ける。
「ご高説どうもありがとう。全然響かなかったけどな」
「お前……」
「何か色々言ってたが、お前がやろうとしてることはわかんだよ。俺の気を引こうとしてんだろ?」
「……!」
「俺はさぁ、正直今すぐお前に火球をぶち込んでやりてぇんだよ。その、俺と同じ土俵に立ててる、とか思ってそうなその顔がムカつくからさぁ。でも我慢してやるよ……だってお前が俺の気を引くのはこれのためなんだもんな?」
そういってユウヤは上に向け続けている手をぶらぶらと揺らす。
「
「それは……」
図星を突かれ、将斗は軽く言葉が詰まる。
そこへユウヤが畳みかけてくる。
「だがぁ〜? 残念なことに俺はお前の相手をしない。極力この火球を放つ手を止めない。レヴィ脅して聞いた話じゃ、体に触れなきゃスキルは奪えないんだったよな?……だったらこうだ」
ユウヤが火球を放つ手とは逆の手を、将斗に向けてきた。
「お前が近づいてきた時だけ魔法を撃つ。それまで空に火球を撃ち続ける」
ユウヤは上を一瞬見てから将斗の方を向いた。
「そろそろ気付いてると思うが、お前ら詰んでんだよ。あの王子が走り回ってるのを見るに、魔力切れしたってとこだよな? レヴィも流石に延々とあの魔法を使ってられねぇだろ。……だけど俺は無限にこれを撃てる」
ユウヤは欠伸をしながら言う。
「要は下手なことしない限り俺の勝ちってことだ。まあ、よく頑張った方だな。でも、無限には勝てねえよ」
「っ……!」
巨勢でもなんでもなく、その発言は事実だった。
その言葉はナイフのように将斗の胸に突き刺さる。
悔しさという痛みが将斗を襲う。
ユウヤが将斗の相手をしない、ということは隕石の供給が止まらないということ。
彼の言う通り、このままの状態が続くと将斗たちは負ける。
将斗の残りの魔力は、あと数分飛んでいられるくらいまで減ってきている。この状態でユウヤに接近した際、放たれる火球を避けられるか危うい。避けることができても、その後、魔力切れで墜落する可能性もある。
ユウヤは無限に飛んでいられる上に、無限に攻撃ができる。
今彼は自身が最も有利である長期戦へ持ち込もうとしている。
「最悪だ……」
将斗は苦し紛れに呟く。
何か手段はないかと頭の中で模索し続ける。
――せめて何か……何かできれば……
自分にできることは限られている。
しかし、大見得を切って飛び出してきたのだから、ここで何か結果を出さなければいけないと将斗は必死に思考を巡らした。
そんな将斗に、ユウヤはもう既に勝負に勝ったというような顔を見せてくる。
「にしても~最後はあっけねぇ幕引きになりそうだな? ……こんなことならもうちょっとだけ追い詰められてもよかったかもなぁ?」
後からなら何とでも言えるだろと、将斗は怒りを覚える。
「俺に歯向かってくる奴なんて久々だったから、もう~少し遊んでいたかったんだけどなぁ? マジで最近退屈だったんだよ。ルナを殺してストレス解消するのもマンネリになってきてなぁ」
「お前、ふざけっ…………」
グレンの婚約者であるルナの不死を利用した、最悪の行いを語られ、将斗は飛び掛かりそうになったが、思いとどまった。
今の彼の発言に何か引っかかるものがあったのだった。
「どうした~? 声も出ねぇってか? ハハハッ」
「……お前」
「あん?」
「お前、一体いつから国民を洗脳してるんだ?」
その疑問にユウヤは「フッ」と少しだけ笑った。
「いつから? 何の話かと思えば……二年前からだよ。全員な! 俺の無限の力ならそのくらい余裕だ。あの日から、この国のやつらは全員、俺の人形になったんだよ! どうだ俺の力は! 凄ぇだろ?」
自分のことだからか、自慢げに話すユウヤ。おそらく彼はそういう性格なのだろう。
その一方で将斗は、ある種の気づきを得た。
そしてそれは、上手くいけばこの絶望的状況に対する希望となりうるものだと将斗は思った。
だからそれを共有することにした。
「レヴィ、聞いてたか?」
『……ん?! ごめん、そっちの会話は聴こえないの。聞こえるのは将斗の声だけ。何かあった?』
「そっか。悪い、飛んでられる時間が少ししかないから手短に話すぞ」
将斗はレヴィと小声で話し始めた。
レヴィの声が届く魔法はまだ繋がっていた。
小声で話している将斗にユウヤが「聞こえねぇぞ」などと言っているが、将斗は、こちらを無視するのならこっちも無視をすればいい、と彼の言葉を耳に入れずレヴィとの会話に集中した。
「ユウヤは二年前から国民全員を洗脳してる」
『うん、知ってるわ』
「でも、歯向かうやつは殺すんだよな? これに関しては神からも聞いてる」
『そうね……』
「おかしくないか?全員洗脳してるはずなのに歯向かってる人間がいるんだよ」
将斗が違和感を覚えたのはそこだった。
神からも、グレン達からも『ユウヤに歯向かったものは殺される』と聞いていた。
しかし、先程、将斗が墜落して見た民衆は皆、誰一人として逃げようとはしていなかった。つまり洗脳魔法にかかっているのは確実。
だが数名、洗脳から逃れたものがいるのも事実。
ここに、洗脳魔法を解くカギがあるんじゃないかと将斗は思ったのだった。
『確かにおかしい……自力で解いてる人間が確実にいるもの……でも、やっぱりそのきっかけがわからないわ。音や光は直接五感に訴えることができるから、きっかけとしては相応しかったんだけど……この現状を見る限りそれじゃない。何か別の……』
「そうなんだよ。別の、なんかがあるんだよ……今思いつきそうなんだ。ここまで出かかってんだけど」
将斗は『何か』を思いつくことができそうだった。
だが、喉元まで出かかっているのに言葉にできない。
明確なイメージが湧かない。
そんな将斗に、レヴィは――
『将斗。なんか思いつきそうなら、私から助言するわ。何かを想像する時は、目を瞑って、深呼吸して、頭に浮かんだ映像だけに集中するの。雑念とか全部気にしないで、五感を完全に切り離す感じでやるといいわ。私、新しい魔法を作るときはそうしてるの』
「目を瞑って深呼吸……わかった」
将斗は言われた通り、目を閉じた。
深呼吸をする。
目の前にはユウヤがいたはず、目を瞑った自分に魔法を撃ってくるかもしれない。
――違う……どうせこのままだと負けるんだ。だったら、そんなこと気にしなくていい。
将斗は危険な状況であることを考えないようにしつつ、洗脳魔法について考え始めた。
――何か思いつきそうなんだ。あの時俺は何を思って、レヴィに話しかけた……?
将斗はレヴィに話しかけた時のことを思い出す。
ユウヤに国民を二年間洗脳していると聞いた、あの瞬間に将斗は何かに気づいていた。
――何かを考えていたはずだ。
将斗はその時考えていたことを必死に思い出す。
考えていたのは、二年間洗脳され続けた国民たちの姿だった。
言われた言葉が映像となって将斗の頭に流れていた。
再びその映像を頭の中で流す。
勇者だったはずの男が、国王を殺し、自分たちの自由を奪い、玉座に座るその姿が浮かぶ。
二年間それが続く。
その男は好き勝手暴れまわり、国民の中から立ち向かっていった勇気ある者たちは次々に力及ばず死んでいく。
最近では立ち向かうものが少なくなった……
将斗はいつしか、国民の一人になったつもりで考え始めた。
圧倒的な力への恐怖。
理不尽な行いへの怒り。何もできない無力感。
反逆を許さない抑圧。それからくる押し潰されるような圧迫感。
いつまでたっても、希望が現れないという絶望感。
「……諦める、な」
『え?』
「俺が国民だったら、諦めてる。心を殺して隷属を選ぶ。その方が楽だし、安全だ。二年もあんなのが居座ってたら、立ち向かう気なんてなくなる」
自身に投影したこの気持ちは、ついさっき墜落して、屋根の上で眺めるだけになった時の気持ちと似ていた。
将斗はあの時、命がかかっていて立ち上がらざるを得ない状況な上、グレンの必死な姿を見たことで、何とか立ち上がることができた。
でも国民はどうだろうか。国民は二年間、打開策を見つけられないまま生きていた。
彼らは魔法を無力化できる剣や魔法があることを知らない。
あの力そのものを取り上げることができる人間が現れたことも知らない。
その状況で希望なんか抱けるわけがない。
諦めざるを得ない。
しかし一部の人間は立ち向かった。
彼らは皆、殺された。
だが彼らの存在は無駄じゃない。
今、この状況を打開するきっかけになる。
「諦めなかった人たちは洗脳から逃れることができたんだ。だから……解くカギは諦めないって意思じゃないか?」
『意思? 洗脳魔法ってそんなんで解けるの……? でも、私もクリスもあいつに対して――』
レヴィが小声で何か言っているが、魔法でも聴こえないくらい小さい声になっていて将斗には聞き取れない。
『ああぁ! ごめん! 私の悪い癖が出てた!』
「お、おう」
『ともかく、細かいことはもういい、これ以上色々考えたりするのきついのよ! それで何? その諦めない意思を国民に持たせればいいって話でしょ。どうする?』
「……希望を見せつけてやればいい」
『希望って?』
「適任がいるだろ?」
**************************************
「お前、いつまでここにいるんだ? なにもせずにただ横にいやがって、そろそろイラつくぞ?」
「………………」
「無視かよ」
ユウヤは舌打ちをした。
この戦いは正直、もう勝っている。
このまま火球を撃ち続け、横を飛んでいるスキルを奪うことのできる転生者に気を付けていれば終わるのだ。
先ほど、向かってくるまでは魔法を撃たないと転生者に告げた。
ユウヤはそのうち激昂して向かってくるものだと思っていた。
そうしてくれれば、一撃見舞って終了。
不安要素は消え、快適に空に飛んでいられる。
だが彼は向かってこない。
いつまでたっても横をただ飛んでいるだけだった。
そのせいでずっと気を配っていないといけないため、ユウヤは苛立つのだった。
苛立つが、一方で冷静だった。
ユウヤは自身が不器用で、怒りやすい性格だということを自覚している。
下手なことをするとうまくいかない可能性がある。
それのせいで、今自身を最強に仕立て上げているスキルを失うことになったら目も当てられない。
ただこの状況を保ってさえいればいいと心に決めていた。
きっともう諦めたのだろうと楽観的に受け取ることにした。
その時だった――
「待たせたな」
「ああ?」
急に転生者がユウヤに話しかけてきた。
「準備できたってさ」
「んだよ急に、なんのだよ? あれか、俺に勝てる方法でも見つかったか?」
「それは見つかってない」
ユウヤは少し口角を上げた。
やはり自分に勝てる者はいないのだと安心した。
「まあ、お前の魔法に勝つことにはなるのかもな」
「あぁ?」
安心感が消え去る。
転生者が何かを企んでいる表情をしていた。
ユウヤは目を細めた。
レヴィから、彼の持つスキルは聞いていた。しかし、瞬間移動のスキルは聞いてなかった辺り、まだ彼には何か隠されている可能性もある。
場合によっては形勢が逆転する可能性だってある。
だが
なぜなら何かされてもすぐに対応できるようにと、もう一方の手は転生者を狙い続けているからだ。
確実に逃さないように、一番得意な火球をいつでも放てるように準備をする。
つまり、対策は万全だった。
しかし、『お前の魔法に勝つ』――その言葉がユウヤを不安にさせ続けた。
「もう始まるってよ」
「ちっ、うぜぇないちいち……何が始まんだよ?!」
転生者はVサインを作って見せてきた。
「第二段階」
「んだそれ――」
――その時、金属をすり合わせたような音が響いてきた。
耳を塞ぐほど大きくはない。
それは足下の国から伝わってきたものだった。
そしてその音は今、空にいる二人なら聞きなじみのある音だった。
「スピーカー……?」
『ファング国の皆! 聞こえるか!!』
電子的、こういう場合は魔力的と言うのか、機械によって変換されたせいで籠った声が聞こえてくる。
だが、どこか聞き覚えのある声で、その主が誰なのかすぐに検討がついた。
「王子の声だ? てめぇら何を――」
「だから第二段階だって言ってんだろ」
転生者が、先程作ったVサインを鋏のように閉じたり開いたりする。
下からは続けて、王子の声が響いてくる。
『僕だ! 前王スカーレッド・ファングの息子、グレン・ファングだ!』
「いまさら何を……」
「作戦だよ、作戦。第二段階『民衆の洗脳魔法の解除』だ」
「作戦……?」
ユウヤは気づいた。
気づいて、歯軋りをした。
彼らはまだ、諦めてなどいなかった。
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