王子、再び魔王と対峙!?

 野次馬をかき分けて、被害があった店の入り口まで行く。


 看板には、『閉店』の文字がかけられている。


 店員の女性が、頭を下げながら事情を話していた。

 隣にいる姉が、辻斬りの被害者らしい。腕を押さえている。

 一命は取り留めたが、フライパンを振るうことはできないかも知れないという。


 姉妹で運営していたが。ケガが治っても復帰できないそうだ。


 こんな尊い店を、破滅に追い込むとは、犯人許すまじ。


「ん?」


 あれは、ライバラではないか。


 ライバラはオレを見かけると、脱兎の如く逃げ出す。


「あ、ちょっと!」

 急いで、オレはライバラを追いかけた。


 なんという早さだ。さすが、学年いちの俊足である。


「待て! 待ってくれ!」

 オレは、足が速いほうではない。クラスでも中くらい程度だ。


 足をもつらせながら、ライバラの背中を追う。


 なぜ、逃げるのか。

 オレだって、ライバラが犯人だなんて思っていない。

 逃げたら、余計に容疑が掛かるというのに。


「うご!」


 何か黒い物体に、ぶつかってしまう。

 ボヨン! と、オレの身体は弾かれた。

 後ろにもんどり打つ。


 むくりと、オレは起き上がる。


 ダークエルフの少女が、腕を組むように自らの爆乳を押さえていた。頬を染めている。彼女とぶつかってしまったのか。


「ちょっとなんなの、こいつー」

「ひどくない?」


 両脇にいる同じダークエルフ族が、オレを罵った。

 三人組で全員がギャル風ファッションだ。

 体型にバラつきがあるが、全員がきわどい格好をしている。


 ギャルとはいえ、三人は各々の手を繋いでいた。

 カバンにはお揃いの、ファンシーな悪魔の刺繍が施されている。

 ワルとはいえ、仲がいいのだろう。


 これはこれで尊……いや、そんなコト言っている場合では!


「お兄さん、マジなんなん?」


 胸を押さえている少女が、この集団のリーダーらしい。

 長いワンサイドアップの髪型が印象的だ。

 しかし、どこかで見たような。


「いや、スマン! おや?」

 オレは、この少女に見覚えがあった。

 いや、この間戦ったばかりではないか!


「ま、魔王だと!?」


 彼女は、中間試験でオレと戦った魔王だった。

 あのときの激闘で、オレはまだ万全ではない。

 なのに、こんな街中で出くわすとは!


 しかし、魔王らしき少女から殺気が漂ってこない。

 むしろ、ここから早く消えたいような雰囲気を出していた。


「なにコイツー。顔は整ってるけど、雰囲気はヤバめだよねぇ」

「ジロジロ見ないでほしいんですけどぉ」


 迷惑そうに、取り巻きたちがオレを再度バカにする。


「待て。用事はすぐ済むから!」


 たしか名前は、ギャルなんとかだ。そう!


「ギャルルトルートッ! ギャルルトルートではないか?」


「なんなん、その名前?」

 リーダー格の少女は、反応が素っ気ない。


「オレを覚えていないのか? オレは、キミと戦闘になったのだぞ! あそこの山奥でだ!」


 中間試験のあった、ダンジョンのある山を指さした。


「いや、アンタなんか知らんし」

 しかし、少女は首を振る。本当にわからないようだが。


「覚えてないのか? あれだけの被害が出たんだぞ!」

「マジ知らんし」


 眉間にシワを寄せて、魔王らしき少女は後ずさる。


「なにコイツ、キンモー」

「まじひくわー。ルーちゃん行こう行こう」


 相手にしたくないとでも言わんばかりに、問答無用でダークエルフのギャルたちは逃げていく。


 待て、と言いたかったが、満身創痍の状態で勝てるとは思えない。悔しいが見逃す。

 それよりも、今はライバラの方が先だ。



 だが、結局ライバラを見失った。



 肩を落としながら現場に戻る。


 店の前で、優しげな光が灯っていた。

 また魔物でも出たのかと思ったが、違う。


 ソフィとツンディーリアが、ケガをした店員を治療していたのだ。


「キミたち、いったいどうして?」

「買い食いしに行った友だちが、騒ぎを聞いて報告に来てくれたのよ」


 自分なら直せると思って、ソフィたちは寄ってみたという。


「ここのアップルパイは人気だそうで、買いにいったらこんな事態になっていたと」


 確かにソフィの魔力なら、辻斬りに遭った料理士の傷を治せるだろう。


 ツンの方は、ソフィが息切れしないように自身の魔力を送っている。ソフィの手を握りながら。


「直せそうか?」

「私を誰だと思っているのよ?」

 強がってはいるが、ソフィは首にジットリと汗をかいていた。

 精神を集中させているのだ。


「ひどいやられ方をしているわね。でも安心して。キレイに切れているから切断面をイメージしやすいわ。切れ味の鋭さがアダになったわね」

 神経の切れ目に手をかざしながら、ソフィは治癒の魔法を流し込む。


 治癒魔法は、「パッと掛けたらサッと直る」といった単純な物ではない。

 相手の症状などを見極める正確な目も必要である。


 膨大な魔力さえあれば、無学な素人でも強引に治療することは可能だ。


 とはいえ、よほどの達人でない限り必ず綻びが生じる。

 後遺症が残ったりするモノだ。


 戦闘でも料理でも建築でも、どの分野に於いても同じこと。正しい知識が必要なことに変わりはない。


 魔法学校は、そういった各分野の専門知識を学ぶ場でもあるのだ。


「もう大丈夫よ」

 脂汗をかきながら、ソフィが患者から手を放した。

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