百合おじエルフの記憶
完全に、魔王の気配は消えた。
同時に、モンスターの群れもいなくなる。
これで、安全に下山できるだろう。
「みんな無事か!?」
オレは、ソフィたちに駆け寄ろうとした。
しかし、足がもつれる。
「ムリをしすぎよ」
一番ムリをしていそうなソフィが、立ち上がろうとした。
脇を押さえ、再度うずくまる。あれは、アバラが折れたな。
「命に別状はありませんが、疲労困憊です。数日は動かないように」
イモーティファが、ソフィを治癒魔法で落ち着かせる。
人一倍元気娘のソフィが、ここまでへばるとは。
ツンの口数も少ない。息を切らして、へたり込んでいる。
魔王戦は、相当にヘビーだった。
死者が出なかったのが不思議なくらいである。
ソフィとツンが、互いの背にもたれていた。
ザ・戦友という光景である。
「それにしても、ナイスコンビネーションだったな、二人とも」
「ぷえ?」
妙な声を上げて、ツンがソフィと離れた。
「なんか百合というより、男同士のロマンスって感じがしたぜ」
ツンが、口をパクパクとさせている。
「お、王子を守ることで、必死だっただけよ!」
「そそそうですわ! どうして恋敵と共闘なんて!」
ひじ鉄をぶつけ合い、お互いがけん制した。
しかし、事情を知っている者には、力が入っていないとわかる。
「王子、お見事でしたぁ」
生徒の額に治癒魔法を施しながら、ポロリーヌ先生が礼を言ってきた。
「いえいえ。先生方がケアしてくだされる方が、生徒たちにもいいだろう」
オレの魔法では、単なる荒療治だ。ムリヤリ元に戻したに過ぎない。
ポロリーヌ先生のような熟練者に治療してもらった方が、生徒にとっては安全なのだ。
「魔王すら退けるとは。いったい、どんな武器を手に入れたんですかぁ?」
「これなんだが」
オレは、聖剣を先生に差し出す。
「ちょっと見せてくださぁい」
ポロリーヌ先生が、聖剣に触れた。
「こ、これは偉大なる大魔道士が遺した、偉大な聖剣ではないですかぁ。手に入れたら博物館行き確定で、文献にしか載っていないのにぃ!」
ワナワナと、先生が両手を震わせる。
「いくらバルシュミーデ家の血を継いでいるとはいえ、こんな激レア中の激レア装備なんてぇ」
先生は迷っている風に見えた。
貴重な国宝級武器を没収するか、生徒の守り刀として盛らせるか。
「あの、ポロリーヌ先生、持たせといてええと思いますよ?」
「メイディア先生?」
「こんな恐ろしい武器、うっかり国なんかに管理させたりしたらあきまへん。宝の持ち腐れですわ。誰にも扱われへんでしょう」
宮廷魔術師でさえ、正しい使い方など知らないだろうと、メイディアは言う。
「せやったら、王子のような変人に持たせた方がお得ですわ。彼にしか、この武器を最大限に引き出されへんのですさかい」
「そうですね。では王子、その武器を所持することを許可します。あなたなら、悪用なんてしませんよね」
もちろんだ。
メイディアがオレの側に寄って、「なあ」と声をかけてくる。
「なんかあの魔王、不完全ぽかったな」
オレが話そうとしていた内容を、メイディアが振ってくれた。
「たぶん、調子のいいときにフラっと現れて、腕試しに来たのだろう。それで邪魔なオレを倒せたら御の字、といったところか」
しかし、その目論見は脆くも崩れ去る。
「もしかすると、この武器をくれたのも敵のワナか?」
「おそらく、ちゃうやろうな。あんたらを潰すためにワナを張ってたんなら、わざわざパワーアップなんかさせへんて」
それにしても、「あの女ども」とはなんだ?
オレと、関わりがあるのだろうか。
「ん? ライバラ、どうした?」
「いや、なんでもない」
ライバラは、魔王が去った方角をずっと見つめていた。
「ふむ。魔王はダークエルフでしたか」
エルフには、エルフに詳しい人物に聞くのが一番だ。
オレはエルフ族である大臣に話を聞いてみた。
「そうなんだ。しかし、不完全体だったらしい」
「興味深いですな。こちらでも調べておきましょう」
「よろしく頼む。だが、あまり深追いはするな。あなた方の身も心配だ」
「お心遣い、感謝致しますぞ殿下」
恭しく、大臣が頭を下げる。
「それはそうと、この写真に見覚えはないか?」
オレは、ソフィとツンににた女性二人が写る写真を、大臣に見せてみた。
といっても、アルバムから拝借した集合写真だ。
長寿のエルフなら、この人物たちがわかるかも。
「お、随分と懐かしいですな。よきよき」
「知っているのか?」
「もちろんです。丸い欠席欄にいるのが、私ですからな」
集合写真の欠席者にいたのが、大臣だった。
「懐かしいですな。私は、初代ヴェリエ家の次女様と、ミケーリ家の初代ご令嬢と同級生だったのです」
「そんな昔の話だったのか?」
この当時から、大臣は公務をしていたらしい。
欠席していたのも、国家間でのトラブルに対処していたからだという。
「二人の死について、何か知らないか?」
「あいにく、公務で席を外していまして。ですが、彼女には姉上と弟君がいらっしゃって、それぞれが子孫を残したそうですね」
また、興味深い話をしてくれた。
ヴェリエ家は当時、リスタン公国を統一する予定だったらしい。
しかし、女性しか生まれなかったせいでリスタンが実権を握ったという。
うさんくさいんだよなぁ、リスタンは。
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