百合の複合技

「なんだその、全てを焼き尽くすような魔力は! 我を封じた魔力を、遥かに凌駕するではないか! まさか!」

 見るからに、モンスターは足がすくんでいた。


「そのまさかだよ」


 勇者の家系ヴェリエと、竜族ミケーリ家の魔力を、このバルシュミーデの魔力で増幅させたのだ。


「お前は生かしてはおけぬ。封印なんかでは生ぬるい。確実に仕留めてやろう!」

 野球のバットのように、オレはソフィの剣を構える。


「ツンディーリア、ボールを!」



 ノックの要領で、ツンディーリアがオレに球を放り投げた。



「【奥義・百合走者一掃リリー・ホームラン!】」 



 オレは、剣をフルスイングした。

 ソフィとツンディーリアの魔力を携えたファイアー・ボールを、光線剣から放つ。


 三人分の全力を圧縮した、スペシャルボールだ。


 魔物の口に、魔力弾が叩き込まれた。


 霊体が、備品から抜ける。


「ふごおおおお!」


 窓を突き破って、霊体だけが夕暮れの空に飛んでいく。


「てえ、てええええええええ!」


 特大の花火となって、魔物の亡きがらが空を照らした。


「消滅を確認。浄化完了や」


 メイのひと言で、オレは安堵する。杖を、ソフィに返す。


 悪しき気配は、跡形もなく消えた。

 これで、あの魔物も浄化されただろう。


「よくあんな技、思いついたな」

「野球のノックは、二人でないとできないだろ? それで発想を飛ばした」

 

 さすがのオレも、ダメかと思った。

 二人がいなかったら、決定的なダメージは与えられなかっただろう。 


「みんな無事でよかったわね、ツンディーリア」

「一時はどうなることかと」

「素敵だったわ。ツンディーリア」

「いえいえ。ソフィの助けがあったからですわ」


 互いの手を取り、ソフィとツンディーリアが栄誉をたたえ合った。


 尊い……なんて言っている場合ではない。


「二人のおかげだ。ありがとう」

 本気のお礼を、二人に送った。


「い、いいわよお礼なんて」

「えへへぇ。こちらこそ。王子、お気遣いなく」 


 どういうわけか、二人はいつになくしおらしい。

 いつもなら、罵倒の一つでも返ってくるはずだ。

 しかも、オレはソフィから武器まで奪っている。


「アンタはヘンタイだけど、頼りになるわ。困ったことがあったら、いつでも力を貸すから」

「ええ。判断力と意志の強さは、さすが王子と言うべきですわ。ヘンタイですが」


 ヘンタイは余計だ、二人とも。


 しかし、あれはなんだったのか。


 魔物が消え去った後、不思議なことが起きる。


 あれだけ壊れていた備品の数々が、元通りになっていたのだ。

 しかも、ホコリまでキレイに取り払って。


 これだけの芸当ができる人物は、一人をおいて他になし。


「何があったのです」

 シスター風の老女が、教室に入ってくる。

 この学校の校長だ。

 さっき散らかった部屋を片付けたのも、彼女である。


「校長先生。実は」

 メイが代表して、事情を説明した。


 校長はモノクルを直しながら、コクコクとうなずく。

「わかりました。今日のところは帰りなさい。後日、事情を説明するように」


 


 翌日、オレたちは学園長に呼び出された。


「なんだろうな?」

「おそらく、オレへの処分を検討しているのだろう。あの魔物を呼び寄せてしまったのは、オレだからな」


 学園長は、豪華なテーブルについている。

 モノクルを付けて、学園長は皺だらけの目元にさらなる線を増やす。


「これは、一期生のアルバムですね」


 挟まっていた写真を見て、学園長は驚いていた。

 が、すぐに冷静さを取り戻す。


「このフォトに込められたわずかな魔力が、あの魔物を弱体化させていたようですね」


 セピア色の紙を眺めながら、学園長は微笑む。


「封じられていた魔物の調査は、学園側でも進めていました。彼女たちに取り入ろうとした二人の貴族は、魔族と繋がっていたというウワサもありまして」

「魔族と? 本当ですか?」


 学園長は、「ええ」と応える。


「バルシュミーデは大国です。若き魔術師たちが集うこの学園を乗っ取ろうと、魔族らは画策しているようです。若い段階から、闇の世界に取り込もうと」


 敵の強大さに、オレたちは息を呑む。


「ところで学園長、ブルルンヒルデという魔族に、心当たりはないか?」

「私も尋ねられましたが、聞いたこともないですね」


 しかし、と学園長は続けた。


「空き教室の封印が破られやすくなっていたのは、確実です」


 調査の結果、魔物をこの地に復活させたのは、オレの不注意ではないと判明したらしい。


「ならば、オレは」

「はい、王子。あなた方の行いは、不問と致します。魔物を退治したのも、みなさんですし」


 あの魔物を起こしてしまった責任として、多少の処分は覚悟していた。


 けれど、学園長は許してくれるという。 


「あなた方の活躍によって、学園の平和は守られました。心から感謝致します」


 モノクルを外し、学園長が暖かな笑顔を見せる。


 ありがたい学園長の言葉に感銘を受け、オレは胸をドンと叩く。


「今後も、精進致します!」

「あらあら、頼もしいわね王子」

「ですから部の名称を【百合テロ部】に!」

「頭を冷やしてらっしゃい王子」



 後日、オレだけ分厚い反省文を書かされた。

 納得いかん!

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