第1話

第1章「はじまり」


ピッ…ピッ……


ー宇宙空間。小惑星の群れの中静かに計器類の正常を表す音が一定のリズムで流れ出す。


ピッ…ピッ……


宇宙服を纏った人影。少女だ。

宇宙空間をふわりと浮かびながら小惑星のひとつに機械を取り付け何かを調査している。

「……」

ひとりということもあり終始無言で、じっと小惑星にあてがった機械を見つめ、淡々と調査を進めていた。

しばらくして、ピーッと少し長い音が周囲に響く、機械が調査が終えたようだ。

「……うん」

少女はあてがっていた機械を小惑星から取り外し、宇宙服背中の収納スペースに機械をしまう。

そのまま泳ぐように宇宙を進み出した

小惑星の群れを滑らかに避けながら抜け出すとそこには大きなクジラの様な形の宇宙船があった

この者の船のようだ。

入口へと進みそのまま中へ入り込む。

「オ帰リナサイマセ、るーちぇサマ」

機械音声が宇宙船内から聞こえる、ソレに返答をすることも無く頭に被っていた帽子を取った。


一見、宇宙服のような外見をしているが、るーちぇと呼ばれたそのヒトは、終始ヘルメットをしていなかった。

ヘルメットの代わりに被っていた帽子から発せられる目には見えない膜を首元まで滑らせ服と連結し酸素を発生させるこの世界では主流の技術だ。

帽子を取り、空気の色が変わったことにふぅと一息ついたるーちぇは腕についているモニターから調査結果のデータを船に送り込みながらシャワールームへと歩き出した。

「データノ受信ヲ完了シマシタ」

廊下に響く機械音声を聞きながらシャワールーム手前の脱衣室まで来たるーちぇは慣れた手つきで宇宙服を脱いでいく。

無重力状態が外よりは控えめではあるが発生していて、脱いだ服や装着されていた計器類がゆっくりと地面に落ちていく。

それを気にせずシャワールームへ入り蛇口を捻る

反重力のお湯がるーちぇの身体をゆっくり濡らす。

独特な方法ではあるが慣れると心地の良いシャワーである。

るーちぇも心地良さに目を閉じシャワーを楽しんだ。


「…コソ」

そこに、脱衣室の方で何やら小さな影が現れる

シャワールームではるーちぇはまだその影には気づいて居ない。

「コソコソ」

「…?」

数秒の時間差で異音に気づき、るーちぇはシャワーを止め脱衣室の方を向き扉を開ける


「あっ…おかえり」

扉を開けるとそこには小さな紫色のしゃべるクマのぬいぐるみが居た。

…正確にはそのクマはるーちぇの脱いだ下着を頭に被っていた。

「…げるまん」

「…」

げるまんと呼ばれたクマのぬいぐるみは黙って被っていた下着をそっと脱ぎ足元に置くと背中を向け

「っ!!」

「あっ、まちなさい!!」

廊下に走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「もう、どうしてげるまんは変なコトばかりするのよ…」

改めて宇宙服を着たるーちぇが今度は宇宙船の操作室らしいところで椅子に座ってデータ処理の作業をしながらげるまんに話しかける

「いやぁーはは、オレの楽しみのひとつなモンやからなぁ、…つい?」

「つい?じゃないよ…変な楽しみを作らないで、えっち」

げるまんは自身の身体背面を宇宙船の1部にケーブルで連結させ、るーちぇのデータ処理を補助している。


このげるまんと呼ばれたぬいぐるみは、補助ドールと呼ばれる種類で宇宙船操縦の補助や主人の手伝いを行う自我を持った人工物であり、いわゆるペットと言う分類である。

ある日るーちぇが訪れた小さな星で安売りされていた所を購入した。

通常なら補助ドールは安くても300エル(1エル=22円)もする高級品だが、げるまんはその半分以下の105エルで売られていた。

仕事も出来るし補助も難なく出来るかわりに性格が悪いとのことでかなりの値引きがされ廃棄処分寸前だったらしい。


確かに購入当初は反抗的で口も聞いてくれないそんなドールだったが、次第に打ち解けてゆくと素直になってきた正にダイヤの原石のような子だった。

そのかわり、セクハラオヤジのようになってしまったがそれも全て長い年月を得て手にしたるーちぇとの信頼の証である。


「うし、るーちぇ!データ処理終わったで」

「うん、助かったよありがとうね」

「やーやー、お易い御用やでこんなんチョチョイのチョイや!」

背中のケーブルを引っこ抜きげるまんは座席に座っているるーちぇの元に歩み寄る

「ほんと助かるよ。わたしこういう計算弱いからひとりだったらまだ掛かってたよ〜」

疲れたと言いたげなゆるい表情でるーちぇは座椅子にぐったりとしていて

「計算ならまかしとき!…にしてもこの小惑星のデータどないするん?本社には前に送ったはずやで?」

「うん、これは本社じゃなくて私たちの今後の為に取ったの」

「今後?どういうこっちゃ」

げるまんが、るーちぇの座席近くの床下に手をあてがうと床下からげるまんサイズのちょうどいい座れる球体のようなモノが現れる

ソレに座ると興味あり気に話を聞いて

「あの惑星に付着してた苔がね水になるの。ていうかあの惑星の8割がね苔そのものなの」

「ミズゴケってやつか」

「そう。私たちポロルシア星人は水は命の源だから貯水槽の節約になるならなんだってしなくちゃ!」


ポロルシア星人と呼ばれたるーちぇは見た目はニンゲンという種族とは遠く離れていて、クラゲ種と呼ばれる種族で、頭には2本の触覚があり腰の後ろ側からは三本の触手のようなモノが生えている。体型などはヒト型で触るとつるぷにしている。全体的にピンクの体色をしており顔やお腹などの一部は白い。瞳は綺麗な翡翠の色をしている。

ポロルシアという星は海と同じ物質で覆われた星で、そこに住むのはるーちぇのようなクラゲ種のヒトが多数存在しているらしい。

そんなるーちぇは水苔を前に嬉しそうにしていた。


「なるほどなー、んじゃあ後で回収するんやね?」

「うん。そのつもりだからげるまん、補助お願いね」

「ん、かまへんで」

いつでも行けるでと一言添えてげるまんは椅子を回転させる

るーちぇはよろしくねと言うと目の前にキーボードを空間展開し何かを打ち込んだ

「…あれ?」

ふとるーちぇは目の前のモニターに表示された例の小惑星の大群の中に目をやる。

そこには何やら点滅しているモノがあった

「どないしたんや、るーちぇ」

「あれって…救難ポッドじゃないかな」

目の前に浮かぶキーボードをタンタンと打ち込みモニターを拡大させる


そこには確かにヒト1人が立って入れる救難ポッドが信号を出しながら浮かんでいた

「回収しよか」

「うんお願い」

るーちぇの返事を聞く前にげるまんも背中のプラグに船のコードを繋げる

クジラ型の船の口のような部分が若干開き中からロボットアームが伸びてくる

るーちぇは操縦桿を少し前に倒し微力で前進をする。

小惑星を器用に避け、ロボットアームが救難ポッドに届く位置まで進めると操縦桿を正位置に戻した。

今度はげるまんがぐっと構え信号伝達でロボットアームを動かす

傷を付けないように慎重にアームを伸ばし救難ポッドをキャッチする

「掴んだで」

そのままアームを収納しクジラ型の船は口を閉じる

と同時に2人は座席を離れ格納室へと走り出した。


格納室へ到着すると掴まれたままの救難ポッドがそこにはあり信号光を一定の感覚で出している。

信号光は救難ポッドを射出された時間に応じて段階があり、青、黄、赤の順になっている

この救難ポッドは青の光を放っている。


青は比較的生存率が高いうちでるーちぇは恐る恐るトビラに手をかける

「あ、安全圏なのに救難ポッドなんて珍しいよね、げるまん」

「せ、せやな…るーちぇ、気ぃつけや?」

「う、うん…」

るーちぇの足に隠れながらげるまんも様子を伺っていて


やがて、ロックを外しプシューと音を立てて救難ポッドは扉を開く。

白いモヤが辺りを一瞬覆い自然と飽和し視界が良好になるとソコには誰も乗って居なかった。

「なんや、どういうこっちゃ」

かわりに一通の封書が反重力の空間に漂いやがて地面に落ちた。

るーちぇはその落ちた封書を拾い見回す

「…え?!」

その封書は不思議な事にるーちぇ宛の手紙だった

「どうしてわたしの名前を…?!」

「ほんまにどういうこっちゃ……」

訳も分からず手紙を開封する

手紙の内容はこう書かれていた


星々を超えた先で待ってる

私を見つけてくれたまえ

ぺるちぇより


「なぁるーちぇ、ぺるちぇって誰や?」

「…」

手紙の内容に唖然とするるーちぇ。

「なぁ、…大丈夫か?」

「…お」

「お?なんや?」

ぼぉっとするるーちぇに「おーい」と足元から手を振るげるまん

驚きで瞳孔が小さくなっていることに心配そうにしていると、やがてるーちぇは声を出した。




「………お姉ちゃんだ」



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