閑話 エントーマ王国

 アリエスたちがミーテレーノ伯爵領にて始める宿屋で、結婚式を兼ねたパーティーをしている頃、ハルルエスタート王国の北西にあるエントーマ王国王都にて、革命軍と新国王による茶番がなされていた。


 エントーマ王国は、王都に虫塔と呼ばれる天高くそびえ立つダンジョンを有しており、国風は実力主義であった。


 しかし、ソレルエスターテ帝国から嫁いできた公爵家令嬢が王妃になってから徐々に面倒なことになりだした。

その王妃は処刑されたソレルエスターテ帝国の元女帝とは従姉妹になり、自分に逆らえば帝国が黙っていないと圧力をかけ、やりたい放題であった。


 自身が住まう王都に虫が沸くダンジョンがあるなど耐えられないと遷都を熱望し、帝国の圧力をチラつかせてその計画をゴリ押ししており、最西端の海側にある王家直轄領を勝手に王都にしてしまった。

いくら王妃が騒ごうとも数年で遷都できるはずもなく、王都はダンジョンと共にあるべきだという貴族を含めた国民の意識を変えることは不可能に近いものがあり、王妃だけがそこに住まうことになったのである。


 国王が城をあけるわけにもいかず、彼は海側にある王妃自称の王都とダンジョンがある本来の王都とを行き来することになってしまったが、元々その王家直轄領へはバカンスに訪れることが多かったため、それほど大変な思いはせずに済んでいた。

つまり、バカンスの時期にしか王妃に会いに行っていなかったのだ。


 そんな生活であってもやることをやっていれば子供はデキるわけで、王妃は男の子を二人産んでおり、第一子である第一王子は夫である国王にそっくりで、第二子である第二王子は王妃である自分にそっくりであった。

そのため王妃は自分に似た第二王子を可愛がり、第一王子は乳母に預けたきり放置していた。


 国王は放置されている第一王子をダンジョンがある王都へと連れて行き、そこで王太子、ひいては国王になるための教育を施していったのだが、それに王妃が激怒した。

「何故、第一王子にばかり構うのか、次期国王は第二王子しか認めない、逆らうのであれば女帝である従姉妹が黙っていない」と騒ぎ立て、王太子は第二王子に決まってしまった。


 何故、実力主義のエントーマ王国が帝国の圧力に屈してしまっていたのかといえば、実力トップの国王が何だかんだ言いながら王妃にベタ惚れであったからなのだが、時が経つにつれて愛しさよりも鬱陶しさの方が上回り、結局は、隠れて愛人を囲っていたりした。


 それに気付かない王妃ではなかったため、彼女はダンジョンがある王都へと刺客を放ち、愛人や愛人との間にできた子を始末していた。

中には命からがら助かった者もいたが、深手を負ったために隠れるようにして生きているものばかりであった。


 そして、老いには勝てなくなった国王は退位して、王太子であった第二王子が新国王に即位したのだが、その後、帝国でクーデターが起こり、従姉妹である女帝が処刑されたために後ろ盾を失った王太后前王妃は、そのまま海側にある王都こと王家直轄領にて幽閉されることとなった。


 帝国の圧力をチラつかせて好き放題していた彼女をこれ以上野放しにするわけにもいかないが、実力主義なエントーマ王国ではそれだけで処刑するに値しなかったのだ。

しかも、革命軍を率いて城に乗り込んできたのは、本来ならば王太子となり国王となるはずだったのは自分だと主張する第一王子であったため、そうなると王太后は国母であることには変わりなく、余計に処刑できなかったのである。


 新国王となっていた第二王子も同母兄である第一王子のその意見に賛成であったため、何の抵抗もなく国母である王太后と共に海側の王都へと引っ込んだのだ。

国政がめんどくさかったとかいう彼の小さな声は、ごくごく身近な側近と同母兄である第一王子しか知らない。


 しかし、この交代劇という茶番に待ったをかける者たちがいた。

それは、前国王と愛人関係にあった女性たちの実家である。


 前王妃であった王太后がその存在を認めなかったため側室には出来ず、愛人でしかなかったが、それでも前国王との間に子供をもうけていた。

王太后に狙われて命を落とした子もいたが、中には生きているものもいるため、その王子や王女たちも加えて新たに国王を選出すべきだと主張し始めたのだ。


 そう言って反対派という派閥を作りはしたが、退いた第二王子も革命軍を率いていた第一王子も前国王から教育をきちんと受けることが出来ていたため、まともであり、宰相や大臣たちも二人を認めていたのでその勢力はあまり力を持つことはなかった。


 それでも、何とか対立候補をと躍起になっているのだが、王太后に狙われても辛うじて生きていた王子や王女は「そっとしておいて欲しい」と、王家から支払われている生活費でひっそりと過ごしている。

命を狙われたことで心身に多大なダメージを負っており、王族としての公務が出来ないため、あまり予算は割かれていないが、彼らには生活費の他に慰謝料が王太后の持参金から支払われているので、質素な暮らしにはなっていない。

 

 第二王子が新国王としてお披露目をする前にソレルエスターテ帝国でクーデターが起こったため、これ幸いと玉座を第一王子へと明け渡した第二王子は、海側にある王家直轄領にて静かに本を読んで過ごしている。


 反対派が躍起になっていても事態は変わらず、第一王子が新国王となったことをお披露目するための準備は整っていった。


 そのお披露目への招待状がハルルエスタート王国に届くまで、あと少し。

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