第八話 やっちゃうもんねー
トムの家がある街までは、アマデオ兄貴に頑張ってもらえば3日で着くということを考えると、どれだけ兄貴がすごいのかが窺える。
しかし、それはアマデオ兄貴の足が速いというのもあるが、睡眠が必要なく、炙りサキイカと蜂蜜ホットワインを嗜みつつ、ちょこっと休憩するだけで、ほぼノンストップで駆け抜けられるからである。
つまり、トムが帰宅する予定の日まで、まだかなりあるのだ。
そのためアリエスは、「どーせなら、行けるとこまで行こうぜー!お土産のランクが高い方がいいだろうしさ!」ということで、更に先へと進むことになった。
一階層はスライムから口紅が、二階層はウサギで
四階層は、山猫からアイライナー、五階層は犬でアイブロウ、六階層は鳥でチークが出た。
しかし、六階層で鳥のモンスターが出るようになったからといって、スライムやウサギが出ないかといえばそんなことはなく、今までの階層で出たモンスターと同種ではあるが、格段に強くなったのがたまに出るようになった。
ネズミが出たのは七階層で、ヘビが出たのは八階層だったのだが、ここに出るスライムは上級魔法でないと効かなくなっており、このパーティーに限って言えば倒せるのはアリエスとルシオ、そしてディメンションルームの砂場でほっこりしているジャオだけである。
つまり、ここから先に出るスライムを倒すには上級魔法の更に上、特級魔法が必要になってくるのではないかと、アリエスたちは考えているのだが、彼女がブッパしているアブソリュートゼロやヘルファイアは特級魔法に分類されるので問題ないだろう。
さて、九階層までやって来たパーティー"ギベオン"は、目の前のボスモンスターに四苦八苦していた。
山猫と犬の双頭にネズミの身体、そして背中には鳥の翼、尻尾は蛇というキマイラのようなそうじゃないようなモンスターなのだが、コイツ……分裂して山猫、犬、ネズミ、鳥、蛇の五体に分かれるのだ。
しかも、同時に倒さなければ再生する上に山猫と蛇、鳥は物理攻撃、犬とネズミは魔法攻撃しか効かないため、なかなかタイミングが合わず手こずっている。
そして、段々とイライラし始めたアリーたんは、瞳孔の開いたお目目でニタっと笑うと「いいもんねー、いいもんねー。やっちゃうもんねー」と、魔力回復薬をがぶ飲みし、一箇所だけ穴を開けた分厚い氷魔法でキマイラのようなモンスターを囲うと、そこへブラッディ・ライアンから貰った劇毒混合液を流し込んだ。えげつな……。
劇毒1種類だけでもかなり強力なのに、それを2種類投入することで威力は3倍を超える。
しかも、片方は魔法薬なので犬とネズミにも効く上に威力が上がっているため、為す術なく溶かされていっており、後に残ったのは猛毒
「アリエスさん……。どうやって回収するっていうか、宝箱のは別としてあのアイテム使えるんでしょうか?」
「さあ?洗浄魔法でどうにかなるかな?ていうか、どうにかしねぇと、あっちに行けないよな」
イラっときて後先考えずにやった結果ではあるが、猛毒塗れになった場所の向こうへウェルリアムに転移してもらえば問題は解決するということで、アイテムは毒が効かないミロワールに回収してもらった。
報酬を念入りに洗浄し、万物鑑定で毒が残っていないことを確認したアリエスは、ボスから得られたアイテムが何なのかをメンバーに伝えることにした。
「えっとな。『まじかる☆めいくあっぷ♡-これで、あなたも美しく-』だってよ。中身は化粧道具一式なんだけど、これで顔を描くと美人になるスグレモノ、だとさ」
「まじ、まじかるスターめいく?あっぷハートって、どういう意味なんだよ」
「ルシオさん、スターとハートは記号になっているんだと思いますよ?」
「リムの言う通りスターとハートは記号だから本来は読まねぇと思うが、雰囲気が伝わるかと、あえて言ってみた。んー、なあ、フリードリヒに使ってみねぇ?中身減らねぇってあるから、じゃんじゃん使えるし」
「さすがに強敵から得ただけあって、中身が減らねぇアイテムなのかよ。ていうか、弟に何をするつもりだよ。楽しそうだな、おい」
ハインリッヒは止めるかと思いきやノリノリである。
憐れフリードリヒ。ボス戦を終えて風呂でサッパリしたメンバーたちに、いつものように美味しい料理を食べさせてやろうとテーブルに並べていたところへ、アリーたんから指示を受けたテレーゼが彼を座らせてメイクしていった。
出来上がったフリードリヒは、ゴツイおっさんから見目麗しいイケメン親父に進化していた。
美人になるとあったが美女になるとは書かれいなかったことを思い出したアリエスは、「この化粧道具すげぇ!!」と、はしゃいだ。
そして、フリードリヒがこうなったのなら元から美形であるロッシュに使ったらどうなるか気になったので、クリステールにやらせた。
テレーゼにやらせれば出来上がる前に彼女が倒れるかもしれないと思ったからである。
その結果、ハルルエスタート王国国王並に進化してしまい、加齢による大人の色気と相まってとんでもないことになった。
それを見たアリエスは、「ロッシュすごいっ!キュンキュンする!」と喜んだため、調子に乗った爺さんは流し目でウインクした。
最近は鼻血を垂らすこともなくなっていたテレーゼは、流れ弾どころかその大砲に吹き飛ばされブッシャー!と出血大サービスしてブッ倒れたのだった。
クララが回復させている横でアリエスはテレーゼに「ごめんな。相変わらずダメなのな」と、心配そうに彼女を見て「父ちゃんに使ったらどうなるんだろう?」と、つぶやいた。
さすがにそれはヤバいと周囲は思ったのだが、アリエス全肯定派のロッシュは「完成する前に化粧を施している側が倒れると困りますので、大丈夫そうな人を探しておきましょうか?」と、アリエスに確認したのだが、冷静になった彼女は「やっぱ、やめとく。何か怖い」と言ってハルルエスタート王国国王を更に進化させるのを止めたのだった。
やらなくて良かったぞ、アリーたん。
そんなことをしてしまえば国王の周囲にいる側近共が使い物にならなくなったからな。好奇心は身を滅ぼすこともあるからな?ほどほどにしておいてほしいものである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます