第六話 早急に
カボチャ色のトムが、なあなあ結婚から恋愛結婚に進化した、その後。
アマデオ兄貴に突っ走ってもらえば乗り合い馬車よりも早くて安全ということで、依頼主であるジェンマには会わずとも一緒に来てもらうことになった。
妹だと名乗るジェンマが、財産分与というフレーズの方が会ってくれるかもしれないという理由からそう言っただけで、本当は普通に会いたかっただけかもしれないからだ。
しかし、ここで
シルトクレーテ伯爵領で発見したダンジョンの封印を早急に調査せよ、ということで、転移が出来るウェルリアムを連れて田舎道へと引き返すことになったのだ。
トムは、予定していた日に家に戻れればそれで良いということで、こちらの都合で足止めしているのだからと、料金こっち持ちでちょっと良い宿屋で新婚旅行気分を味わってもらうことにした。
トムとヴィオラの子供は、たまにルシオとグレーテルが面倒を見ているので、ハネムーンベイビーができるのも時間の問題かもしれない。
ということで、虫取り網を持っていそうな感じでアリーたんは、ウェルリアムを連れてダンジョンの入り口が封印されていた場所へとやって来ていた。
そこは、何の変哲もないただの藪にしか見えないのだが、ルナールが契約している高位精霊とミスリルランクにまで上がったハインリッヒには、何か感じるものがあった。
難しい顔をしたハインリッヒは、「これに気付かないとか、調査していた連中に仲間がいるんじゃねぇか?」と、ロッシュに視線を向けた。
「つまり、元カンムッシェル辺境伯の息が掛かった連中が調査に入っていた、と?」
「可能性は、あるんじゃねぇか?」
「んー、でもさぁ。ハインリッヒさんほどの冒険者って、そんなにいるか?」
「いや、まあー、それはそうかもしれねぇけどよぉ」
アリーたんに褒められてちょっと照れたハインリッヒおじちゃん。
そんな彼を放置してアリエスは、ダンジョンが封印がされている場所へと向き直った。
「とりあーえーずぅー、鑑定してみるか。なになにー?シルトクレーテ伯爵領"藪の中ダンジョン"……。すげぇ、ネーミングセンスだな。入り口が封印されてることに意識がいってて、前はそこに気付かなかったわ」
「国が正式な名を付けると、それに変更されるかと存じます」
「おもしれぇから、このまんまにしよーぜー。
「はい。名前はそのままが良いと、
「やった!よろしくぅ。んで、だーれが封印したのか……、おっと出ました帝国のアラムでーす!」
「おや、まあ、そうでございましたか。アラムということは、トップの人材ですね。なるほど、向こうも必死だったわけですか」
「トップ?」
「アラム、イラム、ウラム、エラム、オラムという風にランクが下がっていくのですよ。つまり、アラムが封印をした、ということは向こうはコレにかけていたのでしょう」
ロッシュは、帝国の犬たちについて軽くアリエスに説明し、推測ではあるが、シルトクレーテ伯爵領で魔物の氾濫を起こし、元カンムッシェル辺境伯を通じて帝国が支援という名の武力介入をするつもりだったのではないかと言った。
さすが、ロッシュ。当たってるぞ。
「あれ?でも、カンムッシェルもうないぞ?」
「ええ、そうですね。氾濫が起こったとしても、新たに辺境伯領を統治することになった王弟殿下が軍を率いて収拾にあたったでしょうからね」
「つくづく間の悪いやっちゃな、帝国って」
「ほっほっ、左様でございますね」
間が悪いというか、アリエスが片っ端から潰しているというか、ハルルエスタート王国側からすれば笑いが止まらんなぁ、といったところである。
何の目的で仕掛けたのかは推測でしか分からないが、やったのが帝国であるということだけ分かれば十分なので、とりあえず先に魔物がシルトクレーテ伯爵領方面へと向かうようにしてある細工を外すことにした。
もちろんただ外すのは危ないので、ミストとブラッディ・ライアンがアリエスの万物鑑定の結果をもとに行なうこととなった。
そして、入り口の封印なのだが、鑑定してみた結果、これを解除したとしても一気に溢れ出すほどではないが、それも時間の問題と判明したため、速やかにミストとブラッディ・ライアンに外してもらったのだが、万が一ということもあるので、ルナールが契約している精霊に防御マシマシにして貰った上で行なった。
封印が解かれてアリエスがやることと言えば、入り口から中へ向かって思いっきり炎魔法のヘルファイアをブッパし、追加で氷魔法のアブソリュートゼロをお見舞いすることだった。
ゴロゴロと物が転がっている中を見るに、どうやら狩った獲物の解体は必要ないタイプのダンジョンであった。
慎重に万物鑑定しながら歩いていくアリエスと周囲を警戒しつつ転がっている物を拾って歩くパーティー"ギベオン"のメンバーたち。
ある程度行くと、ちらほらとモンスターが出始めたのだが、その種類はほとんどがスライムで、たまにお尻に角のような尻尾が生えているウサギがいた。
スライムは物理攻撃が一切効かず、魔法も上級寄りの中級魔法以上でないと効果はなく、ウサギは魔法を尻尾で吸収し、それを自身の身体強化に回してしまうので、スライムとセットになっていると、かなり面倒なことになる。
アリエスが魔法をブッパしたときにいなくて良かったな。
今のところ罠などはないが、途中から仕様が変わることなどいくらでもあるため、気を抜くことは出来ない。
安全地帯まで辿り着けばウェルリアムが転移で来られるため、とりあえずそこまで行って調査を終えることにしたアリエスは、安全地帯と思しき場所で呆然としていた。
これ、なんぞ……?
リクライニングチェアほどの大きさをした、どう見てもリアルな入れ歯がズラリと並んでいるのだ。
しかも、開いている。
分からないものは鑑定してみよう!と、見てみたところ、ただの椅子であった。
「すげぇ趣味してんな」
「いや、アリー、趣味とかいう問題か、これ?」
「ハインリッヒさん、それ以外に何があんだよ……。ちょっと座ってみるか?」
「あっ、アリエス様、待って!私が確かめてみます!」
「そうか?んじゃ、ミロワール頼むわ」
得体の知れないものは私が確認します!とミロワールは慎重に入れ歯……ではなく椅子に座ってみた。
「んー、特に変化はないですね。本当に、ただの椅子のようです。よかった。ぱっくん!とか、されなくて」
「おっ、結構座り心地良いな。そういや、まだ入手したアイテム見てなかったな」
アリエスは、ロッシュからこのダンジョンで入手したアイテムを受け取ると鑑定してみたのだった。
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