閑話 ぽっぽに役職が増えた
ここは、ハルルエスタート王国王城にある大図書館。
その大図書館の奥にある王族専用エリアでは、ウェルリアムと第一王子が、手当り次第に本を引っ張り出してみてはチラ見して片付ける、ということを繰り返していた。
たまにウェルリアムの顔が赤くなったり嫌そうな顔になったりしているため、少し休憩を入れることにした第一王子は、どのような本があったのか尋ねてみた。
「えっと……ですね」
「遠慮はいらないよ。君は、この件に関して言えば『国王代理』なのだから、第一王子の私よりも立場は上になる。という
「あ、はい。ええっと、ですね。か……」
「うん。『か』?」
「かん……の。官能小説が……ありました」
「おや、まあ。まだリムには刺激が強過ぎたかい?うん?でも、君は学園に通える年齢だろう?閨教育もあるだろうに、そのようなことで大丈夫かい?」
「教育本と小説は言葉の選びが全く違うので……」
「ああ、表現が卑猥だったんだね」
「はい……。あと、その、猟奇的な内容の物もありまして……。それは、小説ではなく、日記でしたので……」
「なるほどね。たまに王家に出る特徴だから、まあ日記みたいに書いた小説、もしくは妄想の日記だと思うことにすると良いよ」
今でこそ行き過ぎたサイコパスな王族はお片付けされてしまうが、以前は見て見ぬふりで、やらかしたことを権力にものを言わせて闇に葬り去っていたのだ。
ちなみに今の王太子がお片付けされなかったのは、妻の王太子妃によってマイルドサイコパスになったからである。何だ、マイルドって。サイコパスにマイルド加減なんぞあるのか疑問だが、表向きはやらかさなくなったのだ。
というか、やっていい相手とそうでないのを区別するようになった、というだけである。
すぐにポキっと心を折るのは外交でも発揮されているため、各国の要人たちはなるべく王太子が即位している時代が少ないことを祈るのであった。
大図書館の王族専用エリアは空間拡張されており、実際の敷地より
ハルルエスタート王国建国以来の本もあれば、いつの時代のものか分からない本まで様々なのだが、画数が多い、つまり現在では使われていない文字で書かれた本は、一箇所にまとめて置かれているので探す手間は
一日で分かるわけもなく、ウェルリアムは
ウェルリアムだけで入って他の王族に絡まれでもしたら、面倒なことになるからである。
ウェルリアムが絡まれでもしたら、アリーたんが
転移でどこでも行くウェルリアムのことを国王も重宝しているため、そんなことが耳に入れば、例え相手が王族だとしてもどんな処罰をするか分かったものではない。
しかも、最近ではあのサイコパス王太子までもが、アリーたんをお気に入り宣言しているというのだから、そちら方面でも動きがあるかもしれないのだ。恐ろしい話である。
様々な本を引っ張り出しては見てを繰り返し、やっとのことでそれらしい本を引き当てた。
それは医師と思われる人物が書いた、考察のようなものであった。
この本が書かれた時代でも、学園を卒業する際に貴族文字の筆記試験があり、それが満点でなければ卒業資格を得られない、とあった。
それは現在も同じなのだが、その当時とは文字の多さと複雑さは比べ物にならないほど差がある。
学園を卒業しなければ貴族とは認めてもらえず、継承権も与えられない。
そうならないために子供たちは必死で、それこそ寝る間も惜しんで貴族文字を覚えた。
寝不足を解消するために仮眠を取るのではなく回復薬で済ませ、魔力を増やすために使っては魔力回復薬で回復させては使うの繰り返し。
それに加えて、上位貴族への輿入れを望む女子は美容にも力を入れるためなのか、肌荒れを改善する回復薬をも服用していた。
ここからは考察になるが、という但し書きが加えられた先には、「魔力過多症が爆発的に増え、そこに魔力熱病が流行った結果、貴族が軒並み減った。その魔力過多症や魔力熱病に、回復薬の過剰摂取が関わっているのではないか」と、あったのだ。
それを読んだウェルリアムと第一王子は、同じ結論に至った。
貴族が軒並み減ったことで、卒業資格を得ていない者たちが家を継ぐことになったのではないか、と。
卒業資格を取るためにガムシャラにならず、回復薬の摂取も少なかったことから魔力過多症や魔力熱病には
そして、それにあわせて貴族文字が減らされ、現在の文字数になったのではないか、と。
第一王子は、ふむ、と顎に人差し指を添えると、「この本によって推察すると、貴族が軒並み減ったのは世界規模ということにならないかな?」と、つぶやいた。
それに対してウェルリアムは、「一国だけの話であれば学び直すことを選択したはずですものね。世界規模で画数の多い文字が減ったということは……、それだけ貴族が減ったというふうにも取れます」と、深刻な顔をした。
それから、宮廷医の権威である大爺様と宮廷薬師のヤオツァーオ公爵へと話を聞きに行くと、回復するものだとはいえ、薬であることには変わらないので、ハルルエスタート王国では子供に服用させる際には用法用量が決められており、それが定められたのはヤオツァーオを取り込んでからであると教えられた。
近年のハルルエスタート王国では、魔力過多症や魔力熱病を患うものは少なくなっている傾向にあることを知ったウェルリアムと第一王子は、とある医師と思われる人物が書いた本のことを二人に話した。
その結果、やはり回復薬の過剰摂取がその病の原因になっている可能性は高いという結論に至った。
魔力熱病というのは、風邪の一種でもあるのだが、魔力を生産し保有している臓器が炎症を起こして熱が出るのだ。
この病は魔力量が多いほど重症化しやすく、治療法は自己回復に頼るしかないというものだったのだが、原因に回復薬の過剰摂取があるのならば、治療に回復薬を使っても治らないのは当然のことであった。
いつ頃から画数の多い文字が使われなくなったのか、ということを調べていて思わぬ結果も得られたが、ハルルエスタート王国では既に対策が取られていたものであったため、それほど慌てる内容ではなかった。
そして、ウェルリアムと第一王子が大図書館にて原因を探っている間に、アリエスがロッシュとクララに教材やカリキュラムの準備をさせた。
文字が使われなくなっただけならばそれで良かったかもしれないが、ステータス画面には使われているため、早急な対応が必要であるとし、画数の多い貴族文字をマスターした教師を各地に派遣することになったのだった。
マスターすべく我こそは!と名乗り出てきた人物たちはメリ込んだ。
何故ならば、成人していない子供たちに教わることになったからである。
唯一、成人しているクララ先生の見た目はどう見ても成人前にしか見えない上に、教育向上推進部門室長も未成年の学生のため、大人たちは膝をついた。
名乗りをあげた人物のほとんどが、失われた文字を研究していた者たちであったため、「我々の努力は一体……」と背中からシメジが生えるスタートとなったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます