第三話 お買い上げ

 人が多いとはいえ、せっかく放出日に来たのだから見て回ろうと、その間だけキートを母親のもとに置いていくことにした。


 やはり見目の良い女性はさっさと買われていくが、買われていった先でどういう扱いになるのか分かっているため、泣き叫ぶ声が響いている。

それを聞いて笑う連中もいるので、あまり気分の良いものではないが、相手は外患誘致罪になった家のものたちなので仕方がないのだ。


 放出日に流されるのは罰としてなので、かなり価格設定は低めになっており、手が届く人は多くなるが、ここに出されるのは巻き込まれたのではなく、自ら関与したものたちばかりなので同情する余地はない。


 アリーたんが欲しいのは盾役タンクと後衛物理アタッカーなので、性別なんぞ何でも良いので、あまり歳がいってない人を探している。


 なるべく30歳までいってない人いないかなぁー、とブラブラしながら見て歩いていると、変なのを見つけた。

万物鑑定しないで見ると、じいさんなのに、万物鑑定しながら見るとお姉さんに見えるのだ。


 これ、なんぞ?と思ったアリエスは、じぃーーーっと見た。

後ろでスクアーロが、「また、オッサン連れて帰んのか?」と苦笑している。


 詳しく鑑定した結果、なんとステータスまで偽装しているお姉さんだった。

じいさんに見えているのは彼女が契約している精霊で、表向きなステータスに表示されるのもその精霊につけている名前であった。


 目の前の人物から「やめろ、買うな」という物言わぬ圧力をヒシヒシと感じるため、ニタっと笑ったアリーたんは一緒に回ってくれていた受付の人に、「あのオジサン買います!」と言い、それを受けて見た目オジサンの彼女はクワっ!と目を見開いて固まったのだった。


 受付の人は内心で「また変わったものを買いますねぇ。まあ、毎度のことですが」と、動じることなく手続きをしてくれた。


 放出日に出されるのは罰としてなので、クイユのように特殊な状況でもなければクズが多い。

しかし、そればかりだと使い道のない奴隷ばかりになるので、ちょこちょことイイ感じの人材が紛れ込ませてあったりするのだが、それを引き当てられるかは本人の目利き次第である。万物鑑定を持つアリーたんには関係ないが。


 色々と見て回ったアリエスが購入したのは、じいさんに見えるお姉さん26歳、ゴツイ兄ちゃん23歳、死んだ魚の目をした少女7歳の3人だった。


 7歳の少女に関しては受付の人が最後まで、「書類には、人としてどうかと思うことをする子だと、そのようなことが書かれておりますので……。お考え直しいただけませんか?」と、アリエスに買わせるのを渋っていた。


 だが、アリエスの万物鑑定で見れば分かる。この少女がそのようなことをする子ではない、ということが。

だから、アリエスは問題ないと笑って、その少女を含めた3人を購入したのだった。


 そして、アリエスがディメンションルームのコテージへと帰ってくると、その後ろでは買われた奴隷たちが呆然としていた。

いきなり別空間にあるコテージに連れて来られれば呆然とするわな。


 そして、呆然としたまま回収され、恒例の丸洗いをされたのだが、途中で「いやん!えっちぃーーー!!」という野太い叫び声が聞こえてアリエスは、「あ、言ってやるの忘れてた。あの兄ちゃん、オネェだったんだよ」と、笑うのだった。


 顔を真っ赤にして身体はシナを作っているゴツイ兄ちゃんは、「もぅ!洗うのなら自分で出来たわよぅ!」と、唇を尖らせながらも用意されていた服に満足そうである。

フリードリヒが、「え?これなのか?嫌がらせか?」と困惑しながらオネェに渡したのはヒラヒラふりふりの服である。


 丸洗いと着替えが終わったところで、まずはキートの母親から紹介を……と思ったが、ゾラと見つめあったまま微動だにしないので、しばらく二人の世界を満喫させてやることにしたアリーたんは、じいさんに見えるお姉さんへと視線を向けると「いい加減、その偽装を解け。私には通用しないぞ。じいさんに見えるお姉さん?」と言って、ニタリと笑った。


 やはりバレていたのか……と観念したお姉さんは、かぶっていた精霊を脱いだ。

このお姉さん。契約している精霊を愛してやまず、出来心ではあったが、ついにはかぶってしまった変態さんなのである。

 

 じいさんに見えていたのは闇属性の精霊で、お姉さんがかぶれる大きさということは、かなり高位の精霊なのだが、元々の所有者はカンムッシェル辺境伯家だった。

当主が連れていたこの精霊に一目惚れしたお姉さんは、持てる能力全てを出し切ってカンムッシェル辺境伯家へと入り込んで、当主の愛人の座を勝ち取った。


 そして、いけないことだと知りつつも当主に協力し、もっと協力するには、あの精霊の力を借りたいと言って言葉巧みに自分と契約させたのだ。

さあ、欲しいものを手に入れたし、これでこの家にもう用はないわ、と出て行こうとしていた矢先に邸が完全に包囲され当主が捕まったため、邸内にいた彼女も一緒に捕まったのである。


 包囲されたことを知った彼女は、女性がどういう扱いを受けるか分かっていたため、咄嗟にかぶれたりしないかな!?と精霊に言ってみたところ出来てしまったのだ。

そして、ステータスも偽装して、じいさんのフリをして放出日に流されたのだが、アリエスに見破られてお買い上げされてしまった。


 しかし、ステータスを偽装した見た目じいさんの彼女が何故、放出日に流されたかというと、罪の重さをはかる物が審議室と呼ばれる場所に置いてあり、そこに載せられて罪の重さをはかられるのだが、それは本人がどれだけ罪の意識を持っているかという曖昧な魔道具なので、審議の参考にする程度である。


 彼女の場合は、精霊が欲しかったために色々と行なっていたので、かなり罪の意識が重かったのだ。

そのため審議室にて、「このじいさん何したか知らんが、すげぇ重いな。仕方ないが放出日に流すか」となったのである。


 ちなみに、カンムッシェル辺境伯当主の愛人が一人、行方をくらませていたのだが、アリエスがロッシュにお喋りし、彼から王家へと報告があがったため、愛人だった女性はアリエスがお買い上げしていた、ということで、外患誘致罪に関わったものは最後の一人まで所在が明らかとなったのだった。




 


 

 




 

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