15 憂い
第一話 二人
ゾラを加えてハルルエスタート王国王都へと戻っている道中に、ディメンションルームへとウェルリアムがやって来た。
キートとゾラは、この煌びやかな貴族のような少年はどこから来たのか不思議で仕方なかったが、彼からもたらされた内容に言葉が出なかった。
「マイラってのが、帝国の犬だったって?」
「はい。まあ犬と言いましても仔犬程度だそうですが。それで、そのマイラという人物が最後の一人だったそうで、似顔絵付きで情報を提供してくれたということで、金一封が出ております。奴隷解放も含まれていますが、そこはアリエスさんにお任せするとのことです」
「んなの決まってんじゃん。キート!奴隷から解放だ」
「えっ……、僕、追い出されるの?」
「違ぇよ。ご褒美での解放だから、ここにいてイイに決まってんだろ。てことで、稼いだ給料で買い戻す必要はなくなったぞ!欲しいもん買え!」
「うっ……、ぐすっ、はい、はいっ!僕、
「ぶはっ!あはははは!そうか、
「え?お父さんは?そこにお父さんも入れてよ!」
ゾラという生き物に心当たりがなかったための発言であったが、後日、哀れに思ったグレーテルがゾラに似せたぬいぐるみを作って、アリエスがお買い物アプリから購入した
何が必要な情報なのかは、あちらが精査するだろうということで、マイラのこととあわせて、キートから顔の特徴を聞き出し、似顔絵にしたことで、「チェン」と呼ばれていた男がチェンバートといって、大臣職に就いている貴族の子息であったことが判明し、ならば、マイラという女性も帝国の犬かもしれないと、信用のおける兵士たちに似顔絵を見せ、捜させていたのだ。
しかし、この話には続きがあった。
ウェルリアムが持ってきた報告では、マイラという人物は二人いて、その二人はそっくりな双子だった。
そして、片方がキートの母親であることには間違いないのだが、彼が一緒に暮らしていたマイラは、産みの母親ではなかったというのだ。
「は?何で、産みの親じゃない方が一緒にいたんだよ」
「大臣の息子の妻になろうと画策していた方のマイラが、出産という命の危険があることを嫌がり、双子の姉に押し付けたそうです」
「んじゃ、ゾラが会ってたマイラとは体の関係はなかったってことか?」
「妊娠薬を使った一度だけ、ということでしたら、そうなりますね。キート君を産んだ方のマイラは監禁されていたそうですから、ゾラさんとは、その時の一度しか会っていないでしょうね」
分からない単語がいくつかあったが、それでも自分と一緒にいた母親だと思っていた女性が、本当の母親ではなかったことだけは分かったキート。
それに対して、同じ名前を持った双子とはいえ、知らない相手が自分の子を産んでいたことに複雑な気持ちと少しの恐怖を感じたゾラ。
そんな二人を何とも言えない顔をして見ているスクアーロは、気になったことをウェルリアムに聞いた。
「その監禁されてた方のマイラってのも犬だったのか?」
「そうです。犬として育てられたのですが、生まれ持ったものを歪ませることまでは出来なかったようで、姉の方は脅されて協力していたそうです」
双子の妹ではなく、もう一人の妹がどうなってもいいのかと脅されていたのだが、その妹は完全に犬として育っていたので、姉が妹のためにと耐え忍んでいたことは無駄になっていた。
妹のことで脅され、そして、産んだ
そして、その時に
全てがどうでも良くなった姉は、マイラの目を盗んで駆け出したのだが、長い間監禁生活を強いられていたため体力も筋力も落ち、思うように走れず少し行った先で思いっきり転んでしまったのだ。
そこをたまたま通りかかった件の似顔絵を持った兵士に保護される形で捕まり、姉の証言によって監禁場所が判明し、最後の一人だったマイラも捕まったというわけだった。
ウェルリアムは報告と金一封を渡し終えると、テレーゼから安納芋のキントンパイを受け取って帰って行った。
ヤオツァーオ公爵家の面々が「また食べたい」と、うっとりしていたのでウェルリアムがアリエスにお願いしていたのだ。
アリエスがウェルリアムが置いて行った金一封を開けると、そこにはキートに与えられた奴隷解放の権利と、キートを購入したのと同額のお金、そして、手紙が入っていた。
その手紙には、キートを産んだ方のマイラ、つまり姉のことについて書かれており、帝国の犬だったとはいえ脅されて協力させられていた上に監禁されていたことを考慮して、奴隷落ちで済ませたこと、そして、放出日に奴隷商会へと流されることに決まったのだが、アリエスに優先権が与えられているので、買う買わない、いずれにしても一度その奴隷商会へと行ってほしいと書かれていた。
どちらにせよ放出があった後には行く予定をしていたのだが、早く
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