第二話 お茶を一緒に

 以前に滞在した城の部屋とは異なり、とても豪華な部屋を用意されたアリエス。

前に訪れたときは非公式な上に秘密裏に通され、しかも日帰りだったため、用意されたのはちょっと休憩するだけの部屋だったのだが、「押し掛けていくのと呼ばれるのとでは部屋のグレードって変わるのな」と、彼女はズレたことを思っていた。


 今回は招待をされているとはいえ、さすがに粛清に遭ったクイユを護衛として伴うことを止めたアリーたんだったが、父ちゃんたちにそのことはバレているので今更だぞ。


 慎重なのは良いことなのだが、それを普段から発揮しない無頓着なアリエスは、側近にロッシュとテレーゼのみを伴い、他のメンバーをディメンションルームにて待機させている。


 用意された豪華な部屋にて落ち着かな……いこともなく、ぐっすり眠って元気いっぱいなアリーたんは、キラキラしい派手な朝食の後にハルルエスタート王国王太子とその娘である王女から、午後に庭でティータイムを一緒にしたいと招待をされた。


 二人との面会が目的で城に来たので断る理由もなく承諾したアリエスがやって来たのは、少し入り組んだ位置にある中庭だった。


 背の高い木々やバラの垣根などに囲まれた中は、まるで秘密の花園のような雰囲気で、優しい色合いの花々が咲き乱れ、柔らかな風に揺られて春の香りを運んできていた。


 日除けのパラソルが置かれ、そのそばには白を基調としたテーブルセットがあり、陽の光を受けてまばゆい輝きを放つ金の髪をした男性と、少し暗めの金髪をした小さな女の子が席についていた。


 アリエスが到着したことに気付いた二人はにこやかに彼女を迎え入れると、側仕えにお茶を新しくさせ、自己紹介をした。


 「やあ、よく来てくれた。私は、ハルルエスタート王国王太子クルセーヌクルシュ・アルフォンソ・カリスト・グレンデス・ハルルエスタートだ。君には特別にアルフォンソと名を呼ぶことを許そう」

「はじめまして。わたくしは、ハルルエスタート王国王女のフェリシアナ・フロリタ・グレンデスですわ。わたくしのことはフェリと愛称で呼んでくださいまし」

「はじめまして、アルフォンソ様、フェリ様。名を呼ぶ栄誉を賜りましたこと、恐悦至極に存じます。わたくしは、シルバーランク冒険者のアリエスと申します。本日は、お目もじ叶いましたこと、無上の喜びにございます。『春の月夜に栄光あれ』」


 アリエスが自己紹介の最後に言った「春の月夜に栄光あれ」というのは、挨拶の定型文のようなもので、相手を称える言葉なのだが、デキる人はこれにひとひねりを加えたりする。

「春」は温暖な気候のハルルエスタート王国を表し、「月」はルナラリア王国を、そして「夜」はハルルエスタート王国王家の闇属性を表している。


 冒険者なのだから礼儀は気にしなくても良いと言われたアリーたんであったが、さすがに普段と同じような口調でお喋りするほど頭はおかしくなかった。違和感満載だが、仕方がない。


 アルフォンソ王太子とフェリシアナ王女の本性を知っている者からすれば、「誰だ、お前」状態で和やかにお茶会の時間は過ぎていったのだが、あまりにも二人がにこやかに優しい雰囲気で話をしてくれるため、アリーたんの心とくちのネジがユルっと、緩んでしまった。


 「そういえば、陛下へお土産を送られたとか?」

「あ、はい。父ちゃんってば、何か良さそうなものとか、面白そうとか、曖昧な感じだったので、本当に色々と送りました」

「そうなのかい?私も国へ戻ったら見せていただこうかな?」

「お父様、わたくしもご一緒させてほしいですわ」

「ふむ、そうだね。今日の報告も兼ねて一緒に陛下を訪ねるとしよう」


 何事も無かったかのように会話が続いているのだが、アルフォンソ王太子とフェリシアナ王女の心中は穏やかではなかった。大荒れである。なんだ、父ちゃんって。大国の国王陛下をつかまえて父ちゃんって。しかも、あの・・好戦的で男女問わず惑わす超絶美形の国王陛下を父ちゃん呼びである。

王族として厳しい教育を受けていたからこそ態度には一切出さなかったが、そうでなければ地面をバシバシ叩いて笑い転げたことだろう。それほどのインパクトを与えたのだ。


 少し距離を置いて待機しているロッシュとテレーゼ以外の者たちは、ぴるぴるしている。

心の内で、「父ちゃん!?あの国王陛下のことを父ちゃんと呼んでいるのか!?」と、白目である。


 そんなことになど全く気付いていないアリエスは、うまうまとお菓子を食べてお茶を飲んでいた。

彼女がここまでリラックスしてお茶会に参加できているのは、アルフォンソ王太子とフェリシアナ王女が相手の警戒心を下げ、懐にスルリと入るのが得意だからである。さすがサイコパスとプチサイコパス。チョロいぞ、アリーたん。


 フェリシアナ王女は控えめな雰囲気とは裏腹にかなり腹黒い性格をしており、王妃になって国を動かすのが夢だった。

そのため、使えるものは何でも使って王太子妃の座を、そして、いずれは王妃になろうと幼いながらに貪欲に学んでいたのだが、今回のルナラリア王国第一王子との婚約は、「容姿や雰囲気がアリエスにそこそこ似ている」というただそれだけで選ばれた。


 そんなフェリシアナ王女が感じたのは、「運は努力を平気で越えていく」というもので、今まで見向きもしなかった「運」というものから初めて恩恵を受けたのだ。

きっかけとなったアリエスにはとても感謝しているし、これからも仲良くしていこう、彼女に何かあれば力になろうと決意し、それを婚約者であるルナラリア王国第一王子も快諾し、後押ししてくれている。


 しかし、その決意を嘲笑うかのように次から次へと、とんでもないことをアリーたんは起こしていくので、ちょっぴり不安なフェリシアナ王女なのだった。

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