5 旅の終着

第一話 楽をする

 ルナラリア王国を出立したアリエスは、ディメンションルーム内にあるコテージの自室にて封蝋の施された手紙を眺めていた。


 その封蝋にはルナラリア王国の紋章がデデンっ!と押されているのだが、中身は冒険者ギルド宛のランク昇格への推薦状である。

といっても、その手紙を冒険者ギルドに提出したからといって勝手にランクが上がるわけではなく、昇格試験のうちの一つ「貴族への対応」を免除しても大丈夫だという意味での推薦状なのだが、その効力はミスリルランクにまで及ぶので、これ一つで試験が一種類ずっと免除になる。


 そして、ルナラリア王国国王から贈られたのは推薦状だけではなく、宝物庫にあった誰が何のために作ったのか謎なモーニングスターだった。

このモーニングスターは、ルナラリア王国国王がアリエスへのお礼に宝物庫にある品を一つ、どれでも良いから選んでほしいと言われて、彼女自身が選んだ品である。


 鉄のモーニングスターから鋼に新調したとはいえ、それでも物足りなくなっており、宝物庫からならモーニングスターでなくとも何か良いものが手に入るかもしれないと、ウキウキと鑑定しながら見て歩いて目についたのが「聖属性ドラゴンの骨」という一文だった。


 結果、ドラゴンの骨に反応してアリエスが選んだのは、本体が聖属性ドラゴンの骨で、柄の部分に水属性ドラゴンの革を巻き、様々な属性の魔石が本体の随所に埋め込まれており、魔力を流してブッ叩けばその魔石から魔法がブッパされるという凶悪なモーニングスターだったのだ。

魔力を流して叩いたときに魔法がブッパされるということは、叩かれた相手からすれば至近距離で食らうことになるのだが、それをすると素材がダメになるので、その機能は今のところお蔵入りしており、ただの見た目が派手なだけの丈夫なモーニングスターでしかない。


 ルナラリア王国の第一王子からも個人的なお礼の品も頂いており、それはアリエスとロッシュのみならず、あの場にいた奴隷でもあるクララとクイユにも贈られた。


 クララには、そこそこ高価な宝石があしらわれたブローチをつけたウサギのような見た目のぬいぐるみが贈られ、それは今は彼女の枕元にてその存在感を示している。

もうすぐ成人するとは思われていない贈り物であるが、クララ本人がめちゃくちゃ喜んでいるので良いのである。


 クイユには、短剣が作れるほどのミスリルインゴットが贈られたのだが、あるじではないから刃物類を贈るわけにはいかず、ならば材料をということだった。

王族から品物を贈られたことに感動するかと思われたクイユであったが、困惑の方が強かったところを見るに、もう王侯貴族に興味はなく、アリエスをあるじと仰いでいるのだろう。


 ロッシュは安定の「アリーたん、きゃわわ」なので、アリエスに似合いそうな髪飾りを選んだ。

アリエスの見た目に合い、尚且つアリエスの好みに合うという逸品で、遠目に見ると愛らしいバレッタなのだが、近付いてよく見るとヘビが絡まったデザインをしている。


 最初は微妙な顔をしていたアリエスであったが、よくよく見るとヘビだということに気付き、それ以降は喜んでつけるようになった。


 第一王子が個人でアリエスに贈ったのは、濃い色のエメラルドがあしらわれたネックレスで、そのエメラルドは第一王子の瞳の色と同じなのを考えると、幼い彼の精一杯の背伸びだったのだろう。

アリエスは全く気付いていないが。


 そんなアリエスたちは一仕事を終えた休暇として、ディメンションルーム内で思い思いに過ごしている。

ディメンションルームの扉は馬車内に展開しているので、アリエスが中にいても勝手に移動してくれるので楽なのだが、これには理由がある。


 ルナラリア王国第一王子の病状が改善したことで、フユルフルール王国へ依頼していた魔道具が必要なくなったのだが、それではあまりにも不誠実なので、依頼した魔道具に関しては急がなくても良くなったが必要ではあるので引き続きよろしく、という結果になった。


 魔力過多症に苦しむ子のために、その魔道具を使った治療院を始めることにしたルナラリア王国は、フユルフルール王国へ魔道具を依頼する代わりに食料を支援するという、事前に交わしていた取り決め通りに話を進めていくとクラウディオが言っていた。


 しかし、その話を聞いたロッシュは、恐らく魔道具を急がなくなったことでアルケミュラント家の跡継ぎがこちらにいると、フユルフルール王国に気付かれるのではないかと考えた。


 そのため、ロシナンテと別行動を取っているように見せかけるため、馬車に乗り街を出入りするのはロシナンテのメンバーのみが行い、アリエスとロッシュ、テレーゼ、そして奴隷たちはディメンションルーム内から極力出ないようにした。


 その結果、フユルフルール王国がアリエスに接触しようとしたのだが見失ってしまい、どこにいるのか分からなくなってしまったのだ。


 そして、そうこうしているうちにアリエスの父ちゃんの耳に今回のことが入ってしまったのである。


 ハルルエスタート王国国王は、我が子を蔑ろにしているつもりはない。

ただ、義務も果たせないのに権利を与えることはしないだけである。

 

 阿呆は好かぬが、きちんと自分の足で人生を歩いている子のことは、それなりに可愛いと思っているので、自国に有利になるような内容だった場合は、今回のように干渉することもある。


 このことを知ったアリエスは、「父ちゃんって欲望に正直だよな」とつぶやいたのだが、それがロッシュのツボにはまり肩を震わせる結果となった。


 

 

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