閑話 その頃のロシナンテ

 ここは、ルミナージュ連合国ダンジョン都市ドリミアにあるクラン"ロシナンテ"の拠点である。


 ロッシュによって指示された通りに改修工事が行われているのだが、その様子を見てクラン"ロシナンテ"のリーダーは首を傾げた。

それは、あまりにもシンプルな内装だったからだ。


 木目があまりない床に白い壁、木目の美しい木を使った腰壁と呼ばれる部分と白壁との境目には邪魔にならない程度の装飾が埋め込まれ、シンプルながらも上品な趣きある内装となっていた。


 リーダーは、思い起こしていた。

「確か、ロシナンテさんに依頼されたのは、アリーという少女の好みに合わせた内装だったはず」と。


 これでは、どう見ても青年が好みそうな内装である。

もしくは、無表情無口なリーダーの姉テレーゼが好みそうでもある、と頭を過ぎった瞬間、彼は絶叫した。


 「いくら、親父の異父兄とはいえ、れっきとした伯父だぞっ!!?まだ、諦めてなかったのか!!」

「リーダー……。何を叫んでるんだ、うるさいぞ」 

「それどころじゃねぇ!!姉貴と、ロシナンテさんが……っ!!」

「テレーゼとロシナンテの兄貴がどうしたってんだよ」


 リーダーは、クランメンバーに切々と語った。

内装が青年好みに見えて姉テレーゼの好みに合致していること、姉の初恋がロシナンテことロッシュであること、もしかしたら、「アリー」という少女を隠れみのに二人の関係は発展してしまったのではないか、と。


 それを聞かされたクランメンバーは、それはもう深い深いため息を吐き出した。アホらしい、と。

「テレーゼだっていつまでも幼女じゃねぇんだから、そんなことには、なってないだろう。アンネリーゼ、いや今はアリエスだったか、その子の好みがそんなんだったってだけだろうよ」


 大正解である。


 前世が男だったアリエスは、ピンクや花柄は好まないし、木と漆喰壁のシンプルな部屋を好む。

ファブリックは濃い青色か明るい緑色を選ぶ傾向にあり、内装と共にその色を指定されているので、アリエスがここに来たときには自分好みな部屋に目を輝かせて喜ぶことだろう。


 リーダーは姉のことがあるため、そのアリーという子の好みがそうであってもおかしくはないと思ったのだが、ロッシュから届いた手紙を読んだ限り、そういう好みとは遠そうな感じだったことを思い出した。

本当にこれで良いのか不安になっていたところに、丁度No.3がやって来た。


 「ああ、ハインリッヒ。いいところに来た、実は」

「もーう、これ以上の仕事はしねぇぞ!!断るっ!!いつまで経ってもアリーのところに行けねぇじゃんか。一緒に旅しようと思ってたのに!!」

「いや、仕事しろよ。そうではなくてな、内装のことなんだが、本当にあれで良いのか?」

「あ?内装?ああ、アリーの部屋か?何の問題があるってんだよ。別に手抜きもされてねぇし、指定された素材使ってんじゃん」

「どう見ても女の子が好みそうな感じではないぞ?」

「はぁー、これだからリーダーは未だに独り身なんだよ。アリーは、そんじょそこらのフツーの女の子とは違ぇの!」


 未だに独り身と言われてしまったリーダーだが、まだ21歳である。36歳のハインリッヒにだけは言われたくない。


 そんなことを言われてショックを受けるリーダーなのだが、見た目がいかつく筋肉質なため女子のウケが悪く、クランリーダーであるにもかかわらず全っ然!!モテないのである。

クランリーダーは、実力、人柄などを加味されて選ばれるので、本当ならモテても良いはずなのだが、彼がモテないのにはとある理由があった。


 それは、ロッシュが好き過ぎることだ。

誰かと話していても、いつの間にか話題がロッシュのことになっており、幼少期から懐いていたために酒に酔うとロッシュのことを「ろじたん」と幼い頃のように呼んでしまうのだ。「ローおじさん」から「ローおじたん」になって、ろじたん。


 それに加えて、ロッシュの見た目が微笑みをたたえた物腰の柔らかな美形執事であるため、「あ、リーダーって、そっちの人なのね」と誤解されてしまうのである。

二人の関係は伯父と甥以外の何ものでもないのだが、想像豊かなお嬢さんたちはそっちへ持っていきたがるのだ。腐海の住人が薔薇を振りまいて滾っていることから、そちら系のお嬢さんにリーダーは密かな人気を博していたりする。


 だが、それはお嬢さん方の妄s……げふん、げふん、想像の中の出来事であって、現実は違うのだ。


 ロッシュがハルルエスタート王国へ舞い戻ったのは、今から13年ほど前の話。

つまり、リーダーは当時8歳。お嬢さん方の思うめくるめくラブロマンスなど起きようもない。いくらリーダーが可愛い盛りのショタっ子であったとしてもだ。


 ハインリッヒから言われたことにショックを受けたリーダーは、クランハウスの廊下に膝を抱えて座ってしまった。

そんなリーダーを見てクランメンバーは、「ハインリッヒのヤツめ、もっと仕事増やしてやろうか?」と仄暗ほのぐらく嗤うのだった。


 そう、コイツなのだ。

この仄暗く嗤っているクランメンバーが、腐海の住人にネタを提供して、リーダーに女性が寄り付かないようにしているのだ。


 だって、仕方がないだろう。

このクランメンバーの可愛い可愛い娘がリーダーのことを好きなのだから、彼女が成人するまで独りでいてもらわないと。

息子のように可愛がっているリーダーと、実の娘が結婚すれば、リーダーは自分の本当の息子になる。あかん、こいつダメ親父や。


 嗤うクランメンバーは、リーダーを励まして仕事に戻らせると、ハインリッヒに追加の仕事を与えるのだった。


 「アリーと一緒に旅をするんだぁーーーー!!!」

という、ハインリッヒの叫びは無視された。


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