自称コミュ障は異世界でも自由気ままに生きていく
もちもち
第一章 新しい生活
1 異世界転生といえば
第一話 前世を思い出した
ここは、ハルルエスタート王国の王宮にある日当たりの悪い離れ。
そこに住む第16王女であるアンネリーゼは、その日も臥せっている母を見舞いに行こうとしていた。
アンネリーゼが暮らしている離れは、能力が低かったり後ろ盾がなかったりする王子や王女が入れられている、通称出涸らし小屋と呼ばれる場所だった。
そうは言っても国王の血が流れているため、一人に一部屋は与えられており、きちんと三食用意してもらえるし、着るものなどもそれなりにサイズの合うものが用意されている。
ただし、他の王族のお古ではあるが。
アンネリーゼが部屋から出ようとしていたところへ扉をノックする音が響く。
「はい、どなたですか?」
「執事のロッシュにございます」
離れを統括している執事のロッシュが部屋を訪ねて来たことで、真夏にもかかわらずアンネリーゼの身体は震えた。
ロッシュを部屋へと入れてしまえば聞きたくないことを告げられてしまう予感がしたからだ。
しかし、そういうわけにもいかず、結局は入室の許可を出した。
「失礼いたします、アンネリーゼ様。本日未明、母君が亡くなられているのが確認されました。おそらく病死と思われます。既に埋葬を終えておりますが、感染症防止のためとご理解くださいませ」
「あ……あぁ……、う、そ……。そんな、ウソだよね?お母様が……亡くなったの?」
「はい、間違いございません。宮廷医に確認していただきました」
「あ、会わせて……、お母様に会わせてっ!!」
「申し訳ございませんが、それは出来ません。この時期にご遺体をそのままにはしておけず、既に埋葬されております」
「なんで……、どう、して?最後くらい……」
母の死に目にも、最後のお別れもさせてもらえなかったアンネリーゼは、目の前が真っ暗になり、そして、気を失った。
そんなアンネリーゼを執事のロッシュは抱きかかえてそっとベッドへと下ろすと、丁寧な手つきで靴を脱がし、夏用の布団をかけて、部屋をあとにした。
気を失ったアンネリーゼが目を覚ましたのは、明くる日の夜明け頃だった。
まだ薄暗い部屋の中で目を覚ましたアンネリーゼは、いつもぼんやりしていた頭の中がスッキリとしていることに気が付いた。
スッキリしたことで、自分がぼんやりしていたことに気付けたのだが、その理由に微妙な心境になった。
「母親が死んだショックで前世を思い出したけど、それがなかったら、あのまま薄ぼんやりした性格のままだったのかな。ていうか、もっと早く思い出していれば、お母様が死ぬこともなかったんじゃね?」
そうは思っても既に過ぎたこと。
しかも前世を思い出したことで、母親に対する愛情よりも呆れの方が勝ってしまった。
「ていうか、お情けっての?国王の子を孕んだなら誰かの下に付けば良かったんだよ。子供は王子と王女合わせて28人もいるんだから、後ろ盾がないにしても誰かの派閥に入りゃあ、それなりに保護してもらえただろうに」
アンネリーゼはため息をつくと、とりあえずいつもの習慣で身体と口内に洗浄魔法をかけたことで、自身がお出かけ用の服からパジャマに着替えていることに気付いた。
着ていた服は、ハンガーに掛けられていたので、メイドの誰かが着替えさせてくれたのだろうと判断した。
アンネリーゼが使った洗浄魔法は、王宮でメイドをしていた母親から習ったもので、母から命と愛情以外に唯一与えられたものと言える。
「確か、お母様の実家は男爵家だけど、一代限りだったんだよね?だから領地もないし。跡継ぎの伯父様が何か功績上げないと平民に逆戻りのはずだったんだけど、王女である私が産まれたことでその必要もなくなった……割には私を放置って酷くね?会ったこともなけりゃ名前も知らねぇわ。いやでも、もしかしたら平民に戻りたかったのに、私が産まれたことでそれが出来なくなったとか?」
憶測でしかないことを考えていても仕方がないとアンネリーゼは、とりあえず異世界転生したときに必ずやるべきことであるステータス確認をすることにした。
「そういえば、ステータス画面の端っこにある星マークを押したら意味不明な文字が現れてビビって放置していたけど、あれって漢字じゃね?ていうか、この世界は知らないけど、この国の言葉って日本語じゃんね。しかも文字は平民がカタカナで貴族がひらがなを使ってるし」
何故、日本語が使われているのかを考えるのは後回しにして、とりあえずステータス画面にある星マークを押してみることにしたアンネリーゼは、楽な体勢を取った。つまり、ベッドの上であぐらをかいている。
「えーと、何だって?『転生者特典UR確定10連ガチャ!期間限定で更に3回追加で回せるキャンペーンを実施中!!』…………は?いや、どこのラノベだよ。ていうか、こういうのって転生する前に回さねぇ?ん?」
夜明けということもあり声を抑えて独り言を喋るアンネリーゼであったが、ステータス画面のとある部分を目にしたとき、思わず叫びそうになり、咄嗟に手で口を押さえた。
アンネリーゼが目にしたのは、追加で回せる期限の残り時間が14分23秒というものだったからだ。
こうして驚いたり迷っていたりする間にも刻刻と残り時間は減っていくことに気付いたアンネリーゼは、とりあえずガチャを回すことにして、ステータス画面にある「10連ガチャを回す」という部分をタップした。
タップするとステータス画面には、豪華な装飾が施された丸いガラスのような容器の中に色とりどりの宝石のようなものが入れられた映像が映し出された。
そのガラスのような容器の中にある宝石がガラポンを回すかの如く混ぜ返され、そして、ひとつずつ放出され、ステータス画面からコロコロと転がって出てきた。
「マジかよ……。ステータス画面から出てくんのかよ……。ビビるわ、マジで」
あぐらをかいているアンネリーゼの股の間にコロコロと転がる宝石のような玉。
そして、10個が放出された後に残された時間は、9分だった。
「えーっと、『追加の3回を回しますか?』ね。はい、回しますよっと。あ、その前に、10連と追加と区別できるようにしておくか」
残り時間の少なさによるハラハラ感とガチャを回した高揚感と、そして、何を得たのかまだ分からないワクワク感とで、アンネリーゼのテンションは割とおかしかった。
10連ガチャで得た玉を着ているパジャマの上着の裾で包むと、追加を回すためにステータス画面をタップしたのだった。
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