転生したら男性看護師だった～体は男性、心は女性～

3.上村先生に憧れる私

　上村先生は診察が早い。

　外来患者も入院患者も。簡潔かつ丁寧だ。外来で、殆どの先生が電光掲示板で遅れ遅れになっているにも関わらず、上村先生は時間ピッタリ終わり余裕がある。

　流石、T大医学部主席だ。

　もっとも、じっくりと構って欲しい患者からすると、納得のいかない部分もある。

　そんな外来患者の間では、「鬼姫」と陰で言われているが...。

　先生は患者には淡白だが、スタッフには優しい。

　上村先生に憧れる私。

　かたやT大医学部主席。かたや私は平凡な看護学部卒の凡人。雲泥の差である。

　上村先生の家族構成がよくわからない。独身という事はないだろうが、指輪をつけているのを見たことがない。貴金属はピアスだけ。時計も質素。いったいどうなっているのだろう。

　ある日のこと。

　日勤の私は、点滴している患者の浴衣に腕を通すため、介助をしていた。ちらりと患者の背中を見ると、大きな蕁麻疹が背中いっぱいに広がっていた。

　この患者は、抗がん剤を使っている。

　ナースステーションにいた上村先生に報告し、すぐに診察をしてもらった。そして、抗がん剤の投与は中止となった。薬疹だった。

　点滴室には、たくさんの薬剤が置いてある。基本的には下にある薬剤部から届くのだが、緊急時には13階ある階段から2階の階段まで取りに行き、そして駆け上がる。

　私はアンプルをパキッと割り、注射器で吸い取り、点滴を作っているときのこと...。

　上村先生がひょこっと入ってきて、

　「よっ！薬疹の患者さんの件、ありがとう。じゃあね。」

　と手を振って隣の呼吸器内科病棟へ行ってしまった。わざわざ声をかけて。

　ありがとうとごめんなさいが言える大人になりなさい、そう親に言われたのを思い出した。上村先生は人間としても立派だった。天は二物を与えるんだろうな、きっと。

　ナースステーションで電子カルテに記載している時に、隣の病棟の男性看護師が私の方へ寄ってきた。

　「お前、凄いな！」

　「何だよ？」

　私は頑張って男性の言葉を使う。

　「佐々木先生の次は上村先生かよ。モテ期到来じゃないか。」

　「上村先生はそうじゃないだろ。」

　「そうか？あの先生は最近、お前の事をじっと見てるぜ。フリーだもんなお前。」

　案外、本人よりも周りの人が気づくことも多い。

　「気のせいだろ。上村先生だって仕事中だろ。忙しいはずだ。」

　「だからだよ。暇を惜しんでちょくちょくと絡んでくるわけさ…。ところでお前、熟女専門なのか？佐々木先生にしろ、上村先生にしろ。」

　「何言ってんだよ。」

　隣の呼吸器内科病棟の男性看護師は、私に散々絡むと去っていった。

　上村先生が絡むとしたら、転生前の男性の私だろうか？それとも、転生後の女性の私だろうか？でも、「最近」というのが気になりつつはあるが。