109.武闘大会 閉幕

決勝戦が終わり、続いて順位の発表と、上位者へのインタビューが行われるらしい。特に見ておきたいものでもないので、俺は外に出ようと立ち上がる。周りでは、意外とほとんどのプレイヤーが座ったままインタビューが行われるのを待っている。


「あれ、ムウくんインタビュー聞いていかないの?」


立ち上がった俺を見上げながら、タリアが不思議そうに尋ねてくる。


「大体の上位勢は知り合いだからな。外で何か食べながら待ってるから、終わったら声をかけてくれ」


この後は、タリアとユーリと一緒にマーシャの家に集合して、アキ、フユと久しぶりに合うことにしている。ジントたちも時間があればナツを連れてきてくれるそうだ。それまでにすこし腹ごしらえをしてあいつらへの土産でも買おうと思っていたのだ。


「インタビューなら普段話せないような事話すんじゃないの?」


タリアにそう言われて少し考えてみる。トビアは、人を食ったことを言いそうだ。ルクは戦いについての感想を真面目に言うだろう。カナも反省点と、仲間への感謝でも言いそうだ。グレンは何を言うだろうか。彼が長々と何かを話しているところを見たことがない。


タクはこの場を借りての仲間の募集だろうか。あいつなら本当にしそうだ。まあ仲間が集まれば俺はいなくても大丈夫になるだろう。


フォルクはインタビューなんてことに全く興味なさそうだが、満足していればそう言うだろうし、物足りなさを感じているなら、好きなときにかかってこいとでも言いそうだ。


魔法使いの女性はわからない。


しかし、いざ彼らが何を言うかしっかり考えてみると、少し興味が湧いてしまった。周りのプレイヤーもほとんど退場せずにインタビューを待っているようだし、俺も聞いてみることにしよう。どうせ大した時間もかからないし急ぐ用事もないのだ。


「わかった。俺も聞いておくことにしよう」


改めて席に座り直し、バトルロワイヤルの舞台となった試合場に視線を向ける。どうやらインタビューは台を出してその上でやるようで、わざわざ数名がかりで運んできた。解説の男性も30位より上のプレイヤーを順に紹介した後、試合場へと降りてきたようだ。


今回の大会では、まだ制度的に発足はしていないと俺は聞いていたのだがクラン名も登録出来たようで、プレイヤー名に加えて所属クラン名も紹介されていた。もちろんタクやカナ、俺の仲間たちはクラン名は紹介されなかったが、大部分のプレイヤーがクランに所属しているのがわかった。


クランとしては、大会で上位に入ったプレイヤーがいると名前が売れて新しく入りたいというプレイヤーも増えてありがたいのだろう。スポーツ選手のスポンサーのようなものだ。


インタビューの舞台が整って、いよいよインタビューに入る。インタビューは最後に舞台に残っていた7人に対して行われるようで、7人だけが舞台上へと出てきた


順位が低い方からインタビューを行うようだ。


『マーリンさん、一言、大会の感想と、何か宣伝したいことがあればお願いします』


宣伝の場も兼ねているのは公認のようで、解説者の質問の中にすでに宣伝という言葉があった。


『魔法使いでもソロで戦えるというところを見せたくて出場を決めたので、上位に入れた結果を嬉しく思います。魔法使い同士の戦いも近接職との戦いも、いずれも非常に楽しく、また自分の足りない部分を実感させてくれました。今後は魔法を極めることが出来るよう、更に努力します。これといって宣伝したいことは無いので、先日からこのゲームにやってきたプレイヤーたちに一言だけ。諸君、魔法は楽しいぞ。なんでも出来る。やりたいことが出来る。君たちがいずれ、私と魔法について語らい、競ってくれるのを楽しみにしている』


マーリンという魔法使いの女性は、常識的に感想を述べた後、新人プレイヤー達に向けて魔法使いへの勧誘をした。感想よりもその勧誘に、彼女の心が現れていたように思う。特にクランではなく魔法使いという大きな集合への勧誘だったので、本当に魔法が好きなのだということがわかった。


続いてフォルクである。


『楽しかった。が、まだ俺は満足してねえ。そこで、ここにいる全てのプレイヤーよ。街でもフィールドでも、俺を見かけたら決闘を仕掛けてくれ。多人数でも構わねえ。俺をもっと楽しませてくれ』


フォルクの宣伝ともなんとも言えない言葉に、会場がざわめく。決闘というのはシステムとして、プレイヤー同士の戦いを特定のルール化で行うことをさす。それを誰に対しても許可するということは、街中を彼が歩いているときに、望めば誰でも戦いを仕掛けることが出来るということだ。


もちろん一人でフォルクに挑むことを躊躇するプレイヤーは多いだろうが、大会で上位に残った彼に勝てば大きな宣伝材料になる。それ目当てで挑むプレイヤーも多いだろう。


「あんなこと言って大丈夫なんですか?」


ユーリがこちらを見ながら尋ねてくる


「さあな。あいつはいつでも戦えていれば満足だから、決闘をふっかけられる分にはむしろ嬉しいぐらいだろう。それにあいつに喧嘩を売る勇気があるプレイヤーはそれほど多くないだろうから身動き取れなくなることは無いだろうしな」


そう答えると、少し首を傾げている。納得し難かったようだ。


「そういうものですか?」


「あいつはそういうものだ。気にしても仕方がない」


なおも腑に落ちないようだが、次のインタビューが始まるのでそちらを向き直す。


次はグレンの番だが、案の定短く一言、『楽しかった』とだけ答えてインタビューを終えてしまった。


すぐに次のタクのインタビューが始まる。


『楽しかったっすよ。正直、有名クランの人たちばっかり出てくるのかなと思ってたけど、俺の全く知らない強い人がたくさんいて。負けたのは悔しいので、もっと強くなります。それで宣伝なんですけど、今、俺のパーティーはパーティーメンバーを募集してます。入ってほしいのは索敵とか解錠・解除の出来るトレジャーハンターです。条件はとりあえず種族レベル35以上。浮遊大陸のイベントが終わって一週間後から、夜にネフトの冒険者酒場にいるので是非声をかけてください』


タクにしては丁寧な話し方だったが、これだけの人数の前になると丁寧になるのが普通だろう。フォルクの心臓が太すぎるのだ。


俺と一緒に攻略する期間はパーティメンバーを募集しないらしい。俺に配慮してくれたのだろう。相変わらず細かいところに気が利くやつだ。


『たくさんの強い方と戦えて楽しかったです、1対1もそうですけど、バトルロワイヤルは全く勝手が違って難しかったので、上位に入れてよかったです。特に決勝で戦ったシンさんは、ルカちゃんと二人がかりでも強かったので、いい経験になりました。宣伝、したいことは特に無いです。明日からのイベントも楽しみましょう』


カナの言葉に対しては、他のメンバーに対しての拍手より少し大きく拍手が広がる。真面目な姿勢が評価されたのだろう。フォルクのように不遜な話し方をするやつよりは、カナのような少女が丁寧に話している方が拍手を贈りたいと思うのは普通だろう。


続いてルクが話し始める。


『俺も楽しかったです。久しぶりに戦いたかった奴らとも戦えたし、PvPは大満足ですね。最後トビアに持ってかれたのはちょっと悔しいですけど、まあまた戦って次は勝てばいいんで。宣伝、ってわけじゃないんですけど、もうちょっと海に来てくれる人が増えたら嬉しいですね。俺は基本的に海に潜ってるんですけど、みんな浜までしか来ないので。海の中もモンスターいますよ。街に近いところはそんな強くないから、新しく来た人たちも気楽に来れますよ。スキルがあればかなり自由に動けるのでおすすめです』


ルクらしく、海の宣伝をして話を終えた。確かに、ルク以外から海の話を聞いたことはない。俺自身も全く海には行ってないし、そもそも皆地上を行くのだろう。そのうち暇ができれば本格的に泳ぐ訓練もしたいのだが、アーデラス山脈の探索も全く出来ていないので、今すぐは難しい。


最後にトビアが話し始めた。


『俺も楽しかったよ。でもバトルロワイヤルは楽しいのは楽しいけど、一人と真剣に戦えないからちょっと物足りなかったかな。俺もフォルクとたいてい一緒にいるから、決闘を申し込んでくれればいつでも受けるよ。フォルクには俺の戦い減らすなって怒られるかもしれないけど』


他の面々の丁寧な感想と違って、いつもどおりのトビアだった。最後を軽口でしめるあたり、全く緊張していないのだろう。ちなみに最後の言葉は、意外と意味がわかった人が多かったようで、小さな笑いを呼んでいた。


そして最後に武闘大会の閉幕告げられる。また同時に、明日から始まる浮遊大陸のイベントについても軽く説明があった。プレイヤー側の裁量だろうが、新人プレイヤーを気遣った良い判断だったと言えるだろう。


浮遊大陸への参加は、明日の10時になるとその旨を示すウインドウが開き、参加するか否か選択することになるらしい。参加を選択したプレイヤーはその場から転移して、浮遊大陸へと移動させられるようだ。


持ち込めるアイテムは20キロまでだが、これは武器と防具を含めずに20キロという意味らしい。防具の表面にポーションを取り付けていた場合、それは防具に入るのだろうか。


また新人プレイヤーへの注意事項として、強力なモンスターも存在するフィールドなので戦う相手には気をつけるように、という話だった。新人プレイヤーの救済の意味合いのあるイベントなので、おそらくそうしたモンスターは特定の条件下でのみ戦えるか、普段は穏やかなモンスターなのだろう。


またイベントの仕様の説明ではなく、プレイヤーからのアドバイスとして、テントと寝袋は持っておいた方が良いことが伝えられた。確かに、それは必須だろう。臨時の家をつくるというなら別だが、テントがあるならそれを使ったほうが楽なのはまちがいない。


浮遊大陸イベントの説明も終わり、プレイヤーがそれぞれに退場を始める。


「もう少し人が減るまで待ちましょう。今出ようとしても混雑するだけですし」


「そうね、それが良いわ」


コロシアムから出るのを待つ間、ユーリに聞きたかったことを尋ねる。


「ユーリ、ちょっと良いか?」


「はい、良いですよ。何か相談ですか?」


「相談というわけではないが……今戦闘とか攻略はしてみてるか?」


実は、先日、生産職だがいるかもしれないとタクに言ったのはユーリのことだ。彼女には弓を教えるついでに探索の際に気にすることなども教えているので、もしかすればタクたちの探索についていくことも出来るかもしれないと思ったのだ。


「あ、してますよ。まだまだ未熟ですけど、ムウさんに教わったとおり索敵も心がけてます。結構楽しいです」


「そうか。なら教えてよかったな。実はさっきインタビューを受けてたタクに、誰かスカウトが出来るやつを紹介してくれって言われていてな。ユーリが探索に慣れてて、やってみたいならどうかなと思っているんだが」


俺がそう言うと、ユーリはよくわかっていない様子で首をかしげる。


「えっ、と……?もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?」


そこで、先日タクと交わした会話や、彼らのレベル、スカウトの必要性などを伝える。タリアも興味があるようで、ユーリの向こうから話に聞き入っていた。


説明を聞いたユーリは、少し考え込んでから答える。


「うーん、固定パーティーはいないですけど、どんな人達かわからないとちょっと怖いです。それにまだ生産も続けているので、ずっと一緒に探索するのは厳しいと思います」


「わかった。すまないな、急に勧誘のような話をして」


俺がそう言って謝ると、ユーリは笑って許してくれる。


「それぐらいなら良いですよ。私を攻略組の一人に数えてくれたってことですし」


「ありがとう。今は臨時パーティーで探索してるのか?」


「はい。組めるときは組ませてもらって、空いてるパーティーが無いときは一人でゆっくり探索してます」


臨時パーティーというのは文字通り、一定の期間だけパーティーメンバーとして活動し、期間を過ぎたら解散するという方法だ。βテストの頃もよく流行っていたように思う。


ただ、あのころとは違ってログアウトできなくなった今は、時間が合わないということもあまり無いのではないだろうか。


「臨時パーティーの募集はまだあるのか?」


「結構ありますよ。いきなり正式なメンバーを増やすのは怖いので、臨時で募集して良さそうだったら続けてお願いするのが多いみたいです」


「なるほど。生産と戦闘両方してると大変だな」


俺がそう言うと、ユーリが笑い、タリアが呆れた顔をする。


「どうした?」


「いや、それムウくんが言うんだなと思って」


ユーリもタリアと同じことを思っていたようで、少し笑いながら教えてくれる。


「ムウさんも同じことしてて私よりすごいのに、そう言われるのはなんか変な感じですね」


つまり、俺も生産と戦闘を両立させてるのに、大変だなと言っても説得力が無いと。


「そうか?」


「そうですよ」


「ムウくんは、もう少し自分が普通と違うことを理解したほうが良いわ」


タリアにもユーリにも注意されてしまった。確かに俺も生産と戦闘を両立しているが、そのためにパーティーというものを諦めている。だから、それでパーティーを探すのは大変だな、と思って言ったのだが、うまく伝わらなかったのかもしれない。


「そろそろ人が減ってきたな。行くぞ」


話を逸らすように言うと、ユーリは大人しくついてきてくれたが、タリアにはニヤニヤされた。


「拗ねちゃった?」


「別にすねていない。そんなものかと思っただけだ」


「そっか」


そううなずいてから、タリアは真剣な顔になって言う。


「でも、本当にムウくんは自覚しておいたほうが良いよ。私とかユーリ、タクたちになら言って良いことも、初対面の人に言うと驚かれたり、反発をうけたりするから」


「……気をつけておく」


俺の冒険に対する考え方と反発する人とはどうせ合わない、と答えようかと思ったが、心配して言ってくれているのがわかったので大人しくうなずいておく。


「それじゃあ、私はフユちゃん連れてきますね」


「いってらっしゃーい」


「ああ。待っている」


コロシアムから出た所でユーリが離れていく。俺たちは食べ物を屋台で買ってからルクシアに戻ることにして、屋台村をめぐる。


闘技大会は終わったが、まだかなりの数のプレイヤーが残って、話したり食事をとったりしている。ちょうど昼時に近いのもあるだろう。


「ムウくんは、浮遊大陸へはソロで参加するの?」


「それは夜に仲間と相談しようと思ってる。あいつらも参加するなら一緒に行こうかとも思っているが、自分のペースで探索したいからな」


「あー、個性の強そうな人たちばっかりだったもんね」


武闘大会の後のインタビューを思い出しているようだ。確かに、フォルクとトビアは個性が強いという感じだった。


「まあイベントが始まってからでも合流は出来るだろうから、最初はソロで行くと思う」


「なるほどね。どんなイベントなんだろね。聞く感じでは普通のフィールドがありそうだけど」


「俺は勝手に探索の準備をしてるがな。防衛戦だったりしたら困る」


「ふふっ。何が来るかわからないって、ちょっと怖いけどワクワクするわね」


「まあな」


浮遊大陸というフィールドをただ探索するのか、それともモンスターの大群から何かを守ったり、もしくは攻め込んだりするようなイベントがあるかは始まってみなければわからない。いずれにせよ、楽しみだ。


「とりあえず買っていくのは、ピザとお好み焼きと……」


「後は飲み物と肉が何かあれば良いんじゃないか」


「そうね。ジントたちが来た時用に多めに買っとく?」


「余ったら夜にも食べれるし、多めに買っておいていいだろう」


「じゃあそうしよ。私はピザと串焼き買ってくるわね」


「了解」


色々と買い込むことになって宴のようになりそうだが、実際人数が揃えば宴のようなものだろう。なんだかんだ楽しみだ。

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