99.新人プレイヤー歓迎会

そう思いながら歩いていたのだが、思い出した。


「今日は11月1日か」


11月1日。新しくプレイヤーたちがこの世界へと入ってくる日。


タリアが、1日はルクシアで新規プレイヤーの歓迎会と、広場で様々な催し物をすると言っていた。ログアウト出来ない現状を説明した上で、このつらい気分ではなく楽しい気分になってもらおうという算段だ。


もう夜なので催し物も終わっているかもしれないが、俺も広場に行ってみよう。


広場に近づくほどに、ざわめきの音が大きくなっていく。まだまだ多くのプレイヤーが集まっているようだ。


広場をぐるりと囲むように食事を出す露店が展開しており、その内側には多くのプレイヤーが立って、広場の前方での催しを見ている。


前方では、木で出来た舞台の上で色々な催しがされているようだ。今は二人の魔法使いが、その魔法を使った演舞を行っている。


一方の魔法使いが炎を操り、もう一方の魔法使いが氷を操って龍を作る。それらが互いににらみ合うように動き、炎の玉と氷の玉をはいてぶつけ合い、やがて格闘するように絡みあう。


そして二匹の龍から生じた水蒸気で舞台が覆われた後、その水蒸気を吹き飛ばすように風が吹き荒れ、中から光のワイバーンが現れた。そのワイバーンは翼を広げ皆の頭上へと飛び上がった後、花火のように爆発して消えた。


舞台上で頭を下げている魔法使いに、観客から大きな拍手が送られる。


俺も合わせて拍手しておいた。おそらくあの二人は相当訓練したのだろう。魔法使いたちは火の玉や氷を生やす魔法などを使えても、あんなに自由に何かを生み出すことはそんなにない。それをあれ程の精度で素早く作ったのだ。かなりの時間をかけて用意したのだろう。


しかも二人で4属性も扱っている。かなり腕の立つプレイヤーに違いない。


他にも、格闘家プレイヤーによる瓦割りならぬレンガ割り、投擲によって絵を描くプレイヤーが出てきては演技を披露していく。


合間をつなぐのはタリアともう一人のプレイヤーによる司会だ。タリアはあまり緊張していないようで、大勢の前でも堂々と話していた。


やがて最後の演舞だと告げられ、舞台袖から大きなものが運ばれてくる。ピアノだ。他にも、ヴァイオリンやトランペットなどを持ったプレイヤーも出てくる。


指揮棒を持った女性がタリアからマイクを受け取り、軽く挨拶をする。


『新しい冒険者のみなさん!この世界は、とても楽しい世界です!私達と一緒に冒険しましょう!』


「「「オオオオオオオーーーーーッ!」」」


新規プレイヤーだけでなく、元からいたプレイヤーたちも叫んでいる。昼から、色々と盛り上がることをしてきたのだろう。


『それでは最後に、私達から色いろな曲を演奏します!聞いていってください!』


そして、演奏が始まる。まずいちばん最初は有名なアニメソング。歌い手は男性と女性が一人ずつ。どちらも非常に上手い。


その演奏に皆が合いの手をいれ、ライブのような様相を呈している。


やがて演奏が終わると、大きな拍手が巻き起こった。そしてまた、新しい曲が始まる。


「なかなかすごいだろ?」


後ろから声をかけられて振り返ると、タクがいた。後ろにはカルナ以外のメンバーもいる。


「すごいな」


「カルナも演奏してるぞ。ほら、あそこ。左からの二番目のヴァイオリン」


そう言われてよく見ると、たしかにカルナが演奏している。いつものような法衣ではなく、ドレスを着ているので気づかなかった。


「どれぐらい練習してたんだ?」


「2週間はやってたんじゃないか?多分」


「…すごいな」


「だろ?」


俺がログハウスを作ったり色々としている間、街のプレイヤーたちは新規プレイヤーを元気づけようと色々な準備をしていたのだ。


おそらく、タクたちの他にも攻略組のメンバーも数多くいるのだろう。自分たちの攻略が遅れるのも承知で、催し物の準備をした。


暖かいな。この空気は。一人で冒険するのは好きだが、この場に参加できなかった子は少しだけ悔やまれる。いたところで俺に出来るような出し物は無いだろうが。


やがて歌い手の二人が退場し、オーケストラによる演奏が始まる。


流れるのは、有名なゲームのBGM。モンスターや、大自然、そしてそこで生きる狩人たちを表現した曲だ。


先程までの大盛り上がりの演奏とは異なり、皆静かに聞き入っている。


音楽は、人の心を動かす。


大自然の中で生きている俺にとってその音楽は、かつて聞いていた時以上にリアルな風景を思い起こさせ、ひとりでに涙が一筋、目から溢れていた。


広場でも、わずかに嗚咽をもらす声が聞こえる。何を思い出し、何に感動したか。それは人それぞれだろう。だが、その音楽は確かに人々の心を動かしたのだ。


やがて演奏が終わり、演奏者たちが舞台の上で礼をすると、大きな拍手が沸き起こった。その拍手は、彼女らが退場するまで続いた。


最後に、再びタリアが舞台に出てきて会の終了を宣言し、二日後から始まる闘技大会について新規プレイヤーたちに紹介した。


タリアの挨拶が終わると、会は終了し解散になった。だが、多くのプレイヤーは広場に残ったまま何かを食べたり飲んだりしながら会話を続けている。新しいプレイヤー同士でパーティーを組む仲間を探したり、先輩プレイヤーが後輩プレイヤーをクランに誘ったりしている。


20メートルほど向こうで、フォルクが興味なさそうに広場から離れていくのが見えた。その後ろにいたトビアとグレンは俺に気づき、軽く手を振ってくるので手を振り返しておいた。


「なあムウ、この後飯いかないか?」


タクが広場を見て固まっている俺にそう尋ねてくる。他のメンバーはカルナを迎えに行くと言って離れていった。


「お前の奢りなら」


「おまっ…。まあ良いか、そんなここの飯は高くないし」


「そこらの露店でなにか買って食うのじゃだめなのか?」


「落ち着いて話せないだろ」


「それもそうか。店は任す」


「そうこなくっちゃな。それはそうとしてお前、他に私服は持ってないのか?その装備は街中じゃあごつすぎるだろ」


「ん」


そう言えば、外を走ってきたまま街に入ってきたので、コリナ丘陵やアーデラス山脈を探索していたときの格好のままだ。確かに、これは少しごついな。


中に布の暖かい服を着ているので、その場で装備解除してインベントリにしまっておく。


「そっちの方が良いな。それじゃ、行こうぜ」


「他のメンバーは良いのか?」


「今日は一人で食うって言ってあるからな。大丈夫だ、問題ない」


「そうか」


「おう、なんか反応しろよ」


「それはもう聞き飽きた」


タクがゲームのネタを挟んできたのには気づいたが、もう何度も聞いたセリフだ。本人は結構気に入ってるらしく連発してくる。


タクに案内された店は、シチューやグラタンが美味しい店だった。


二人共グラタンを頼み、料理が来るまで色々と話す。


「お前、タリアから聞いたけど一月も街の外で寝泊まりしてたんだろ?大丈夫だったのか?」


「大丈夫じゃなかったら死んでるだろ。基本的にボスエリアの向こう側はこちらか暴れなければ安全だからな」


「まじかよ。モンスターもいるんだろ?襲われねえのか?」


「基本的にモンスターの気配が薄いところでテントを張ってるからな。普通に歩いているときは近づいたら攻撃されたりはするぞ。ただこっちのモンスターみたいに見境なく襲ってくるわけでもない。なんというか、ゲームとしてのモンスターではなくそこで生きてる生物って感じだ。あっちのモンスターは」


「ふーん、面白そうだな」


タクに色々とあちら側のことについて聞かれるので、ネタバレにならない程度に答えていく。


「そういえば、タリアが主導してボスエリアの向こう側に拠点を作る話が出てるみたいだぞ。掲示板でも人募ってたし、何人か手伝いたいってやつもいるみたいだ」


「まあ、向こう側を探索したかったら拠点を作らないと話にならないからな」


「そうなのか?お前はテントで寝て一月過ごしてるんだろ?」


「補給のほうが大変なんだよ。お前達だって生産スキルが使える奴はいないだろ?誰が剣を修理するんだ。ポーションだって用意できないだろうしな。料理と焚き火ぐらいの最低限のことは自分でできても、攻略組が自分たちで武器を修理するほどレベルを上げるのは難しいだろ」


「そりゃあまあ確かに」


「だからといって腕の立つ生産職を自分たちの探索に連れて回せるかというとそれもまた無理な話だ。生産職の方にメリットがなさすぎる」


「あー、そう言えばそうだな。いくら仲が良いって言っても無理は言えないし」


「だから拠点を作って、そこに生産職が交代制ででも入れば、武器の修復も出来るし生産職は色々なアイテムが集まるしでウィンウィンになる。後は攻略組っていうほど急いでないパーティーに依頼を出してアイテムの運搬とか頼めば金も回るしな。特に新規プレイヤーには良い稼ぎと経験になるんじゃないか?」


「タリアもそんな事言ってたな。そんなに上手いことプレイヤーに荷物運びなんて頼めるもんかな。俺だったら受けない気がするぞ」


「そりゃお前ら攻略組は一日がめっちゃ貴重だからな。他のプレイヤーは魔法都市行くついでに荷物運んでくる、みたいなことは普通にやるんじゃないか?報酬もしっかり出るだろうし」


「そんなもんかね」


「やってみないとわからないだろ」


そこで料理が届いたので、続きは食べながら話すことにする。


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