98.魔法都市ネクサス-2

翌日、昼になってから図書館へと向かう。


昨日は街の中を探索した後、プライベートエリアに戻って矢の生産をした。この街には興味深い店が多くあったが、大体が何かしらの魔法に関わることで、俺が直接どうこう出来るものはあまり無かった。


面白そうなのは《魔法陣》を販売している店と、《紋章》の工房、それに色々な種類の魔道具を売っている店ぐらいだった。後は基本的に俺が使えないものばかりなので、少し覗いてすぐに出ることにしていた。


いずれの店でも所持金に不安があったので何も買っていないが、魔道具屋では、魔力を流すと火が出るコンロや、水を出す魔道具、熱を出す魔道具など、高価ではあるが便利そうなものもいくつかあった。


魔法陣を販売している店と紋様の工房では、それぞれがどんなものなのか簡単に説明を受けた。


魔法陣というのは、魔法を使える人物が“魔法陣作成”スキルによって作るものらしい。魔力を流せばその魔法を再現してくれるので魔法の使えないプレイヤーでも魔法を使えるようにはなるが、それぞれの魔法陣は一回使えば消滅してしまうので連発は出来ないらしい。もし防具や手袋に仕込めるなら、隠し玉として使えそうだと感じた。


紋様の方は、様々な形をした紋様を体に刻むことでそのプレイヤーの能力を高めることが出来るらしい。見た目的には入れ墨の様になるようだ。純粋な身体能力強化から、特定の魔法、アーツを強化するものまで様々な物があるようだ。


ただ大地人の工房で依頼すると相当高額になるようだったので、今回は見送っておいた。それに俺はすでに三箇所ロストモアの固有能力で文様が入っているので、これ以上体に紋様を入れるとうるさくなる。よほど困らないうちは入れることは無いだろう。


図書館に入り受付の女性に魔法鍵を渡すと、先日依頼しておいた本を持ってきてくれた。


全部で八冊。かなりの重量のようで何回かに分けて持ってきてくれた。カバーもしっかりとつけられており、更に表紙部分にわかるようにタイトルが刺繍されている。


礼を言って受け取り、ズタ袋にしまう。本がかなりの重さになるのはわかっていたので中身はひとまずプライベートエリアに置いてきた。だがどちらにしろ新しいマジックバッグを買わないと中身が入らないだろう。


ここのプライベートエリアはルクシアのものとは別になっているようで、ルクシアのプライベートエリアにあるものをこちらから取り出すことは出来ない、と同時にあちらからここのプライベートエリアに置いてあったアイテムを取り出すこともできない。だからここにアイテムを置いていくことは出来ないのだ。


「マジックバッグを買って昼食べたらとりあえずルクシアだな」


ネクサスの様子はある程度見て回ったし、今のところはダンジョンにチャレンジするつもりもないのでこの街に用はない。東の農業都市にも行って食材を集めてきたいのだ。


そうと決まれば、早速マジックバッグを売っていた店に行ってからレストランに行こう。ここは川魚を使った色々な料理が出て、ルクシアの肉料理とはまた違って美味しかったのだ。


武闘大会までは後2日。武闘都市までの移動は農業都市からのワープゲートを使うことになるだろう。日程が少しばかり足りないのだから仕方ない。


まずは、美味しそうなレストランを探そう。考えるのはそれからだ。



******



マジックバッグを買いに行って昼食をとった後、アイテムを回収したらすぐに街を出る。今からは戦う必要もないので、軽く走ってルクシアに向かうことにした。


新しく買ったマジックバッグは今使っているものよりも大型のズタ袋にした。リュックや手提げは持ち運びに困るのでやめておいた。大きな巾着のようなズタ袋は好きなように扱えて結構楽なのだ。


またこのズタ袋は探索の際に使うのではなく、大量の荷物を運ぶ用と割り切って元々持っていたのより大きなものを選んでいる。これなら本に加えて、小麦粉やトマト、大根などの食料を詰め込んで山の麓の拠点まで持っていくことが出来る。


駆け足で進みながら、昨日確認したウッドゴーレムの素材を思い出す。


それぞれの素材が木材として性能がそこそこ高く、またどうやら魔力がスムーズに流れるようだった。魔法樹と言うぐらいなのだから、魔法に何かしら適正があるのだろう。


もう一方の木材アイテムの方は初めから魔力がこもっていて、その分魔法樹よりも頑丈で弓にしたときの性能は高そうだった。もしかすると、魔法樹に魔力を定着させた状態があの魔力のこもった丸太なのかもしれない。


ただ問題があって、それだけの性能があるあの木材だが、魔力のこもった丸太の方でさえハルバリの性能には及ばなかったのだ。実際に何かを作ってみたら優れた点も見えるかもしれないが、今のところはハルバリの弓を使い続けることにする。複合弓なので性能も十分なのだ。


また『ウッドゴーレム討伐の証』なのだが、面白いアイテムで、その根のようなアイテムに魔力を流して森の地面に置くと、新しくウッドゴーレムが出現して再戦できるようだった。


だが俺がもう一度あいつと戦うことはないだろう。というのは、おそらくレアドロップを含めてあいつから入手できるアイテムはすべて入手している上に、あいつが俺にとってそれほど強敵にならないのがわかってしまったからだ。


ウッドゴーレムと戦った時、俺の矢はやつにほとんどダメージを与えられなかった。当然だ。あいつの表面の木材はただの補充可能な武器で、それを壊されたところで対して困らないのだ。


だから俺の矢が枝を突き破って刺さっても、意に介さずに攻めてきた。


だが、そんな木材に対して俺は圧倒的に優位なのである。それが、鉈を使った近接戦闘だ。


あいつと戦った時、俺の鉈はやつの腕や胸の装甲を簡単に切り飛ばした。当然だ。やつのそれは、やつにとっての武器であると同時に、俺にとっては加工対象なのだ。太めの木を半ばまで一撃で切断する俺にとって、複数の細い枝が絡み合っただけのあいつの体を切断するのは容易い。


更にいえば、あいつの体が木でできている以上、“登攀”スキルで登るのが容易なのである。つまり今の俺にとってあいつは、弓を使うことすら無く倒せてしまう相手なのだ。


これは単純なレベルの差だけでなく相性の差でもある。だからこそ自分の得手を捨てて訓練をするのが難しいのだ。それを捨ててしまうと普段どおりの状態で訓練ができなくなってしまうから。


「あ、冬は使えるか」


そこでふと思いついた。冬の間の戦闘訓練。戦う相手を求めて無理にダンジョンにいかなくても俺はウッドゴーレムと戦い続ければ良いのだ。逼迫した戦いにはならないだろうが、“木工”スキルだけでも外せばレベル上げには十分だろう。


他の街のボスモンスターも同じ方法で再戦可能だとありがたい。そもそもボスモンスターと好きなところで戦えるというのは不思議なものだが、使えるなら利用させてもらおう。


夕刻までそこそこのペースで走り続けたことで、暗くなってすぐにルクシアの街についた。戦闘を避けて俺の速度で森の中を走ればこんなものか。意外と距離は近いようだ。


街の中に入ると、なぜか先日より遥かに多くの人がいる。なぜだろうか。


入口付近の宿に入ろうと思ったが、興味が湧いたので広場の方へと行ってみることにした。

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