90.ログハウスづくり-2

大まかな設計図が出来たので、早速木材の調達だ。ログハウス建設予定地は開けているため、そこそこ離れた場所から木材を運んでこないといけない。まずはひたすら木を倒しては丸太にして、建設予定地まで運ぶことにする。


直径30センチから40センチの木材を使うので、鉈では切り倒すのから大変だ。《スラッシュ》を繰り返し使用して切り倒していく。《スラッシュ》を使うと一撃で木の半ばまで刃が入るのは良いのだが、勢い余って入りすぎるのが少し困る。


木を切り倒す際には、一方の側に切れ込みを入れた後に反対側から切って、支えがなくなった木の幹が最初の切れ込みの方に重さで倒れるようにするのだが、《スラッシュ》を叩き込んだ場合木の幹の4分の3あたりまで刺さってしまい、切れ込みを入れるどころではなくなるのだ。


結局切れ込みを入れるところまではアーツを使用せずにやって、最後に切り倒すときだけ《スラッシュ》で切ることにした。


一本切るのにかかる時間は10分程度。そしてそこから更に枝を落とし丸太にする必要がある。1本の丸太を作るのにかかる時間は15分。そしてそれを10分ほどかけてログハウス建設予定地まで運ぶ必要がある。丸太をある程度作ってから運ぶことにしたが、それでも運べて一度に2本が限界だ。これは“魔力操作”スキルで身体能力を底上げした結果の数だ。


“運搬”スキル、なんていうそれらしいスキルもあったが、説明を読む限りアイテムインベントリの容量の最大値を上げるだけのスキルだったので取得は保留しておいた。


結局、ログハウス建設初日は、14本の丸太を確保し建設予定地まで運ぶだけで終わってしまった。丸太がかなり大きいのでインベントリを利用して運んだり手押し車を使ったりして時間を短縮するのも難しそうだったので、木材の確保だけで後数日かかるだろう。


まあ予想していたことではあるが、時間がかかる。この後の木材の感想などはMPを消費して時間短縮が出来るので、MPをケチらずにやっていこう。



******



「よっしこれで100本だな」


目の前には積み重なった丸太の山。全部で100本ある。まだ枝を落として運んできただけなので、皮を剥いだり乾燥させたりは全く出来ていない。


しかし、ここまですでに4日かかっている。インベントリを利用して運べないというのはやはり相当に時間をロスする。しかもここまでは毎日ぶっ通しで働いているので、夜はしっかり寝ているものの疲労はそこそこ溜まっている。明日からは今日ほど重労働ではないので少し体を休めれるだろう。


この4日間、最初に遭遇した以外にも、時々水を飲みにグリフォンがやってきた。どの個体もそろって不思議そうに丸太を担いだ俺の方を見ているのが何故か面白かった。単純な作業で疲労してくると些細なことが面白く思えてしまうのだ。


ただ、おかげで夜は爆睡できている。そしてそのおかげで、疲れが残っている感じはあるものの朝の寝覚めも良いのだ。今が作業効率が最も良い気がする。


丸太を運び終えた段階で暗くなってしまったので、今日はこれ以上の作業が出来ない。そこで、スープを作る傍ら焚き火の側で明日からの作業に使う道具を作る。


作るのは木の皮をはぐ際に乗せる台だ。インベントリやズタ袋に確保している木材を使った。以前倉庫を何箇所か作ったときにも作ったものだが、そこそこ重量があるのでその場に置いてきてしまったのだ。


今回は以前のものよりも頑丈に作る。といっても、しっかり地面に立つように足となる木材と軸、それに上川に丸太を受け止めるY字を作るだけなのでそれほど大変な作業ではない。


2台だと安定性が不安なので全部で3台作った。これで明日は心置きなく丸太の皮を剥いで乾燥させられる。明日中に皮剥が終わると良いのだが。


それにしても、丸太小屋を立てるというのは重労働である。あちらの世界でも趣味でやっている人がたくさんいたが、なかなかにすごいことだと思う。ステータスによって身体能力が上がっている俺でもこれほどにしんどいのだ。重機が必須なのもうなずける話だ。


とはいえ、今の俺は一人スキルと自分の体を頼りにやるしか無い。出来ることを一つずつやっていこう。



******



翌日、朝起きて朝食を食べると、寒い中作業を始める。今日は一気に100本、皮を剥いで乾燥させてしまうつもりだ。乾燥させる方はMPの続く限り“大工”スキルで出来るので、木の皮を剥ぐのが主な作業になる。


先日木材を運んでいる間に乾燥させて置かなかったのは、皮を剥ぐ作業を楽にするためだ。冬などで乾燥した木材の皮はガッチガチに固まってしまい、のみとハンマーを使って少しずつ剥がすしかなくなるのだ。


それは絶対にしたくないことだったので、乾燥させるのを後回しにしているのである。


昨日作った台を平らな場所に置いて、上に木材を乗せる。皮を剥ぐのに使うのは鉈だ。今日から使うのは2本目の鉈である。せっかく作ってもらった鉈だが、1本目はもうかなりへたってきた。ここまでの探索や戦闘と、先日の丸太100本連続斬りが堪えたのだろう。


鉈の修理方法もそのうち考えないといけない。“鍛冶”スキルをとるのは生産スキルのレベル上げが厳しくなりすぎるだろうからしたくはない。だがそうすると今ある鉈をまた使えるようにしないといけないのだが、うまい手が思いつかない。


そう言えば以前誰かが“研師”なるスキルを取得していると言っていた気がする。誰だったろうか。剣をまともに使うつもりがなかったので聞き流していた。後で仲間に連絡して聞いてみよう。


木の皮剥は単純な作業だ。鉈の持ち手と先端を持って、木の皮の下に差し込んで剥いでいくだけだ。


まだ冬にはなっておらず、また木を倒してから時間も経っていないので、木は十分に水を含んでいる。そのため、一度鉈の刃を入れると皮はするりと剥げていった。ところどころすでに水が抜けていて引っかかるところもあったが、そういうところは鉈を持つ手に力を入れて引っ張ると、すぐに皮が幹から剥がれた。


丸太の端から端まで剥げたら丸太を回転させて、まだ皮の剥げていない面を上にして同じ作業を繰り返していく。今は一列皮を剥ぐ間に幾度か引っかかるし、鉈で皮と幹のつながっているところを切っていかないと剥がれない。


だが、これを夏場にした場合はより剥がれやすく、一度切れ込みを入れると後は手で引っ張ってもべろりと剥がれるのだ。本当はそういう時期に作業したかったのだが、贅沢は言えない。


昼までに20本、日が暮れるまでに30本皮を剥いで乾燥させる事ができた。だが、今日はそこで作業を止めない。


このアーデラス山脈ではコリナ丘陵よりも更に日が沈むのが早く、まだ時刻は午後5時過ぎだ。昨日と違って一箇所にとどまって出来る作業なので、焚き火の明かりと“梟の目”で暗い中でも作業を続けられる。


夕食までに追加で15本皮を剥ぎ終え、今日の作業を終える。今日の成果は65本の皮剥と乾燥。一日ですべての丸太の皮をはぐところまではいかなかったが、明日は皮剥に加えて丸太の加工にも入れそうだ。



******



「おし、全部できた。単純作業は疲れるな」


朝から、昨日に続いて皮剥と木材の乾燥を続け、昼過ぎにようやくすべての丸太の皮剥及び乾燥が終わった。


次は丸太の重ねる部分をくり抜いていく。


「と、その前に基礎だな。すっかり忘れてた」


今まで作ってきた倉庫は、ほとんど小屋のようなものなので基礎をうたずに地面に直接丸太を並べて作ってきた。だが、今回はしっかりしたログハウスであり、かつ住むためには床も必要になるので基礎を先に作っておく。このあたりの順序はどうでもいいはずだが、思いついた今のうちに基礎をうってしまおう。


一番長い丸太を持ってきて、1メートルほどの大きさに輪切りにする。しっかりと防腐剤を塗った後、地面を掘って、それを等間隔で縦に埋めていくだけだ。地面の下に50センチほど隠れるようにする。


まずはログハウスの枠部分に1メートル感覚で基礎を打ち込み、長方形の形に打ち込み終わったら、中は格子点の位置に基礎をうっていく。枠の内側は後でする作業の都合上、基礎を枠の基礎より少し低くうっておく。また、ログハウスの外側に後で作ってみたいものがあるのでその分も基礎をうっておく。こちらはログハウスほど重たいものが乗るわけではないので適当だ。


基礎をうつ主な理由は、家の安定性と浸水、防腐対策のためだ。基礎に固定することで小屋を地面の上に直接おいた状態より地面にしっかりと固定されるのだ。また丸太には防腐剤を塗るとは言えあくまで木なので、地面から離すことで地面の湿気によって丸太が腐るのを防いでいるのである。特に丸太小屋の場合、一番下が腐ると上まで腐っていくので注意が必要なのだ。


結局丸太は1本で足りず、3本の丸太を使用した。また防腐剤も、街で買ってきた性能が高い方はだいぶ消費してしまった。ここからの作業は、屋根など特に雨にさらされる場所以外は魔力で補充可能な一番性能の低い防腐剤を使うことにする。防腐剤を使わない処理の方法もあるのだが、それは時間がかかるので屋根だけに取っておこう。


とは言え、これでようやく丸太の加工に入ることが出来る。

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