48.西の岩場-2(雑談)

「カナちゃーん!お昼ごはん食べよ!って、その人誰?」


セーフティーエリアの中では5人の少女が待っていた。他にはプレイヤーはいないようだ。時間はすでに午後1:00時を過ぎているので、昼食をとって出ていったのかもしれない。


「私の兄のムウです。兄さん、こっちはルカさん、このパーティーのリーダーです。あちらの二人がミカヅキさんとシズクさんで、こちらがアヤメさんです。マーヤさんのことは覚えてますよね?」


「流石に忘れないだろ」


カナが交互に紹介してくれる。


「え、カナちゃんのお兄ちゃん?」


「あ、ムウさんだ!久しぶりだね!」


ルカと呼ばれた少女と、こちらに気づいたマーヤが近づいてくる。ミカヅキとシズクと呼ばれた二人は警戒しているのか単純に知らないからか遠くから様子をうかがっている。


「あっちの世界でな。ムウだ。よろしく」


「あ、うん、私はルカ、だよ?です?…まあよろしく!」


丁寧に言うかどうか悩んでそのままでいくことにしたらしい。


「マーヤも久しぶりだな。元気にしてるか?」


「最初は凹んじゃったけどね。まあボクにはみんながいるし!そういえばトビアは?」


「あいつは別のエリアを探索中だ」


「へーどっちに行ってるの?」


東西南北どこに行っているのかという話だろう。


「北だな」


嘘はいっていない。彼女らの思う北とトビアたちのいる北は違うだろうが。


「そっか。ムウさんは一緒に行かないんだね」


「今はな。俺は街で用事があるから戻ってきたけど、あいつらは北の探索を進めるらしくてな」


「ふーん」


マーヤと話していると、近くから声がする。


「そろそろご飯にしませんか?」


アヤメと呼ばれていた少女だ。スタイルはトーヤに近い隠密型だろうか。普段から気配を殺す練習をしているのか少し近づかれるまで気づかなかった。


「あ、そうですね。このまま話しているのもなんですし、食べながら話しませんか?」


「誘ってくれて嬉しいが、そっちはパーティーでいるんだろう?俺が混ざるのも良くないんじゃないか?」


せっかく仲の良い仲間と冒険をしているのに、俺のように外部の人間がまざってしまったら、特に俺を知らないが人からしたら邪魔だと感じるのではないだろうか。


「大丈夫です。みんないい子達ですから」


「そうか?まあそう言うなら…」


折角誘ってくれたので一緒に昼食を取ることにして、彼女らの輪に近づく。大きめの岩に腰掛けているようだ。


「みなさん、こっちは私の兄のムウです。一緒に昼食を取りたいんですけど、いいですか?」


カナがさっきと同じように俺を残りの3人に紹介する。ルカとマーヤも戻ってきて輪に加わったようだ。


「よろしく」


「はじめまして。よろしくおねがいしますね」


「よろしくね」


アヤメはペコリと頭を下げるだけで何も言わなかった。無口なあたりまでトーヤに似ている。


「兄さん、食べ物は持ってきていますか?」


「持ってきてる」


昨日はライアは探索に出てすでにいなかったが、グレンとレルが街に残っていたので今日の朝食と昼食を作るのを頼んでおいた。手軽に食べれるようにサンドイッチを作ってくれていたが、それほど急いでもいないのでセーフティーエリアで絵描きついでに食べようと思ったのだ。


「いただきまーす!」


「「「「「いただきます」」」」」


カナたちも昼食はサンドイッチのようだ。手頃なものといえばサンドイッチぐらいだろうし、パン以外に主食となるようなものも発見されていないからまあ当然といえば当然か。パンは街で出来上がったものを購入できるだけで小麦粉らしきものが発見されているわけではないので、麺類を作ることはまだ成功していないはずだ。


「兄さんはこれまでどのあたりを探索してきたんですか?」


カナの質問に、口の中のものを飲み込んで答える。ルカたちも多少の興味はあるようだ。


「一応北の森を重点的に探索しているな。こっちは今日始めてきたけど、森の方が俺の戦闘スタイル的にもあってるからな。今はあんまり街から離れられないから戻ってきてるけど」


「北の森ですか…。初日に4人で遊びに行きましたね。あれ以外にも強力なモンスターがでるみたいでしたけど、どんな感じでした?」


「んー、そこまでじゃなかったな。一応一回目は俺含めて4人で探索してたし、昨日は3人で探索してたからな。それほど驚異になるのはいなかったな」


「そうなんですね。私達もこちら側の探索が終わったら他のエリアに行きたいんですよね」


「そうか。森の方は結構落ち着くし綺麗だからおすすめだぞ」


このエリアの先にも北の森同様にボスエリアと次のエリアへとつながる魔方陣があるだろうが、それはカナたちが見つけてからのお楽しみだ。そのときに進むことを選ぶのも一旦街に戻るのも彼女らの自由である。


「あ、そういえば北の森って蟻のモンスターがいっぱいいるって掲示板に上がってたけど、本当にいるの?」


ルカがそう尋ねてくる。掲示板というとタクに情報を上げてくれるように頼んでおいたが、それのことだろうか。それほど情報収集に熱心ではないので最近は掲示板を見るのを忘れていた。


「ああ、いるぞ。結構な数だったな」


「へー、強かった?」


「それほどは。数は厄介だったがな」


掲示板でも問題になっていたように、あそこまで攻略を進められているようなプレイヤーはほとんどいないだろうから、自分たちが戦ったことがあるという事実を隠そうかとも思ったが、カナの身内であれば特に心配もないだろうから素直に話す。


「…戦ったことがあるんですか?たしかタクさんが掲示板に書いてたのはだいぶ進んだエリアのことだと思うんですけど」


アヤメがそう尋ねてくる。シズクは興味なさそうにサンドイッチを食べているが、ミカヅキは興味があるようでこちらに注意を向けているようだ。


「まあな。タクにあの情報上げてもらったのも俺だし」


俺がこともなげにそう言うと、ミカヅキが食いついてくる。


「え、どういうこと?」


「どういうことですか兄さん」


ミカヅキだけでなくカナも少しきつい口調で問いかけてくる。


「俺たちはあいつらよりも先に北の森は奥に進んでいてな。もともとは情報の共有なんてするつもりもなかったが、タクと話して、俺があいつに伝えるからその公開は任せるっていう話をしたんだ。だからその蟻の情報は俺からあいつに伝えたものだな」


俺がそう事実を伝えると、話を聞いていたカナやルカ、ミカヅキだけでなく、三人で話しながら食事をとっていたアヤメとマーヤ、シズクも信じられないと言った顔でこちらを向く。三人は、こちらに興味を示さないように見せながらも多少は気になって話を聞いていたのだろう。


「待って、タクさんって、あのタクさんでしょ?タクさんより先に進んでるなんて」


「…タクさんたちは、とても強い」


「そうですね、急にそんなことを言われても信じられないです」


ミカヅキ、アヤメ、シズクの三人は信じられないようだ。彼女らにとってタクはトッププレイヤーであり、俺はカナの兄であるだけのただのプレイヤーなので、信じないのが普通だろう。


「兄さんがそんな嘘を付くとは思いませんけど…」


カナは俺が嘘を付くとは思わないが、同時に信じることも出来ないようだ。どちらでも構わない。俺は、ただ、俺が見たい景色を見るためだけに冒険をする。他人からの評価は他の奴らが受け取ればいい。

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