46.コリナ丘陵-1
『《巨大猪の牙》×3を入手しました』
『《巨大猪の腱》×4を入手しました』
『《巨大猪の皮》×2を入手しました』
『《巨大猪の鬣》×1を入手しました』
「これがボスか?」
「オーソドックスに行けばそうだと思うがな」
HPがゼロになり倒れた巨大猪を前に、細剣を腰の鞘に収めながらそうフォルクがぼやく。
「ダイアウルフより随分弱かったね。こっちのほうが硬かっただろうけど」
「普通なら巨大猪のパワーに苦労するんだろう。俺達は技術があったし、タンクもいなかったから楽だっただけだ」
まあ巨大猪の攻撃を楽によけれないような戦闘技術ではダイアウルフと戦うのも苦労するだろうから、巨大猪がダイアウルフより強いとも一概に言えないが。
「気持ちよく殴れたが、あんま楽しくなかったぞ」
「こちらを脅かすような攻撃はなかったからな。相性の問題だ。そのうちお前が納得するようなモンスターも見つかるだろ」
フォルクはなおも不満げな様子だが、いつまでも文句をたれていても仕方ないと思ったらしくぐちをこぼすのをやめた。確かに大猪はそれほど戦っていてワクワクするような敵ではなかったが、鈍重な相手は基本的に俺たち相手では実力を発揮することが出来ないので今後もこのようなこともあり得るだろう。もっと速いか、何らかの特殊能力を有していないと俺たちが楽しむのは無理そうだ。
巨大猪の姿が地面に溶け込むように消えていく。光の粒になって消えていく他のモンスターとは違った消え方だ。普通のモンスターが待機の一部に還るとするなら、こちらは大地の一部に還るということだろうか。
巨大猪の体が地面に染み込むように消えていくと、その後にはボスエリアに突入したときと同じような青い魔法陣が見えていた。
「これに乗れば次のエリアにすすめるのか?」
「王道的に言えばな」
フォルクの疑問にそう返してから思案する。この世界でどうすれば新たなエリアにすすめるのかと言うのは、まだ確定されていない。ボスエリアらしきものが発見できたとはいえ、それがそのまま次のエリアに進めるのかといえば怪しいものではある。ではどこにつながるのかと言われれば答えはないのだが、わからない限り断定はできない。
「とりあえずこのエリアをもう少し探索してみるぞ」
そう二人に伝えて、ばらばらに分かれて周囲の様子を探ったりアイテムを回収したりする。
結局、しばらく探索したが、めぼしいものは見つからなかった。このエリアで取れる木材はすべて品質がGとなっていて、生産には全く向かないようだ。同時に、足元に生えている草も採取してみたが、異なる見た目をしたものも一様に草という名称をしていて生産に利用できる様子ではなかった。ある程度行ったところで、そこから先が霧に包まれており柔らかい何かに押し返されてそれ以上先に進めなかったので、魔法陣のある方へと引き返す。
「こっちにはあまり何もなかった」
「俺の方もだ」
魔法陣の方に戻ると、フォルクはすでに戻ってきていた。彼も何も見つけられなかったようだ。
すぐにトビアも戻ってきた。その手には、元は持っていなかった鉄の塊を持っている。
「これを見つけたよ。少しだけ開けたところに転がってた」
トビアがそう言って手渡してくれたアイテムをアルトの窓を用いて確認する。フォルクはあまり興味はなさそうだが、それでも一応見ようと俺のアルトの窓を覗き込んでくるので、彼にも見えるように操作する。
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砕けた甲冑
その持ち主は、闇を逃れて聖域の中へ逃げ込もうとするも、境目で力尽きた。これは、彼が生きた僅かな証である。
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アイテムとしてのレア度は表示されていないことから、これはアイテムとしての意味ではなく、プレイヤーに何かを伝える意味があるのだろう。聖域、か。それは俺たちが今から踏み出そうとしている場所のことだろうか。この場所にこのアイテムがあったということは、この甲冑の持ち主はすでに巨大猪の前に力尽きたということだろう。
わずかに目を閉じて知らない誰かの冥福を祈り、すぐに目を開ける。
「なにか意味ありげなアイテムだが、今のところはわからない。おそらく後々わかってくるだろう」
「へえ。まあ面白そうだったら俺も乗ってやるよ。そんときは呼べ」
「お前は面白そうだったら混ざりたいだけだろ」
「そうに決まってんだろうが」
フォルクのこれはいつものことなので気にしない。過程など関係なく面白いことにはその場で参加したいタイプだ。俺は過程そのものも楽しいと思うから彼とは少し違うが、面白そうなことに関わりたいのはよく分かる。
「こういうアイテムをつないだ先に何かが待ち受けてたりしたら、それはすごく熱いよね」
「ああ。熱いな」
こんないくつもの、単体では意味をなさないアイテムをいくつも結んだ先に大きななにかが待っているとしたら、それはそれはワクワクするだろう。まあこのアイテムはただのフレーバーテキスト、雰囲気を出すためだけのものだとは思うが、そういう想像も悪くない。
「これはとりあえずトビアが持っていてくれ」
「おっけー」
《砕けた甲冑》をトビアに返す。持っていることにどのような意味があるかわからないが、発見者である彼が持っておくのが道理だろう。
「それじゃあ、魔法陣でこの先に行くか」
「ああ。もう他は見尽くした。あとはこの先だ」
フォルクに続いて、巨大猪のエリアに突入したときのように魔法陣の上に三人で立つ。再びこのエリアに突入したときのように視界が霞んでいき、再び明瞭さを取り戻していく。そこは、先程までいた森とは違って木の少ない丘陵だった。遠くにはあちこちに点々と木の集まりは見えるものの、森と言えるほど多くの木が集まっている場所はない。
「どうやら、新しいエリアみたいだな」
「…ああ」
少しばかり新しい風景に目を奪われていると、フォルクがそう話しかけてきた。
「今日はどうする?」
このまま探索を続けるのか、と暗に尋ねている。俺としてはこのまま進んでも構わない、が、ルクからなにか武器の例と頼みたいことがあると言われていたのでこのまま進んでしまって街から離れるのは気が引ける。戻るための手段が死に戻りしか発見されていない以上、移動にかかる時間も考えると進むのは気が引ける。とはいえ、この先の景色を見たいというのも事実だ。そこは悩ましいところである。
「俺は、一旦戻ろうと思う。街の方に用事が残っている」
「俺とフォルクはここから探索を進めておくよ。いいよね?」
トビアの最後の確認はフォルクに向けてだ。
「もちろんだろ。おそらく街の四方からはそれぞれ異なるエリアにつながっているんだろうが、まずはこの先を軽く見てからだな」
フォルクもトビアも、この先に進む気満々のようだ。
「わかった。またどこかで」
「なんかあったら呼べよ」
「わかっている」
二人は特に街に用事もないだろうし、この先の景色を見に進むのだろう。俺は一度街に戻って、他の方角へと探索を進めながらルクからの連絡を待とう。
二人に背中を向けて、再び後ろに存在している魔法陣の上に立つ。予想通り巨大猪と戦ったエリアに戻ってくることが出来た。そこからさらに、最初にこのエリアに突入した魔法陣を探して元の森へと戻る。フォルクたちと行けないのは残念ではあるが、少し遅れたぐらいで景色は変わらない。落ち着いて楽しもう。そう考えながら、俺は街への帰路を急いだ。
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