4.冒険の始まり-4
北門に向かってはいるが、北門の先に何が広がっているかはわからない。βテストのときは、運営によって公表されていたが、スキルの効果や、戦闘の検証など、システム面での不具合などを発見するために行われていたため、正式サービスで使用されるのとは全く違うフィールドを用意したというだ。そのため、現状街の四方にあるであろう門のどれから出ればどこに行けるのか、と言った情報はない。
「北門のむこうには森が広がっているみたいだね」
カナとマーヤが仲良く話しているのに相槌を打ちながらアルトの窓をいじっていたであろうトビアが、そう話しかけてくる。
「ほう、マップも表示されるのか」
「まあね、といっても、ほとんど見えてないけど」
トビアの言葉に、俺もアルトの窓を呼び出して操作する。すると、マップの項目が合ったので開いてみる。
「…随分簡素な地図だな。」
アルデシアとはこの世界の名前だったはずだ。それが左上に書かれており、その隣に四方位。そしてマップ中心付近に、〈始まりの街ルクシア〉と書いてあり、その四方には、森のマークか丘陵らしきマーク、そして草原らしきマークが書かれている。
「細かいマップは製作するか、買ってくれってことだろうね。もしくはマッピング機能がついてるかだろうけど」
「さてな、おいおい確かめて行けばいい」
「そうだね」
アルトの窓を消して、周囲の街並みに目を向ける。かなりの規模がある街に見えるが、プレイヤーらしき人々以外の姿はまばらだ。ここはプレイヤーのための街であるということかそれともプレイヤー以外の人間はあまり存在しない世界なのか。前者であると嬉しいのだが。
「それにしても、きれいな街だね」
周りを見ながらマーヤが言う。
「そうですね、でも人が少ない…。空いている家も目立ちますし、もしかするとNPCはあまり生活してないのかもしれませんね」
「どの家もプレイヤーが購入するように用意されているのかもな」
「みたいだね。ほら、マップから確認できるよ」
こいつまだマップを眺めていたのか。
「ホントだ。100万ゴールド…。これって高いよね?」
「家の購入ですからね。それにおそらくそれは大きな家でしょうし。こっちの小さい家は40万ゴールドで買えるみたいです」
空き家の所々には、それに挟まれるようにして小さな店が立っている。露店のようなものがないのを見ると、NPCは店舗を持っており、駆け出しのプレイヤーが露店を用いて商売をすることになるのだろうか。
「そのうち店も回ってみたいな」
おそらく生産系のスキルに使用する初級キットは、それらの店で購入うできるだろう。もしかすると、親方的な人物がいて、生産活動に関するノウハウを教えてくれるのかもしれない。それらも早く回っていきたいものだ。
「そろそろ街を出ますし、それぞれの分担を決めておきましょう」
しばらく歩いたところでカナにそう言われ、あらためて取得したスキルを確認する。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv1
《スキル》残りSP
[装備中]弓Lv1 鷹の目Lv1 発見Lv1 気配Lv1 細工Lv1
登りLv1 木工Lv1 魔力Lv1 ステップLv1 跳躍Lv1
[控え]
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俺のメイン武器は弓である。故にそれと、それを補助するための“鷹の目”スキルを取得した。“鷹の目”スキル自体は、遠くがよく見える程度の効果しかないが、派生するスキル、つまり“鷹の目”スキルのレベルを上げた結果取得が可能になるスキルに有用なものが多いのだ。スキルのシステムに関してはβテストからの変更はないと運営側からのメッセージに記載されていたので、スキルのレベルが上がった結果同系統の上位スキルや派生スキルが取得できるという点は変わっていないはずだ。
“鷹の目”スキルはその派生後のスキルの有用さ故に、取得する人間は一定数いるはずだ。しかし、俺は弓使いであるため、人より遠くが見えることそのものがメリットになるのだ。もちろん見えても当てることができなければ全く意味のないものではあるが、それはステータスやスキルによる補正以前に、技術である程度補うことが可能だ。そのために訓練したのだ。初期の頃に弓で距離をとって戦うことができれば、近接職にも魔法職にもアドバンテージを取ることができる。最初の頃は魔法使いはそれほど遠距離で正確な魔法を扱うことはできないし、武器職のプレイヤーにしても高速で距離を詰めるすべがないのだ。
次に“発見”スキルと“気配”スキルは、俺が目指そうとしている戦闘スタイル及び探索スタイルには必要となるものだ。戦闘に直接的には関係してこない。搦手《からめて》を使う戦いになって初めて役に立つぐらいだ。少なくとも正面からぶつかり合って使うスキルではない。弓使いとして索敵を行ったり偵察をするときに使うスキルだ。
“木工”スキルは文字通り木を使って様々なものを作れるスキルだ。武器に限らず、椅子や机と言ったものを作ることももちろん可能だ。“細工”スキルはアクセサリを作ったりとか、小物の製作によく使われる。
“登り”スキル、“ステップ”スキル、“跳躍”スキルは、敵やモンスターに接近されたときに距離をとったり位置を確保するために取得している。この3つがあれば、そうは補足されないはずだ。
“魔力”スキルは、魔力を獲得するためのスキルだ。
この世界では、様々なスキルを用いた行動に魔力を使う。魔力を使うスキルと使わないスキルの区別は、そのスキルがパッシブスキルであるかアクティブスキルであるかによって判断できる。例えば、俺の“発見”スキルや“登り”スキルは、常に発動しているパッシブスキルである、それに対応する行動をとったときに行動が行いやすいように補助をしてくれるのだ。逆に、“気配”スキルや“弓”スキルなど武器系スキルで使用可能なアーツ、“木工”スキルなど生産系スキルで使用可能なレシピ生産、魔法の使用によって魔力は使用される。ちなみに、魔法の使用には“魔力”スキルに加えて、それぞれの属性の魔法スキルが必要になる。さらに魔力の消費を抑えたり発動を早くするための補助スキルまでもが必要になってくるため、魔法を主力として扱おうとするプレイヤーは、10個セットできるスキルのうち半分ぐらいが魔法関係のスキルで埋まってしまうのだろう。他にも、それぞれ特殊な条件下で魔力を消耗するスキルも存在するはずだ。
スキルに関してもう一つ特徴的なのは、この世界ではステータスは数値化されて表示されることはない、ということだ。敏捷度、攻撃力、器用度、防御力、体力の5つのステータスの値が、それぞれのスキルに設定されており、スキルのレベルが上がるごとに、ステータス値も上昇する。そして、スキルによって与えられるステータス値に片寄りがあるため、スキルの構成によって理想のスタイルで戦うことができるのだ。例えば、剣や槌、斧などの近接武器には、攻撃力や体力が多めに設定されており、他のスキルを装備するよりも攻撃力や筋力、HPが多くなる。
現在の俺のステータスにおいては、攻撃力、防御力、体力がかなり低い代わりに、“木工”スキルと“登り”スキルのおかげで器用度が多少高いのと、“ステップ”スキルと“跳躍”スキル、“登り”スキルによって敏捷度がかなり高い。器用度が高いことで弓の技術が上がるが、攻撃力、つまり筋力がない分射程が低いはずだ。
つまり、今の俺の戦闘力は、弓は多少当たるが、攻撃力はそこまで高くないという状態だ。
「ボクはドワーフで槌と盾と槍を持ってるよ。“重鎧”も持ってるから、前衛は任せて」
マーヤが軽く装備していた槌を掲げる。
「私も前衛です。盾と片手剣を使います。私は軽鎧なのでマーヤさんより機動力はあります。それと魔法は補助として水魔法を使えます。まだ回復は使えませんが」
回復魔法は、“癒し”スキルという回復に特化したスキルの他に、それぞれの属性魔法スキルのレベルを上げれば取得することができる。“癒し”スキルがなくても回復ができるが、“癒し”スキルによる回復のほうが回復量が多く魔力効率もよく、さらに各属性魔法には、その属性の回復魔法では回復できない状態異常があるため、“癒し”スキルが不要なものになることはない。
「俺は見ての通り弓だ。魔法は持ってないし近接攻撃への対処もできない。カバーを頼む」
「俺は中衛型だよ。前衛をずっと張るのは無理だけど、ちょっと支えるぐらいならなんとかするよ。俺も魔法は使えないから戦闘中の回復は無理だね」
トビアの方を見ると、自分の腰のあたりを叩きながらニヤリと笑ってこちらを見てきた。つまり現在あるのは、それぞれが最初から持っている初級ポーション5個ずつだけだ。
「そうですね。じゃあ私とマーヤさんは無茶をせず防御と挑発重視でいきましょう。二人はヘイトを稼ぎすぎないように攻撃をお願いします」
「わかった」
互いの戦い方を確認しながら、俺達は門をくぐった・
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