第17話 真白がからかいながらも僕を期待の逸材だと褒めてくれました

「ただいまー」

「ただいまです♪」

 あの後18時まで勉強した僕は、そのまま真白の部屋で巫子が作ってくれた晩ご飯を食べ、巫子と一緒に僕の部屋に帰ってきた。


「巫子」

「はい♪」

 僕はドアを閉め鍵をかけると巫子とキスをする。


 今朝朝ご飯を食べている時に、部屋を出る前と帰ってきた時にしようと決めていたのだ。


「えいっ♪」

「わっ!?」

 唇を離すとキスだけでは満足できないのか、巫子が僕に抱きついてきた。


「文人さーん、文人さーん♪」

 そして幸せそうに僕の名前を呼びながらスリスリしてくる。


「あはは、どうしたの? 急に甘えてきちゃって」

「だって今日は全然イチャイチャできませんでしたから♪」


「まあ仕事中だったからね」

 僕は嬉しさで頬を緩めながら巫子の頭を撫でた。


「ねえ文人さん、お願いがあるんですけどいいですか?」

「ん? 何?」


「体、触ってもらえませんか? 胸とかデリケートなところとかも全部」

「いいけど……今日は随分と積極的だね?」


「お昼に真白さんに触られてから何だか落ち着かなくて」

 不思議に思いながら尋ねる僕に巫子が微笑みながら答える。


「何でかなって考えたら、私は文人さんのものなのに他の人に触られたからだって分かったんです。だから文人さんに触ってもらって浄化したいんです♪」


「浄化って、まあそういうことなら」

 僕は浄化という言葉におかしさを感じながら巫子に背を向けてもらうと、両手で巫子の胸を服の上から優しく触った。


「ああ……いいですう。触れている手から文人さんの愛してるって気持ちが伝わってきます。真白さんの時とは大違いです♪」

 すると巫子の口から気持ち良さそうな吐息が漏れる。


「それはどうも。しかしベッドの上でもないのに体を触らせるなんて、巫子がこんなにエッチな子だとは思わなかったなあ」


 付き合った直後の巫子はエッチな話をすることに躊躇いがあったというか、僕の反応を伺っている雰囲気があった。


 しかし先日のデート辺りから、いい意味で遠慮がなくなってきたというか今みたいなお願いを時々してくるようになった。


「相手が文人さんだからですよ♪ 私がどんなにエッチになっても引かずに受け入れてくれるので、我慢せずにしてほしいことを正直に言うことにしました♪」


「……そっか」

 でもそれは決して巫子がわがままになったわけではない。


 僕を信頼してくれていることの証であり、お互いに言いたいことを言い合える望ましい関係になりつつあることを僕は嬉しく思った。


「ん……あ……く……ううん♪」

「いい声だなあ……」

 僕は胸を触っていた手を移動させ、お腹や内ももなど様々なところを触っていくと、巫子が蕩けた表情をして甘い声を出しながら身を捩らせ、それを聞いた僕は次第に興奮してくる。


 いい雰囲気だし、このまま巫子を押し倒しちゃおうかなあ……。


『まあいやらしい。いくら仲良しとはいえ部屋に上がるまで我慢できずに玄関で文字通り乳繰り合うなんて♪』


「うわあああっ!?」

「きゃああああっ!?」

 僕が邪なことを考えていると、突然ドアの向こうから聞き覚えのある声が聞こえ、僕と巫子は驚いて悲鳴を上げた。


「こ、この声は……」


 ガチャッ


「こんばんは文人、巫子。さっきぶりね♪」

 僕は巫子から離れおそるおそるドアの鍵を開けて開くと、そこには真白がニヤニヤしながら立っていた。


「ま、真白、いったいどこから聞いてた?」

「そうねえ。巫子が『文人さーん♪』って媚び始めたところからかしら♪」


「ほぼ最初からじゃないか! まさかまたどこかに盗聴器を仕掛けて聞きつけてきたのか!?」


「失礼ね。インターホンを押そうとしたらドア越しにイチャつく声が聞こえてきたから、そのまま盗み聞きしただけよ♪」


「一緒だよ! そこは聞かなかった振りをするか、メッセージアプリでワンクッション挟むかして気を使ってよ!」


 僕は全く悪びれることのない真白に文句を言う。

 本当、この人の辞書に「常識」という言葉はあるのだろうか?


「しかし本当に仲がいいわねえ。私、他人の色恋には全く興味がない人間だけど妬けてきちゃうわ♪」


「う……」

 獲物を見つけたような目をする真白に僕は嫌な予感がした。

 ヤバい。これは完全にからかう体勢に入ってるぞ。


「そうだ。もし2人が結婚したら結婚式のスピーチで、付き合った当初から2人がどれだけ熱々だったかのエピソードとして今のことを喋ってあげるわ♪」


「おい止めろ! 変態バカップルなのは認めるけど他の人に言いふらして僕たちを辱めるんじゃない!」


「もちろんさっきの会話はICレコーダーに録音してるから、音声公開もセットで♪」


「ICレコーダー!? 何でそんなもの普段から持ち歩いてるんだよ!?」

「え? 護身用。乙女のたしなみでしょ?」


「どこの世界の乙女だよ! 日本はまだそんな危険な国になってないわ! というかよくも盗み聞き一つでそんなにバラエティ豊かな悪ふざけを思いつけるな! その知恵をこんなくだらないことじゃなくて、もっと世の中の役に立つことのために使ってよ!」


「まあまあ文人さん落ち着いて。ところで真白さん、ご用件は何ですか?」

 どんどんツッコミの勢いを増しながら話を脱線していく僕を、巫子が宥めながら話を本題に戻す。


「あ、そうそう。今日の研修に使ってたタブレット、文人に貸し出すことにしたから渡しにきたの。手元にあれば隙間時間に見て研修を進められるでしょ?」


「ああ、うん。そうだね。ありがとう……」

 巫子に言われ真白が思い出したようにタブレットを差し出し、僕は言われるまま受け取る。


「文人、頑張りなさい。私は文人が時間はかかるけど、磨けば光る逸材だと期待してるから。じゃあね♪」


「はーい。真白さん、お休みなさい♪」

 そして真白はウインクと共に激励の言葉を残して帰り、巫子が手を振って見送った。


 バタン


「……」

 真白が僕に期待している……。


 僕は小さい頃から勉強や運動など何をやっても平凡で、こうして誰かに期待されたことがなかった。


 気楽ではあったけど誰にでも代わりが務まる、いてもいなくても同じ存在であることを寂しく思っていた。


 ああやってふざけてはいるけど、真白はちゃんと僕を必要な仲間として認めてくれている。


 そのことがとても嬉しくて、僕はドアが閉まった後もその言葉を反芻してその場に佇んでいた。

 ありがとう真白。僕、頑張るよ。


「さて文人さん、お風呂に入ってさっきの続きをしましょう♪」

 すると巫子が声をかけてきて僕は我に返る。


「うん。今夜はどんな感じにする?」

「そうですねえ。今日はエッチで意地悪な文人さんが見たい気分です♪」


「了解。じゃあこの前みたいに制服を着てする?」

「あ、それいいですね♪ 実は電車に乗っている時にその……何度か触られたことがありますから」


「あー分かる。巫子はかわいいし放っておけないだろうな」

「いえそんな、かわいいだなんて……」


 僕は再びドアの鍵をかけると頬を赤く染め照れる巫子の腰に手を回して部屋に入り、巫子のお望み通りに悦ばせてあげたのだった。

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