第7話
メルの足が治り、お互いに訓練の気分にはなれなかったので今日は解散することにした。ミリアと一緒に家に向かう。
「ミリアのおかげで助かった。ありがとうな」
「いえいえ、治癒術なら任せて下さい。それよりも話は聞きましたが瘴気を浄化出来るってすごくないですか?私そんなことが出来るなんて聞いたことありませんよ」
「たしかに、王国でも俺と師匠、師匠の孫の三人しか出来る人は知らないからな」
師匠は大賢者と呼ばれるだけあって何でも出来たからな。回復系の魔術ではリアラに勝てる者は王国にはいなかったくらいだ。
「そうなんですね。それと、今回の件は今度私とデートしてもらうことで返してもらいますね」
この子はほんとにいきなりだな。でも今回はミリアのおかげであの家族は救われた。デートくらいなら安いものだ。
「分かったよじゃあお互い予定が空いたときにどこかへ行こう。といってもこの国のことはまだ知らないからミリアに教えてもらえると助かるな」
ミリアはニヤニヤしながら言った。
「わっかりましたー。じゃあプランは私が考えておきますね」
「頼んだよ」
「私はすごく楽しみにしてますからね!」
プレッシャーを感じるな。期待に応えられるだろうか?
今日は訓練は出来なかったが、明日から防衛隊の訓練と、モルの訓練、どちらもしっかりやっていこう。
◇
次の日、俺は今防衛隊の訓練に参加している。
防衛隊のみんなは魔力許容量がかなり高いので、魔力操作を上達させればかなりの戦士になれるはずだ。
そう思った俺はみんなに魔力操作について説明した。
体のなかで魔力を込める位置を瞬時に動かすことによって攻撃の威力を高めたり、相手から受けるダメージを減らすことが出来る。この操作が出来ないと魔力許容量で勝る相手にしか勝てなくなってしまう。
みんなの様子を見てみると、はっきり言って魔力操作は苦手なようだ。唯一ヒルダだけはそこそこ出来ているが他は全滅だ。王国の魔法騎士団では少ない魔力許容量を補うために魔力操作はかなり訓練していた。騎士団のメンバーは魔力操作は最初から防衛隊のみんなよりは出来ていた。意外なところで国の違いがあるもんだな。
「ロイド、この魔力操作というのは難しいな。今まで意識したことがなかったよ」
ヒルダは少し疲れたようで声に元気がない。
「慣れるまでは消耗すると思うが続けていけば楽に出来るようになると思うぞ」
ヒルダなら一ヶ月も訓練すればものに出来るだろう。
「他のみんなはヒルダよりも出来ていないから時間がかかりそうだ。気長に訓練を続けるしかないな」
「ただ、みんな強くなるための手段を知ってどことなく楽しそうではある。明日からもよろしく頼むぞロイド」
「ああ。頑張るよ」
◇
その日の午後図書館で読書をした後、モルの家に向かった。王国とは全く蔵書が違うので楽しめそうだ。
今日はモルとメル、二人で出迎えてくれた。
「ロイドさん昨日は本当にありがとうございました。お兄ちゃんの畑のお手伝いも少し出来るようになってほんとに嬉しいです!」
「ロイド、オイラからも本当にありがとうッス。オイラに出来ることならこれからなんでも言ってほしいッス。ロイドのためなら何でもするッス!」
そう言って二人は頭を下げる。ここまで感謝されるとなんだか気恥ずかしい。
「メル、外に出られるようになって良かったな。これから少しずつよくなるだろうから無理をしないように気をつけるんだぞ。モル、俺は出来ることをしただけだ」
「それでもッスよ。オイラは本当に感謝してるッス。」
「そうか、ならもし困ったことがあったらモルを頼るよ」
困ったことにならないのが一番だけどな。
さて、そろそろ訓練を始めよう。
モルの家の周りに何もない土地があり、そこで訓練することになった。
モルも魔力許容量は王国騎士団に比べてかなり多い。
モルにも時間をかけて魔力操作を覚えてもらうことにしよう。
まずは俺が実際にやってみせる。そのあとモルにもやってみてもらおう。
「うーん、なんかオイラが火を出す感じに似てるッスね」
聞いてみると火鼠族は魔力を使って火を出せるらしい。ならば魔力操作にも応用出来るかもしれない。
「まずはやってみるッス。こんな感じッスかね?」
すると、モルからかなりの威力の火球が発射された。これはすごいな!
「モル!やるじゃないか。これが出来るなら上達はかなり早いぞ」
モルも自分がしたことが信じられないようでボンヤリ見ていた。
「こんな火球今まで出したことないッス。こんなやり方があるッスね。もっと練習してみるッス」
「ああ、練習を繰り返すことによって素早く、さらに威力も高めることが出来る。これからも頑張っていこう」
これならモルを鍛えるのはそんなに時間がかからなそうだ。
上達したら俺を相手に実践の訓練をしてもらおう。
◇
町長の家に帰ると、中庭にヒルダがいた。
「ヒルダ、何してるんだ?」
声をかけるとヒルダはちょっとびっくりしていた。
「急に話しかけるな。驚くだろう。これは今日の訓練の復習をしていたんだ」
ほう。ヒルダは一生懸命なんだな。それにしてもヒルダはなぜ強くなりたいんだろう?
「ヒルダがそんなに鍛えるのは何か理由があるのか?」
するとヒルダは何を当たり前のことを聞くんだというような顔でこちらを見た。
「強くて困ることがあるのか?家族や町のみんなを守れる。それに兄上にまだ一度も勝ったことがなくてな。それも一つの目標ではあるな」
「なるほどな。今日見て思ったがヒルダは筋が良いぞ。これから鍛えていけばかなり強くなると俺は思う」
「そうか。ありがとう。ロイドはさっきまでモルの訓練もしていたんだろう?」
「そうだけど」
「モルばかりずるいぞ。アタシにも午前中の訓練の前に稽古をつけてくれないか?」
ヒルダはそういって恥ずかしそうにこちらを見上げる。普段強気な子がしおらしいとこを見せるのはかなりの破壊力があるな。動揺したのがばれない様にしなければ。
「ああ、じゃあ明日から一緒に稽古をしよう」
ヒルダは満足そうに笑いながら頷いた。
俺の一日が訓練で埋まっていくな。まあ王国にいた頃師匠に鍛えられていたときは一日の大半は訓練だったから、その時に比べたら楽なほうだな。
ただ一生懸命なみんなといると、王国での出来事を少しずつ忘れていけそうな気がする――。
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