エンディング『閉幕:勝ち取った未来(あした)』

GM:それでは稀生、マリー。シーンインの宣言を頼むよ。


稀生:シーンイン!

マリー:シーンイン!


GM:事件後に関する説明から始めていくよ。まず、世界のその後についてだ。

 UGNの奮戦により、ニュクスは封印された。

 月からの干渉は停止し、世界規模で上昇しつつあったレネゲイド濃度も落ち着いている。人類の危機は、水際で回避されたのだ。

 とはいえ、全世界を巻き込む大事件の爪痕は深く。UGNが全力を賭して情報隠蔽を行ない、仮初の日常を取り戻したのは……事件から3ヶ月が経過する頃の事だった。


GM:続いて、エイルについて。

 ニュクスが封印された後、精密検査を行なった結果――エイルに宿っていた鍵としての力は、完全に休眠している事が判明した。現在の彼女は通常のオーヴァードと何ら変わりない状態に落ち着いている。

 月の力が沈静化した事で、それに紐付けられたエイルの力も休眠状態に移行したのだろう、とは専門家の分析だ。

 天涯孤独の実験体であったエイルは、結局そのままレインズの預かりとなった。万が一の事態に即応可能な配置を望まれた結果なのだろう。

 彼女は現在、レネゲイドについて学びつつ、レインズの見習いとしてオペレーターの訓練を受けている。


エイル:「償いのため、この声を活かして日常が守れる仕事がしたいんです」


GM:そんな彼女の希望を、レインズ隊長の白辺壮一が汲んだ形だ。

 過酷な任務から帰還した隊員たちを笑顔で出迎えるエイルは、今やレインズ内でちょっとしたアイドル的存在となっているとか。

 そして、世界を救った若者たちは現在――。




エイル:「いやー、お出かけって良いものだねぇ」

マリー:「……唐突にどうしたの? 発言が老人のそれなの」

 若干の呆れ口調で、エイルの隣を歩く。

稀生:「まぁ、気持ちはわかるよ。オペレーターって普段は拠点に缶詰だろうし」

エイル:「老人かぁ……それはともかく。ほら、前にみんなで遊んだ時は……楽しかったけど、色々と後ろめたい事もあったからさ。

 でも今日は違う。事件も落ち着いて、隠し事もなくなって……何だか、とっても晴れやかな気分だなって。

 でもごめんね、急に非番を合わせて誘ったりして。他に予定とかなかったかな」


 そう言って不安げな表情を浮かべるエイルに、稀生とマリーは笑って応じる。


マリー:「問題ないの。元々マリーは訓練以外でほとんど外に出ないし、今日は完全にオフだった。無問題モーマンタイなの」

稀生:「俺も大丈夫だよ。それに、マリーがああいう辛辣しんらつな口調で話してるのも、少し嬉しいって言うか」

マリー:「嫌味、なの?」

 ジロリと半目で稀生を睨む。

稀生:「いやいや、まさか! マリーが砕けて話すのって、レインズ隊員が相手の時だけだからさ」

エイル:「確かに……最初に会った頃のマリー、結構おっかなかったような」

マリー:「むぅ……」

 否定はしない。事実であるし、自覚もある。

「レインズは私の家族。なら口調が崩れるのも当たり前なの」

 そこで、隣を歩くエイルに顔を向けて。

「だからエイルだって、もうマリーの家族なの。遠慮は不要。もっと砕けるが良いの」

 でも稀生のは偶に不愉快、と釘を差しておくのも忘れずに。

エイル:「マリー……! えへへ、ありがとう~!」

 むぎゅっと飛びつき、マリーの頭を撫で回す。

「まぁね~、稀生は女泣かせだからね~」


 マリーをわしゃわしゃ弄り倒しつつ、稀生を見てニヤニヤと笑いかけるエイル。


マリー:「は、離れるの。人目につくの!」

 と言いつつも逃げはせず、されるがままになっている。

稀生:「う……いや、ゲーセンのあれは運が良かったと言うか、悪かったと言うか」

エイル:「ふふふ。あ、それでね! 今日はみんなで行ってみたいところがあるの。

 どうしても気になってて、でも1人で行くには勇気が足りなくて……」

マリー:「着いて来てほしいなら、一緒に行くの。今日は元々そういう日なの」

稀生:「ああ、みんなで行けば、きっとどこでも楽しいさ。で、どこに行きたいんだ?」

エイル:「うん、あのね――」


 真剣な表情で、エイルは目的地を告げる。


エイル:「私……カラオケに行ってみたいんだ!」

稀生:「な、なるほど……確かに1人じゃ行き辛いところだな」

マリー:「カラオケ……音楽に合わせてタンバリンを叩くお店、なの?」

エイル:「うんうん! それもカラオケの醍醐味だいごみだって、白辺隊長も言ってた気がする!」

稀生:「隊長……その認識は間違ってるような、間違ってないような……取り敢えず、行けばわかるか……」

エイル:「とにかく、思いっきり歌える場所なんだって。それって凄くない!? 好きなだけ歌っていいんだよ!?」


 そう言って、エイルは満面の笑顔で騒ぎ出す。

 「カラオケではあの曲を歌いたい」とか、「2人の歌も聴かせてほしい」とか、「今日はオールだね!」とか。


マリー:「マリーは自分で歌った事がないの。良ければ、コツとかも教えてくれると嬉しいの」

 楽しそうなエイルに連れられ歩いていく。

 私は彼女ほど「歌」に特別な思い入れはない。歌う、喋る行為そのものを封印していたエイルとは条件が異なる。

 きっと、カラオケの場に赴いてもそういった疑問と違和感は感じられるだろう。でも。

 でも、歌を美しいとは思う。心のままに歌い、笑顔を浮かべるエイルを眺めるのは悪くない。

「……そう思えるだけ、私も成長してる、という事にしておくの」

 冷たい培養ポッドから助け出されたあの時から、私の時間は始まった。だから、こんなありふれた世界と日常が続くよう、レインズとして戦い続けようと思う。

 他ならぬ、マリーがそう望む限り。


 小声で呟いたマリーを嬉しそうに横目で眺めていた稀生は、ふと声をかけられた気がして振り返り、立ち止まる。

 聞き慣れていた、どこか懐かしい声……しかし、街の雑踏に見知った人はいない。

 もしや、と手癖のように胸元に手を添えるも、いつもそこにあった首飾りもなく。

 だから誰にともなく、小さな声で、けれど笑って応える事にした。


稀生:「――行ってきます」

 志路原稀織しじはら・きおりのロイスを、タイタス化します。


 言葉は雑踏に紛れて掻き消えた。前を行く少女たちに呼ばれ、再び歩みだした少年は、もう振り返らない。

 向かう先には、救けられた人々と、これから救けられる名も知らぬ誰かとの未来あしたが待っているのだから。

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