クライマックス2『最終幕:黎明心声のアリアライト』

GM:それでは2人とも、登場をお願いするよ。


稀生:シーンイン。(ダイスころころ)1点上昇、164%!

マリー:シーンイン。(ダイスころころ)9点上昇、133%!


GM:キミたちに敗北し、リエゾンロードは倒れた。

 残る使命は、エイルの歌を収束させ、天の火で月を撃つのみ。しかし――。


エイル:《っ……》


GM:歌声が止み、エイルが大きくよろめく。心身の消耗が限界に近いのだろう。


稀生:「エイル……っ」

 痛む全身を気にせず駆け寄り、彼女を支える。

マリー:「エイル、大丈夫?」

 こちらも近寄って、その身体を支えましょう。

エイル:《稀生、マリー……来てくれたんだね。ありがとう》

 未だ呪いの解けない声を紡ぎ、語りかける。

《教えてほしいの。私、どうすればいい? どうすればこの世界を……みんなが守ろうとしているものを、守れるのかな》

マリー:「エイルには大役を任せる事になるの。でも、この方法なら――」

 突き止めた情報を、エイルに伝えよう。

稀生:「突拍子もないと思うかもしれない。それでも」


 空を、そこに浮かぶ月を示す。


稀生:「想いを込めて全力で歌えば、きっと届く」

エイル:《私の歌で……やってみる。私だけじゃ無理かもしれない。でも2人が一緒なら。だから、お願い》


 エイルは意を決したように、稀生とマリーに向けて手を差し出す。


エイル:《私を――助けて》


稀生:「ああ。言われるまでもない。決まってるさ」

 その華奢な手を取ろう。

マリー:「どこぞのお人好しじゃないけど……まぁ、エイルの頼みなら悪くないの」

 2人の手に、己の小さな手を合わせる。


 3つの鼓動が重なり、1つの意志となる。

 歌姫は夜空を見上げ、歌を紡ぎ出す。

 それは静かな、しかし決意に溢れた、黎明の歌。




 斯くて世界に、星を穿つ旋律センリツが満ちる――。




 エイルの歌が、世界を巡る。それは地上に留まらず、遥か高空――宇宙そらに浮かぶ人工の星にまで届く。

 旋律に込められたレネゲイドが収束し、祈りを乗せた人の星から、古きつきに向けて、夜空を切り裂く一筋の光条が描かれた。


GM:……その光景を、血の海に身体を横たえ見上げる男がいた。

 "操演者"と呼ばれたその怪物は、夜空を貫き世界を照らす光に、残された腕を我知らず伸ばす。


アルギウス:「光が……私が望んだ、"人の可能性"が……あんなにも、明るく、大きく……!」


GM:しかし、男の手は待ち焦がれた光に決して届かない。

 負けたのだ。ようやく理解した男の心に、憤怒が、無念が、執着が渦巻く。


アルギウス:「おぉ、おおお……おぉおおお……!」


GM:獣の如き、妄執の唸り声。それが、敗れた男に許された最期であった。

 天に向けて伸ばされた男の手は、しかし何も掴む事なく。ただ力を失い、黒く変色しつつある血溜まりへと崩れ落ちた。


 一方、光を歌い上げたエイルは、全てを込めた旋律を紡ぎ終え、摩天楼の屋上にへたり込む。


稀生:「……良い、歌だった。エイルの心が伝わってくる、そんな歌だったよ」

マリー:「ちょっとしゃくだけど、そこのお人好しに同感。綺麗で素敵な歌声だったの」

稀生:天の火は、確かに放たれた。だから。

「エイルはもう、呪われた人間なんかじゃない」

エイル:「稀生、マリー……本当に、私の声――」


 恐る恐る発されたそれは、断じて魔性の声ではなく。日常に生きるただの少女の声と、何ら変わりないものだった。

 呪いは、解かれたのだ。


マリー:「エイルは、どこにでもいる普通の女の子を掴み取ったの」

エイル:「っ……! それじゃあ私、ようやく――」

 感極まったように、震える声で。

「――歌を、心の声を、届けられたんだね……!」

稀生:「ああ! 届いたんだよ。俺たちにも、世界にも、星にすら!」

 そう答えて笑いかける稀生は、自分の事のように嬉しそうで。

マリー:「そういう事なの」

 優しい笑みを浮かべ、コクリと頷いて見せた。


 そうして喜びを分かち合う若者たちは、地平線にもう1つの光を目にする。

 夜明けが、摩天楼の屋上を照らしたのだ。


エイル:「綺麗……ねえ、2人とも」

マリー:「どうしたの?」

稀生、視線を移し、先を促す。


 少しの間を置いて、歌姫は2人の友を抱きしめた。


エイル:「ありがとう……本当に、ありがとう……!」


 何度も、何度も。感謝の言葉を繰り返し。

 世界を救った歌姫はやがて、勝ち取った黎明の光に照らされ、静かに気を失うのだった。


マリー:「……こっちこそ、なの。マリーの守りたいものを守ってくれて、ありがとう」

 気を失ったエイルの身体を、優しく抱き返した。

稀生:眠るように気を失ったエイルと、太陽の光に目を細める。

「……礼を言うのは、俺の方だ」

 今になって、ようやく気付いた。

 "操演者"の最後の一撃は、狙って稀生の脇腹を貫いたのではない。

 心臓を照準した攻撃は――胸元に下げた、花型のアクセサリーに阻まれ逸らされていたのだ。

「守られていた事にも気付けないなんてな。馬鹿な兄ちゃんでごめんよ……稀織きおり

 小さな声は、朝焼けに溶けて消えていった。

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