マスターシーン1『開幕:惨劇』
――そこは、地獄だった。
命ある全ての存在はジャームへと堕ち、つい先刻まで隣人であった化け物同士が、血で血を洗う
街並みは燃え、人は死に、苦痛と狂気の咆哮が木霊する。その地獄を見下ろす摩天楼に、男が立っていた。
アルギウス:「ニュクスの試運転は成功のようだな。しかし見事だ」
深く鋭い声で呟いた男は――リエゾンロード"操演者"は後ろを振り返る。その視線の際は窺い知れないが、彼の表情には確かな喜びがあった。
惨劇を、殺戮を、圧倒的な奔流となって街に渦巻くレネゲイドを。彼は満足げに見届け、それを是とした。
アルギウス:「……驚いたか、無理もない。だが見るが良い。試運転で都市1つを覚醒させる程の、圧倒的な力。これこそが、我が宿願への道を切り拓く――」
唐突に言葉を切った世界に仇成すFHの王は、黒煙に覆われた天を仰ぎ
アルギウス:「ほう……UGNも存外、決断が早かったな。離脱する。成果は充分に得られた」
"操演者"は《瞬間退場》と《瞬間退場Ⅱ》を宣言。周囲に展開した領域に紛れ、姿を消す。
それに遅れる事、数秒。曇天を撃ち破り、
UGNが保有する衛星砲"天の火"を使用しての、収束レネゲイドレーザーによる都市1つを対象とした広域焼却。
街が、人が、かつて当たり前の日常として在った全てが蒸発していく。
そして光が消えた時――そこにはただ、焦土と化した街並みが残るのみだった。
"処理"を見届け、UGNの作戦司令部に詰めていたオペレーターが口を開く。
オペレーター:「……広域焼却の完了を確認。生体反応……検出されません」
報告を受け、天の火のトリガーを握る男、UGN中枢評議員であるアッシュ・レドリックは苦虫を噛み潰したような表情で応じる。
アッシュ:「油断は出来ん。引き続き、周辺区域の索敵を続けろ。及び、中枢評議員権限で最優先の情報隠蔽工作を命じる。ただちに取りかかれ」
オペレーター:「はっ。周辺地域への工作員の派遣要請、並びに関係各国との調整を手配します」
アッシュ:「……やってくれたな、リエゾンロード……ッ!」
怒りのままに言葉を絞り出し、アッシュは座席の肘掛けに拳を叩きつけた。
天の火による広域焼却と、それに付随する情報隠蔽が行なわれ、各国のUGN支部へと通達が出される。
FHクラン"デュナミス"が操るレネゲイド拡散兵器"ニュクス"。その試運転により大型都市1つがジャーム化し壊滅した、と。
情報の伝達を見届け、アッシュは呟く。
アッシュ:「……レインズを動かす」
オペレーター:「彼らをですか。しかしそれでは、穏健派に大きな借りを――」
アッシュ:「2度は言わん。これ以上、あの悪魔の兵器を使わせる事は出来んのだ! 最大戦力を持って撃滅する他に、道はない」
UGN精鋭遊撃部隊"レインズ"。
アッシュが握る天の火の使用権と同等かそれ以上の、UGNが持つ最大の切り札。ストライクハウンドにも並ぶと言われる最終戦力。
その部隊を率いる長はUGN穏健派寄りの人物と言われているが……世界を守る大義のために、派閥争いなどという
それだけの事態が既に起きているのだ。
アッシュ:「"拳聖"に連絡を取れ。レインズへの命令は2つ。
レネゲイド拡散兵器ニュクスを破壊する事。そして――リエゾンロード"操演者"アルギウス・レイフォードの首を獲る事だ」
怒りに震えるアッシュの声が、慌ただしさを増す司令部に木霊した――。
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