かく兵器

福田 吹太朗

かく兵器


・・・とある国の研究者と科学者達が、とある、おそらくそれがたった一つあるだけで世界を滅ぼしてしまうであろう、というような、最終兵器、究極の兵器を創り上げて、そうして皆その事実があまりに恐ろしかった為なのか、その国から一人残らず逃げ出してしまったのであった。・・・たった一人の科学者を除いては・・・。


その科学者は、夜中になると、突然家の前が慌ただしくなったので、逮捕される事を察知して、隣国にある王国へと亡命してしまった。

・・・その国の頂点に立つ王様は、高名な科学者がやって来たというので、とても丁重に、まるで王侯貴族かのように手厚くもてなした。

しかも・・・どこから耳にしたのか・・・例の「最終兵器」をその科学者にただちに差し出すように、所望したのである。

科学者は断れば、命が危険であると感じたので、音無しくその「兵器」を王様に献上したのであった。

そして自分は・・・怖くなって結局はその国からも、逃げ出してしまったのであった。

しかし王様は・・・その強力な「兵器」とやらを手に入れたので、特にその科学者を無理には追いかけようとはしなかったのだった。

王様は、その「究極の兵器」らしい物体を手にして・・・そしてニンマリとするのであった。

・・・その一週間後の事である。その王国では革命が起きて、王政は瞬く間に打倒されてしまったのだった。


・・・王国の隣国には、もうかれこれ軍服を着込んで、勲章を幾つもぶら下げた独裁者が、35年余りも権力を握っている国家があった。

その独裁者は、秘密警察に命じて、王国の革命騒ぎのドサクサに紛れて、その、世界を滅ぼしかねない、「兵器」をまんまと手に入れたのであった。

その独裁者は、自らの執務室で、側近達をも全て遠ざけた後、その兵器・・・を手にしたのであった。

それは・・・マッチ箱よりはやや大きいというぐらいの、小さな、濃紺色をした箱に入っているようなのであった。

その箱は、縦7㎝程、横3㎝、高さも3㎝程の、長細い形をしていて・・・しかしそれはあくまでも外箱に過ぎず、本当にマッチ箱のように、引き出し状になっていて、それを独裁者は、ニンマリとしながら、ゆっくりと開けると・・・。

・・・それから10日あまり後の事、その独裁者は側近のボディーガードに拳銃で暗殺され、その独裁国家は、呆気なく崩壊したのであった・・・。


次に・・・その箱、つまりは最終兵器を手にしたのは、真っ先に軍事顧問団を送り込み、独裁者を倒した臨時政府を支持した、社会主義国家なのであった。

その国のトップ、つまりは共産党の書記長は、やはりその兵器の噂をどこからか聴きつけて、密かに手に入れると、彼は得意満面な面持ちで、国の最高意思決定機関である、トップ9が一堂に会する会議の場で、その箱を開けて見せたのであった。

箱を開けると・・・中には一本の、鉛筆やボールペンよりは短く、しかしマッチ棒や爪楊枝よりは少し太くて大きい、材質は金属で出来ているらしい、一本のスティック状の物を取り出してみせた。

「・・・それが・・・本当に・・・あらゆる国を崩壊させるという・・・兵器・・・なのですか・・・?」

と、そこにいた一人の高官が訊いた。それはもっともな疑問なのであった。そのような・・・皆その場にいた、共産党のトップ達は、最終兵器と聴いて、巨大なミサイルか何かだと思っていたのだが・・・。

書記長も、だんだんと訝しげな表情となってきて・・・その棒状の金属をいろいろと手の中で、いじくっていたのであったが・・・やがて、その棒は自由に伸縮するらしい事が判明したのであった。

そして、書記長がその棒を適当な長さに伸ばすと・・・それから2週間ほど後の事であった。

・・・その自由を抑圧していた全体主義国家と、隣国の民主主義国家との間にある、有刺鉄線が破られ、間を隔てていた巨大な壁が壊されたのは。

・・・結局、その国でも民衆による革命が起きて、共産党の一党独裁は50年あまりで終わりを告げ、2ヶ月後には自由選挙が行われる運びとなった。そして・・・その混乱の中・・・例の兵器の行方もしばらくは消息不明になっていたのだが・・・。


・・・とある民主主義国家の、真っ白い建物の、執務室の中では・・・その国の大統領が・・・もちろん選挙で公平に選ばれた、合法的にその椅子に座っていた権力者ではあったのだが・・・どこからどのようなルートで手に入れたのかは不明なのだが、おそらくは、情報機関にでも手に入れさせたか、金で買ったのか・・・いずれにしても、その恰幅の良い大統領は、ニヤニヤと笑みを口元に浮かべながら、その小さな箱を開けて・・・中から金属製の棒を取り出して伸ばすと・・・その先には、まるで耳かきのような、熊手の隙間と隙間をくっつけて、スプーンのように平たく、緩やかに凹ませたような、ほぼ丸い形状をしていた物が先端についていたのであった。

大統領は、始めそれを物珍しそうに触ったりしていたのだが・・・すぐに、それでまずは首の付け根、それから頭のてっぺんからつま先まで・・・体のありとあらゆる箇所を掻き始めた。それがまた・・・病み付きになるほどに気持ちが良かったのである。

始めはその大統領は、その‘兵器’を使うのは、1日1時間ほどと決めていたのだが・・・しかしあまりの気持ち良さに、その行為を1時間ぐらいでは止める事が出来ず・・・やがて、明らかに毎日の執務にまで、支障をきたすようになっていってしまったのだった。

やがてこの・・・スキャンダル・・・は記者達に知られる事となり・・・しかし記者達は、大統領の執務が滞っている原因がまさか、小さな耳かきのような物だとは想像だにしなかったので、報道官は記者会見で、あくまでも健康上の問題としたのであった。

そうして二期目を目指す選挙の結果は・・・当然の事ながら、別の候補に敗れて、あえなく僅か一期で、その執務室を去る事となったのであった・・・。


そして、その「兵器」のその後の行方はというと・・・何でも、中立国の何重にもなった鋼鉄製の金庫の中で、厳重に保管されているとの事であった。

・・・本当に、それを開発した科学者達の恐れた通り、誠に恐ろしい兵器なのであった。

・・・何もミサイルやら、空母やら、潜水艦やら、爆弾だけが、恐ろしい兵器なのではない、その事を、図らずもその長さにしてせいぜい12,3㎝ほどの短い棒、が示していたのであった。

・・・犬も歩けば棒に当たる、などとは良く言われる言葉だが・・・この場合は、さしずめ・・・権力者もかゆい所を掻き始めたら、国が滅びる、とでもいったところであろうか・・・?

ともかくも・・・その金庫の扉が開けられない事を、願うのみなのであった。もし次にその扉が開けられて・・・再びその「究極の兵器」が陽の目を見て、使われるような事があった時には・・・この星丸ごと消し飛んで、消えて無くなってしまうのは、疑う余地の無い事実なのであろう。

願わくば・・・そのような事が起きぬ事を神、いや、その小さな棒に祈るのみなのであった・・・。



終わり

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かく兵器 福田 吹太朗 @fukutarro

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