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 肉をたくさん食べたあと、しばらく動けなくて、彼女の膝枕で少し眠った。


 帰り道。

 まだ、夕陽の時刻。

 あの日と同じ、綺麗な夕陽だった。

 肩を貸してもらって、歩く。


「おいしかったなあ、お肉」


「食べすぎかもしれないわ」


「吐かないですよ」


 よろよろと、歩く。


「俺。味がしたんです」


「味?」


「食べ物の、味が。これまで、なんか、記憶が曖昧で。ごはんを食べたことすら覚えてなくて」


「わたしが食べるときに、一緒に食べてた」


「はい。でも、味がしなくて」


「そっか」


「今日は。おいしかったなあ。お肉。幸せだと、ひさしぶりに。思いました」


「そっか。そっかそっか」


「あなたのおかげです」


 貸されていた肩が。

 離れる。

 少しよろけて、なんとかひとりで立てた。


「じゃあ。別れよっか」


 言われるような、気が。していた。


「わたしの役割は、終わり。あなたにはあなたの、人生がある」


 彼女。夕陽に照らされて。


「わたしは、あなたの恋人が死んで、その隙間に入り込むような女だから。あなたの隣にふさわしくない」


 涙が、光る。


「ありがとうございました。少しの間だけでも。わたしといてくれて。ありがとう」

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